犬さんに腹水がある時に考えること
最近、腹水がある子のセカンドオピニオンが続いているので
今日は腹水について考えていきたいと思います。
話題はわんちゃん中心になります。
腹水があるわんちゃんがセカンドオピニオンとして来院されるケースは
多くの場合、急性経過の子ではないので
今回の話では、慢性経過の子の話になりますが
腹水という言葉だけをテーマにすると
脾臓や肝臓の腫瘍が破裂した、いわゆる『血腹・腹腔内出血』も
腹腔内の水なので、腹水となるわけです。
消化管穿孔や胆嚢破裂、膀胱の破裂なども
重度の炎症や漏れる液体により腹水が生じますが
いずれも急性経過となることが多いため、今回のテーマからは逸れてしまいます。
ある程度の慢性経過の腹水症例が来た時に考える鑑別疾患は主に以下のようなものになるかと思います。
・低アルブミン血症
・右心不全
・肝不全や門脈圧更新症
・門脈血栓や大静脈血栓
(・腹腔内の悪性腫瘍)
(・膵炎などによる重度の腹膜炎)
他にもあるかとは思いますが、遭遇頻度が比較的高いのはこんなもんかなと。
悪性腫瘍や腹膜炎などは、状況によっては急性なので括弧をつけています。
で、こっからは日頃診察をする中で感じる私見ですので
学術的な根拠はあんまりないとかご理解いただいた上で読んでいただきたいのです↓
健康診断的やちょっとした軽い症状の診察みたいな感じの時に
偶発的に見つかるケースが最も多いのが蛋白漏出性腸症かなって思っています。
蛋白漏出性腸症は文字通り、消化管からタンパク質が漏れる『病態』を指す言葉なので
これ自体が病名ではないので注意が必要になります。
蛋白漏出性腸症の原因となる疾患は主に三つ(厳密なことを言えば他も挙げられるかもですが、ここは簡単に)。
リンパ管拡張症、慢性炎症性腸症、消化管腫瘍ですね。
これらが消化管に存在することで、タンパク質が消化管から漏れてしまうわけですね。
その結果、タンパク質の中でも比較的分子量の低いアルブミンが漏れてしまい
アルブミンが1.5g/dlを下回るぐらいで、腹水が出現します。
これは、もともと血液中のアルブミンの膠質浸透圧というものにより
血液中に液体を引っ張る方向で力が働いていたも状況で
血中アルブミンが低下した影響で、水分を引っ張れなくなり、腹腔内に液体が漏れて腹水となる
そんな感じの機序で腹水が生じます。
ただ、この蛋白漏出性腸症が原因で腹水が起こる場合
血中アルブミン濃度が1.5g/dlよりも下がらないと通常は起こらないわけです。
もちろん、生体なので例外もあるとは思います。
1.6で腹水が出る子もいれば、1.4でも腹水のない子もいるとは思います。
ですが、目安の1.5g/dlという数字は結構大事なんじゃないかなって僕は思います。
何でかと言うと
『低アルブミン血症のある犬さんに腹水がありました』
→はい、蛋白漏出性腸症ですね。
ってなっちゃってるケースがすごく多いような気がしてまして。
いやいや、アルブミン確かに低いけど2.0あるんだったら
腹水の原因は別の病気でしょ、ってなるんじゃないかなって思うんですね。
確かに蛋白漏出性腸症の発生頻度は低くないと思いますが
アルブミンが2.0g/dlで、腹水がめっちゃ溜まってて
エコー上、消化管の構造異常がなく、消化器症状もないような症例で
腹水の原因が蛋白漏出性腸症とするのは無理があるんじゃないかな、って思っています。
もう少しちゃんと考えて原因を一つ一つ探っていけば
本当の原因が見つかるんじゃないかな、って。
蛋白漏出性腸症と診断されました、というセカンドオピニオン症例はすごく多いんです。
たぶん多い時は週に一件か二件ぐらいある気がするぐらい多いんです。
でも、半分ぐらい違う病気が隠れていたりする感じですが
パターンとしては次のような感じ。
本当に蛋白漏出性腸症のケースだと
・食事の変更はされているけど適応を間違えているケース
・盲目的にステロイドやシクロスポリンなどで免疫抑制をかけられているケース
・血栓塞栓症の可能性などを気にされていないケース
なんかが多い気がします。
蛋白漏出性腸症と診断されたけど違うかったケースだと
・蛋白漏出性腸症ではなくて蛋白漏出性腎症だった子
・右心不全だった子
・そもそも機械のエラーなのか検査手技のエラーなのか低アルブミン血症ですらなかった子
なんかがいたりします。
色々とありますね。
どんな病態に関してもそうだとは思いますが
獣医師がマニュアル的な感じで診察をして
その診察の途中に思考を挟む余地がない診療においては
その先の診断や薬の処方は間違った方向に進むことが多い気がします。
当たり前かもしれませんが
常に考えることってめちゃくちゃ大事です。
動物病院さんによっては
患者さんが受付に来て症状を述べた段階ですでに薬が用意されている病院さんもあるそうです。
そういったマニュアル診療や方程式診療みたいなスタイルは
一定の患者さんにはハマるのかもしれませんが
症状が改善しないイレギュラーな場面には弱さが露呈すると僕は思います。
規模がデカくなるとマニュアル化したくなる気持ちもわかるんですけどね。
医療に関しては、それは少し難しい部分もあるんじゃないかなって思っています。
それでは。