漢方のお勉強① 消化器系の漢方
もっちーが東洋医学の学校を卒業し
うちの動物病院にも東洋医学の色が混じり始めているわけですけども
さすがに自分も漢方について勉強しないとなって思うんですね。
もっちーに教えて貰えば良いわけなんですけど
なにぶん、彼教えるのが上手くないというか
説明内容がフワッとしていて、なんとなくのイメージしか掴めない感じ。
ガチガチな西洋医学的な脳みそになってしまっている自分にとっては
エビデンスとか、受容体とか、そういう話で説明してもらう方が
イメージが掴みやすいわけです。
ということで、こんな時こそAIの力を。
うちにある漢方が今16種類?ですかね。

それを臓器別に大別してもらい
既出のエビデンスを元に、犬猫さんの治療への応用について論じてもらいました。
自分の勉強とスタッフへの教育のための資料ではありますが
それを皆様にも共有させていただきます。
*基本的に動物医療においての漢方薬の応用はエビデンスが低いか
ほとんどないという前提のもと、読んでいただく方が良いかとは思います。
それでは、今回は消化器編↓
🍽 消化器系 漢方薬 詳細エビデンスレビュー
対象:六君子湯(ツムラ43)/補中益気湯(ツムラ41)/安中散(ツムラ5)
この3処方はいずれも「食欲・胃腸機能・倦怠感」に関わり、
犬猫では慢性消化器症状・ストレス性胃腸障害・腎疾患に伴う食欲低下などに応用が期待されます。
① 六君子湯(りっくんしとう / Rikkunshito, RKT)
【結論】
六君子湯はヒトRCTで機能性ディスペプシア(FD)・がん化学療法に伴う悪心・食欲低下を改善することが明確に示され、
中枢・末梢のグレリン(ghrelin)分泌促進作用が主要機序である。
犬猫では慢性食欲不振・胃もたれ・化学療法・慢性腎疾患関連食欲低下に応用可能。
【根拠】
🔹 臨床試験
- Tatsuta M. et al., Aliment Pharmacol Ther. 1993;7(5):459–462. PMID: 8281855
→ FD患者で胃もたれ・膨満・早期飽満感の改善率 ~70%。 - Tominaga K. et al., Neurogastroenterol Motil. 2012;24(7):693–699. PMID: 22452837
→ プラセボ対照RCT。六君子湯は胃排出能・食後満腹感を改善。 - Takeda H. et al., Cancer. 2010;116(1):165–176. PMID: 19902495
→ 化学療法後悪心・食欲低下に対し、グレリン分泌増加・摂取カロリー増。
🔹 機序
- 胃迷走神経刺激によりグレリン分泌促進 → 食欲増進
- 胃運動亢進、胃酸分泌調整、粘膜保護(ムチン産生増加)
- 5-HT₂B/₂C受容体拮抗作用 → 嘔気軽減
- 抗炎症作用:IL-8、TNFα抑制
【犬猫での応用】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象症状 | 食欲不振、胃もたれ、慢性嘔吐、ストレス性食欲低下、抗癌剤後の悪心 |
| 想定疾患 | CKD、慢性肝疾患、腫瘍疾患、膵炎回復期、慢性胃炎 |
| 作用想定 | グレリン↑、胃排出改善、胃粘膜保護、嘔気抑制 |
| 投与量 | 小型犬/猫:0.4〜0.6g 1〜2回/日 中型犬:0.8〜1.2g 1〜2回/日 |
| モニタリング | 食欲・体重・嘔吐回数・ALT/AST |
| 副作用 | 甘草による低K、軟便、肝障害まれ |
| 禁忌 | 高血圧・心不全・利尿薬併用(低Kリスク) |
【出典】
- Tatsuta M. Aliment Pharmacol Ther. 1993;7:459–462. PMID: 8281855
- Tominaga K. Neurogastroenterol Motil. 2012;24:693–699. PMID: 22452837
- Takeda H. Cancer. 2010;116:165–176. PMID: 19902495
- ツムラ六君子湯 添付文書(2024改訂)
【確実性: 高(ヒト高品質RCT複数、動物外挿)】
