猫さんの最近の薬たち

この論文は
近年、新しく出たり、情報が更新されたく薬剤12種類をまとめたものです。
イメージはこんな感じ↓
対象薬剤一覧
| 分類 | 薬剤名(商品名) | 主な適応 |
|---|---|---|
| 鎮痛・鎮静 | Buprenorphine(Zorbium / Simbadol) | 術後疼痛 |
| 抗不安・鎮静 | Pregabalin(Bonqat) | 来院時不安軽減 |
| 抗不安・鎮痛 | Gabapentin | 不安軽減、鎮静補助 |
| 疼痛管理(抗NGF抗体) | Frunevetmab(Solensia) | OA(変形性関節症)疼痛 |
| SGLT2阻害薬 | Bexagliflozin(Bexacat) / Velagliflozin(Senvelgo) | 糖尿病 |
| 抗ウイルス | Remdesivir / GS-441524 | FIP治療 |
| HIF-PH阻害薬 | Molidustat(Varenzin-CA1) | CKD関連貧血 |
| ARB | Telmisartan(Semintra) | 高血圧・蛋白尿 |
| α1遮断薬 | Tamsulosin | 尿管痙攣の緩和 |
| Xa阻害薬 | Rivaroxaban | 血栓塞栓予防(HCM関連) |
| Ghrelin受容体作動薬 | Capromorelin(Elura) | CKD関連体重減少・食欲低下 |
| mTOR阻害薬 | Rapamycin(Felycin-CA1, TriviumVet) | 肥大型心筋症(HCM)進行抑制 |
既にご存知の方も多い薬がほとんどかと思いますが
日本であんまり馴染みがないとすると
モリデュスタットとラパマイシンでしょうか。
モリデュスタットは何度か腎臓病のシリーズでも取り上げておりますが
HIF-PH阻害薬に分類される
経口の腎性貧血の治療薬ですね。
そのうち日本でも発売されるんでしょうかね。
どうなんでしょう。
個人的に興味があるのがラパマイシンですね。
去年のブログでも取り上げておるのですが↓
今年の3月にアメリカのFDAで
猫さんの肥大型心筋症の進行抑制の薬として条件付き承認を得ました。
長期の安全性であったり、効果だったり
まだ充分に検証されていない部分もあるとは思うので
日本での上市にはまだ時間がかかるのかもしれません。
この論文のラパマイシンのところだけ
AIに訳してもらったものを貼っておきますね↓
🔹ラパマイシン(Rapamycin, Sirolimus)―猫における新たな治療的可能性
■ 概要(原文翻訳)
ラパマイシン(別名:シロリムス)はマクロライド化合物であり、猫の**肥大型心筋症(HCM)**の進行抑制に有益な作用を示すと考えられている。
また、慢性腎臓病(CKD)や腫瘍性疾患など、他の慢性疾患にも応用可能性がある。
本剤はmTOR(mechanistic target of rapamycin)経路の阻害薬であり、mTORは2つの複合体 ― mTORC1 と mTORC2 ― を形成するセリン/スレオニンキナーゼである(図9)。
一般に治療効果は主として mTORC1の抑制に由来し、副作用の多くは mTORC2の阻害によるものと考えられている。
mTORシグナル経路は、老化に関与する多因子プロセスの中心的役割を担う。
ラパマイシンの抗老化効果は、タンパク恒常性の調整、ERストレスの軽減、ミトコンドリア呼吸の改善、オートファジー促進などを通じて発揮されると考えられている。
このため、心疾患のみならず慢性腎臓病や腫瘍の進行抑制にも応用が検討されている(表1参照)。
現在、猫のCKDに対する臨床試験も進行中である。
■ 免疫抑制・抗腫瘍効果(研究段階)
猫における免疫抑制あるいは抗腫瘍作用のデータは限られている。
試験管内(in vitro)ではラパマイシンが猫リンパ球の増殖を抑制することが確認されているが、in vivo(生体内)での免疫抑制効果は未検証である。
mTORおよびその活性化型(phospho-mTOR)は、
- トリプルネガティブ型猫乳腺癌(ER−/PR−/HER2−)、
- HER2陰性型腫瘍、
- 扁平上皮癌
で高頻度に発現しており、これらの腫瘍ではmTORC1経路の活性化が細胞増殖を促進している可能性がある。
したがって、ラパマイシンは特定の猫腫瘍における分子標的治療薬となり得る。
