抗菌薬(抗生物質)について

ANTIBACTERIAL DRUGS

抗菌薬(抗生物質など)に対する考え方

昨今、人医学領域においても抗菌薬の適正使用が声高に叫ばれておりますが、動物医療においても同様に問題となっており、農林水産省からも不適切な抗菌薬の使用に対する注意喚起がなされている状態です。

何で抗菌薬を使用するのが問題なの?と疑問に思われるかもしれません。
抗菌薬という薬剤は、本来は細菌感染に対して使用するお薬です。
細菌感染の原因である細菌の数を減らし病態を快方に向かわせるのが目的で使用するものですが、不適切な使用により大きく二つ問題が生じます。

一つ目は、薬剤耐性菌の発生です。

抗菌薬(抗生物質など)に対する考え方

抗菌薬は目的の細菌だけではなく、正常な最近までやっつけてしまうので、抗菌薬に感受性のある細菌の数が減ることで、抗菌薬の効果のない薬剤耐性菌の割合が増えてきてしまいます。

この薬剤耐性菌が年々増加していることは、医学領域でも世界的に問題となっており、
2050年の時点では世界の最大の死因が『ガン』から『耐性菌』に代わると言われ、薬剤耐性菌は世界最大の不治の病になると推定されております。

正常細菌叢の破綻

二つ目は、正常細菌叢の破綻です。
人間・犬さん・猫さん、どんな動物にも皮膚や消化管内など全身に正常細菌叢というものがあり、その細菌たちが身体を守る役割を担っています。
先ほども述べましたが、抗菌薬は目的菌だけでなく正常な細菌にも影響を与えます。
腸内細菌のバランスが乱れてしまうことをディスバイオーシスと呼びますが、このディスバイオーシスが消化器疾患だけでなく、様々な病気に関連があることが示唆されております。
つまり、抗菌薬の不適切な使用は、薬剤耐性菌の発生リスクを上昇させ、正常細菌叢を壊してしまう可能性があるということです。

当院での抗菌薬の使用

このような問題を防ぐ目的で、当院では可能な限り抗菌薬を適切に処方することを心がけて診療にあたっております。
以前までは次のような例に抗菌薬をする場面が数多く見受けられました。
・犬猫さんの急性の嘔吐・下痢などの消化器症状
・猫さんの頻尿や血尿などの膀胱炎症状
・犬猫さんの去勢手術や避妊手術など一般的な外科手術後の抗菌薬の投与
・犬さんの浅在性膿皮症や毛包炎に対する全身性の抗菌薬の投与

こういった場面での抗菌薬の使用は多くが経験的に行われていたもので、現在では上記のような場面での抗菌薬使用は不必要なことが多いとされております。

当院の場合、急性の消化器症状に抗菌薬を投与することはまずありません。

猫さんの膀胱炎症状に対しても、尿検査にて細菌感染が確認できない場合に使用することはなく、使用する症例は膀胱炎症例全体のごくわずかです。
手術後の感染予防目的で抗菌薬を使用することもやめました。

深在性膿皮症を除く膿皮症や毛包炎などの細菌性皮膚疾患に対しては、消毒薬が外用薬による抗菌療法にてほとんど全ての症例に対応しております。

犬・猫さんとご家族を守るために

不適切・不必要な抗菌薬の投与は、動物の身体に不利益をもたらすだけでなく、そのご家族の健康状態やご家庭の生活環境への悪影響すらあると考えられます。

当院は、動物病院での適切な抗菌薬治療を心がけることで、動物を取り巻く環境全てを守ることに繋がると考え診察にあたりたいと考えております。
よろしくお願いいたします。