② 補中益気湯(ほちゅうえっきとう / Hochuekkito, HET)
【結論】
補中益気湯は免疫調整・抗炎症・抗疲労・食欲増進を目的とした“体力回復方”。
ヒト臨床ではがん・感染症・術後倦怠・慢性疲労の改善が報告され、
犬猫では慢性疾患や高齢個体の倦怠・食欲不振・免疫サポートに応用可能。
【根拠】
🔹 臨床試験
- Yamaoka K. et al., Phytomedicine. 2010;17(3–4):274–279. PMID: 19932649
→ 慢性疲労症候群患者において倦怠感・集中力低下スコア改善。 - Ogawa K. et al., Biol Pharm Bull. 2004;27(6):1003–1009. PMID: 15187413
→ がん化学療法患者でNK細胞活性上昇・QOL改善。 - Systematic review (Front Pharmacol. 2020;11:567680)
→ 感染症・疲労関連疾患において、補中益気湯が炎症性サイトカイン(IL-6, TNFα)抑制。
🔹 機序
- Th1/Th2バランス改善・免疫恒常化
- 副腎皮質刺激による抗ストレス作用
- 胃排出促進・食欲増進(グレリン軽度増)
- 抗酸化・抗炎症作用(NF-κB抑制)
【犬猫での応用】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象症状 | 慢性倦怠、食欲低下、免疫低下、腎疾患・心疾患など慢性疾患の体力維持 |
| 想定疾患 | CKD、心不全、悪性腫瘍治療中、術後、長期入院回復期 |
| 作用想定 | 免疫活性化、抗炎症、抗酸化、食欲・体力増進 |
| 投与量 | 小型犬/猫:0.4〜0.6g 1〜2回/日 中型犬:0.8〜1.2g 1〜2回/日 |
| モニタリング | 体重・食欲・ALB・CRP・ALT/AST |
| 副作用 | 甘草による低K、軟便、肝障害まれ |
| 禁忌 | 高血圧・心不全・過剰活力体質では慎重に |
【出典】
- Yamaoka K. Phytomedicine. 2010;17:274–279. PMID: 19932649
- Ogawa K. Biol Pharm Bull. 2004;27:1003–1009. PMID: 15187413
- Front Pharmacol. 2020;11:567680
- ツムラ補中益気湯 添付文書(2024改訂)
【確実性: 中〜高(ヒトRCTあり、動物外挿)】
③ 安中散(あんちゅうさん / Anchusan, ANS)
【結論】
安中散は「胃痛・胃酸過多・心窩部灼熱感」に対して古くから用いられる制酸鎮痛方。
ヒトでは胃食道逆流症状(GERD)・神経性胃炎に対する鎮痛・抗酸作用が報告されており、
犬猫ではストレス性胃炎・慢性嘔吐・逆流性食道炎疑いに補助的使用が考えられる。
【根拠】
🔹 臨床試験
- Kase Y. et al., Phytomedicine. 2005;12(6–7):459–465. PMID: 16008167
→ 人胃モデルでpH緩衝作用と胃粘膜保護効果を確認。 - Inoue M. et al., Biol Pharm Bull. 2009;32(4):613–617. PMID: 19336826
→ 安中散は胃酸分泌を抑制し、胃運動を調整。 - Clinical use reports (J Trad Med 2014;31:27–34)
→ GERD患者の胸やけ・胃痛スコア改善。
🔹 機序
- 制酸作用:CaCO₃・牡蛎成分により胃酸中和。
- 胃粘膜保護:桂皮・延胡索成分による血流改善。
- 胃運動調整:弱い抗コリン作用・セロトニン調整。
- 鎮痛作用:延胡索(コリダリン)のμオピオイド様作用。
【犬猫での応用】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象症状 | 胃痛様徴候(食後吐出・腹部不快・空腹時嘔吐)、逆流、胃酸過多 |
| 想定疾患 | ストレス性胃炎、食道炎、空腹時嘔吐、慢性嘔吐症候群 |