■ 心臓病(肥大型心筋症:HCM)への応用
ラパマイシンは猫HCMの進行を抑制する可能性が最も注目されている。
遅延放出型シロリムス錠(商品名:Felycin-CA1, TriviumVet社)が**米国FDAで条件付き承認(conditional approval)**を受けており、
**「無症候性HCMにおける心室肥大の進行抑制」**がラベル適応となっている。
▶ 診断基準(対象猫)
- 左室拡張期壁厚 ≥6 mm
- 高血圧や他の代償性肥大を伴わない
- 心不全・血栓塞栓症の既往なし
- 重度の左室流出路閉塞を伴わない
▶ 主な研究
- Rivasら, 2023(pilot study)
遅延放出型ラパマイシンを週1回経口投与(低用量0.15 mg/kg、高用量0.3 mg/kg、60日間)
→ 用量依存的に心筋肥大抑制・オートファジー促進・抗炎症・抗凝固作用が認められた。 - Kaplanら, 2023(RAPACAT試験)
低用量(0.25–0.38 mg/kg)または高用量(0.52–0.73 mg/kg)を週1回・180日間投与。
→ 低用量群で左室壁厚の有意な減少を認め、副作用の頻度はプラセボ群と同等。
→ HCMの進行を「停止(halt)」したと結論。
→ ただし、心不全や寿命への影響は今後の課題。
■ 副作用・安全性
- 主な副作用:糖代謝異常(高血糖・糖尿病・DKA報告あり)、消化器症状、骨髄抑制。
- 研究30例中2例が糖尿病またはDKAを発症して死亡(1〜5か月後)。
- 投与頻度が週1回であるため、慢性曝露によるmTORC2阻害を避けやすいとされる。
- 投与量0.3 mg/kg週1回が現時点の推奨範囲。
🔹獣医臨床的考察
- HCM治療の新時代の幕開け
ラパマイシンは、現行の対症療法(β遮断薬、抗血栓薬など)と異なり、**病態修飾的(disease-modifying)**に心筋リモデリングを抑える初の薬剤となる可能性がある。
ヒト心不全研究で示されるmTOR阻害の抗線維化・抗肥大作用が猫にも応用可能であることを示唆。 - 糖代謝への影響に要注意
インスリン抵抗性や高血糖誘発例が報告されており、特に肥満猫・高齢猫・プレ糖尿病猫では慎重投与が必要。
投与前後の血糖・尿検査モニタリングが推奨される。 - 長期的安全性は未確立
現在は「条件付き承認」であり、「有効性の合理的期待(reasonable expectation)」は認められたが、完全承認にはさらなる臨床データが必要。
慢性腎臓病・腫瘍・免疫疾患などへの応用は今後の研究課題。 - 臨床での位置づけ
無症候性HCM猫において、心エコー上の肥大進行抑制が確認されつつある。
今後、心不全発症抑制・生存期間延長への波及効果が明らかになれば、HCM治療の中心薬となる可能性が高い。
🔹まとめ(実践ポイント)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 薬剤名 | ラパマイシン(Sirolimus, Felycin-CA1) |
| 作用機序 | mTORC1阻害 → 蛋白合成抑制・オートファジー促進 |
| 適応 | 無症候性HCMにおける心室肥大進行抑制(条件付き承認) |
| 用量 | 0.3 mg/kg PO 週1回 |
| 主な副作用 | 高血糖、糖尿病、DKA、消化器症状 |
| 特記事項 | 腎臓病・腫瘍への応用が研究中。mTORC2阻害を避けるため間欠的投与が重要。 |
こんな感じですかね。
ラパキャットトライアルのとこでも書いたように
観察期間が180日という短い期間なので
心不全発症までの期間を延長させてくれるのかどうかに関してはわかりませんし
長期的な安全性や有効性に関してはわかりません。
それでもFDAが条件付きではあるものの承認するというのは
それだけ猫さんの肥大型心筋症をどうにかしたい、という想いがあるんでしょうかね。
慢性腎臓病への適応なんかももしかしたら出てくるかもしれないとなると
なかなか活躍の場が出てきそうな薬ではありますが
こればかりは待つしかないみたいです。
肥大型心筋症に関しては
現状、心筋肥大を確実に止めてくれるという強いエビデンスのある治療方法がないので
マバカムテンみたいなお薬もそうですが
病態の進行を抑制してくれるような
そういう薬が一日でも早く登場してくれると嬉しいですね。
それでは。