自宅で行なうデキサメタゾン抑制試験
この論文の立ち位置ですが
医学的なことに対する一般論を述べるよりも
どちらかというと、ちょっとマニアックな情報についての問い合わせが多いような気がするので
そこに需要があるのかなって勝手に解釈しています。
そんなわけで、来週クッシング症候群のセミナーをすることになっているというのもあり
今日は犬さんのクッシング症候群関連の情報を。

こちらの論文はクッシング症候群の犬さんについて
自宅で低用量のデキサメタゾンを服用してもらい
その後の尿中コルチゾール・クレアチニン比(UCCR)を測定したみたいな研究です。
この研究の背景的なことをお話ししますと
通常、犬さんのクッシング症候群の診断には
LDDST(低用量デキサメタゾン抑制試験)か、ACTH刺激試験のどちらかもしくは両方が用いられることが多く
一応、今のガイドライン上はLDDSTの方が感度が高いので
そちらが推奨されています。
LDDSTの検査の流れを簡単に説明すると
低用量のデキサメタゾンを注射する前と注射後4時間、注射後8時間の3回採血を実施し
血中のコルチゾールの値を測定します。
通常、クッシング症候群ではない犬さんだと
デキサメタゾンを投与することにより、コルチゾールは抑制されるけど
クッシング症候群だと抑制されないですね、っていうのを確認する検査になります。
本当はこの血中コルチゾール濃度の推移もいくつもパターンがあって
よりクッシング症候群と診断しやすいつとか、グレーなやつとかあるんですけど
今回は簡単に説明しているのでざっくりイメージで捉えておいてください。
で、このLDDSTのめんどくさいというか難しいところが
3回採血しないといけなかったり
動物病院での預かり時間が長時間になったりで
犬さんにもご家族にも負担がかかるわけですね。
特に、測定している血中のコルチゾールというものは
いわゆるステロイドホルモンなので
身体にストレスがかかった時に分泌されるようなホルモンになります。
デキサメタゾンで抑制されなかったらクッシング症候群ってなるわけなんですが
めちゃくちゃ緊張しちゃう犬さんとかですと
それって病院でのストレスで上がったから、そう診断されたんじゃないの?って
なることもあるんじゃないかって話です。
一応、病院でのストレスの影響はそこまで・・・みたいな風に言われてはおりますが
それも個体差があるとは思うので
本当にどんなわんちゃんでも大丈夫かってなったら、正直わからないのかなって個人的には思ってます。
あと、採血自体もめちゃくちゃストレスですって子も一定数いると思うんですよね。
採血するたびにストレスでコルチゾールが爆上がり、みたいな状況だと
本当にクッシングなのか、単純にストレスなのかわかんなくなってしまうこともあるんじゃないかなって話です。
少し前置きが長くなりましたが
そんな背景の元
この低用量デキサメタゾン抑制試験と同様の試験が自宅でできれば
ストレスの影響を最小限に抑えられるんじゃないかっていう感じで考えられたのが
この論文のプロトコル。
デキサメタゾンの投与も自宅での内服にし
血中のコルチゾールではなく、尿中コルチゾール・クレアチニン比(UCCR)を利用することで
侵襲性のない検査となっています。
なので、論文を簡単にまとめると
・自宅採尿と経口デキサメタゾンを組み合わせた新しい検査プロトコルの報告
・投与8時間後のUCCRが感度95.3%、特異度92.6%と良好
・採血や長時間の院内滞在が難しいわんこでは、将来的に有用な選択肢になる可能性
・ただし、現時点では単施設・単一測定系で得られた結果で、外部検証や多施設研究はない
・論文のカットオフは測定機器依存で、そのまま他施設に転用できない
・標準的な院内LDDSTやACTH刺激試験に代わる検査として確立されたわけではない
・PDHとADHの鑑別には使用できない
・自宅でお家の人が自由に行う検査ではなく、獣医師による薬剤調製・症例選択・検査室との連携が必要
と、こんな感じです。
実際のプロトコルの詳細を見ると
朝イチで投与前の尿を採尿して、その採尿直後にデキサメタゾンを飲んでもらい
その4時間後に一回膀胱を空にするため排尿してもらいます。
で、投与8時間後の尿を採取するといった流れです。
これで、投与前と投与後8時間後のUCCRを比較するようなイメージですね。
ただ、血中のコルチゾール同様
UCCRもストレスに影響を受けますので
例えば、試験を実施する日に知らない人が突然お家に来たりして
わんわんと吠えないといけないような状態になってしまったら
試験自体が厳しいのかなって思いますし
自宅でできる検査とは言え、色々な制約がありそうな検査です。
今の所、上記のLDDSTやACTH刺激試験に代わる検査というわけではなく
どうしてもこの二つの検査ができない時に考える手段の一つという感じのイメージでも良いかもしれません。
動物病院がとてもストレスに感じるわんちゃんにとっては
こういった検査手法が有用なケースも出てくるかと思いますので
同様の研究が蓄積されていくことによって
より適切なカットオフ値や検査手法が確立されていく可能性はあるように思います。
今後に期待ですね。
そんなわけで、今日は犬さんのクッシング症候群における
自宅での低用量デキサメタゾン抑制試験というお話しでした。
それでは。