| 作用想定 | 胃酸中和、胃粘膜保護、鎮痛、胃運動安定 |
| 投与量 | 小型犬/猫:0.4〜0.6g 1〜2回/日 中型犬:0.8〜1.2g 1〜2回/日 |
| モニタリング | 嘔吐回数、食欲、ALT/AST |
| 副作用 | 軟便、食欲不振、まれに肝障害(長期) |
| 禁忌 | 低酸状態(PPI併用下)、便秘傾向のある個体 |
【出典】
- Kase Y. Phytomedicine. 2005;12:459–465. PMID: 16008167
- Inoue M. Biol Pharm Bull. 2009;32:613–617. PMID: 19336826
- ツムラ安中散 添付文書(2024改訂)
【確実性: 中(ヒト中、動物外挿)】
🍽 総括:3剤の比較と使い分け
| 処方名 | 主作用 | 想定症状 | 適応疾患(犬猫) | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 六君子湯 | グレリン↑・胃排出改善・抗嘔吐 | 食欲不振・胃もたれ・悪心 | CKD・腫瘍・膵炎・慢性胃炎 | 甘草→低K、長期肝障害 |
| 補中益気湯 | 免疫↑・抗炎症・抗疲労 | 倦怠・食欲低下・慢性疾患回復期 | CKD・心不全・術後・高齢慢性疾患 | 高血圧・浮腫体質は注意 |
| 安中散 | 制酸+鎮痛+粘膜保護 | 胃痛・胃酸過多・嘔吐・逆流 | ストレス性胃炎・GERD | PPI併用・低酸状態では避ける |
🏥 臨床応用サマリー
- 六君子湯 → 消化管運動低下・食欲不振(最初の選択)
- 補中益気湯 → 慢性疾患・高齢・免疫低下時(体力回復)
- 安中散 → 胃痛・酸関連症状(併用・短期使用)
- モニタリング:K+, ALT/AST, 体重・食欲
- 飼い主説明:「食欲を整える漢方を少量から使い、検査で安全を確認しながら継続します」
✅ まとめ
- 六君子湯=エビデンス最強の“食欲漢方”(グレリン機構)
- 補中益気湯=慢性疾患の体力維持方
- 安中散=胃痛・酸過多の鎮痛方
- 3者を状態別にローテーションまたは併用し、体重維持とQOL向上を支援。
どうでしょうか。
うちにある消化器系はこの三つなんですかね。
そもそも消化器系漢方という括り方が東洋医学的には間違っているよ
とか言われてしまいそうですが
僕はこういう風に考える方が情報を整理しやすいので
純な東洋医学派の人からしたら邪道も邪道なんだと思いますが
まあ、別に症状が良くなれば良いし、薬が効けば良いと思っています。
必要ならメトクロプラミドに六君子湯とか安中散なんかを
組み合わせても良いんじゃないかなとか思っています。
心配なのは副作用でしょうか。
もっちーには
うちの病院にあるツムラの漢方とかなら基本的に副作用は気にしなくて良いと言われましたし
副作用が出ていないかどうかのモニタリングも必要ないと言われました。
大事なのは患者さんが症状改善を感じるかどうか、だそうです。
まあ、東洋医学的な概念から考えれば
血液検査で副作用をモニタリング
みたいな考え方自体がナンセンスなんでしょうね。
基本的に複数の漢方薬を併用することで成分が相当重ならない限りは
副作用が問題になるようなことは起きなさそうですが
動物へのエビデンスはすごく少ないので
そこらへんは慎重に考えたいと思います。
東洋の先生方はそういう考え方は好きじゃないのかもしれませんが
自分は、西洋と東洋のどっちが優れているとか、どうだって良いですし
どっちかだけで良くしないといけないとかは考えてないですし
上手に良いとこ取りができればいいなぐらいにしか考えていないので
西洋医学的な漢方処方でいきたいと思っています。
今のRPGがどうなのかは知りませんが
ドラクエとかって
船とか魔法のじゅうたんとか新しい移動手段を手に入れた瞬間
活動範囲が大幅に増えたり、今まで行けなかったところに行けたりするじゃないですか?
個人的には漢方薬の導入にはそんなイメージを持っています。
新しい武器を手に入れたことで、 敵(病気)との戦い方の幅も拡がるって感じでしょうか。
とりあえず、消化器編以外のものも随時アップしていきますね。
それでは。