犬さんの高トリグリセリド血症に対するフィブラート系薬剤の使用について
ゴールデンウィークは初診の方が多いという話は昨日書きましたが
そんな中、セカンドオピニオン目的で当院を来院された患者様の中に
薬を5種類も6種類もたくさん飲んでいらっしゃる患者様が何人かいらっしゃいました。
全く別の動物病院さんでの治療にはなるものの
その子達に共通して、フィブラート系の薬剤が処方されておりました。
フィブラート系薬剤というのは
中性脂肪が高い時に処方される薬剤であるものの
通常は第一選択の治療にはならず
最初は低脂肪食やオメガ3脂肪酸などによる治療を試みるのが一般的です。
また、中性脂肪が高くなっている原因に基礎疾患があるのであれば
そちらの治療を優先すべきとされています。
中性脂肪が高くなった時の流れに関しては
去年の春にこちらのブログを書いていますので、よろしければ参考に↓
よっぽど中性脂肪が高く、それにより何かしらの悪影響が起こっている症例
もしくは、起こりそうな症例で
かつ低脂肪食やオメガ3脂肪酸などの治療に反応がない場合に使用する場面って
そうそう多くないと思うんです。
当院でも今飲んでいる子はいないですし。。。
なので、同じ日に別の動物病院さんの別の犬さんの症例で
フィブラート系薬剤を処方されている例に出会う確率ってまあまあ低いんじゃないかなと思うんですが
当院の認知度が上がってきた影響とは考えにくいので
どちらかというと
『中性脂肪が高いですね。はい、この薬を飲んでください』的な感じで
処方されてしまっている現状が市内では増えているのかなあ、という印象です。
それかフィブラート系薬剤を処方する流れが流行ってたりするんでしょうか。。。
まあ、実際はわかんないんですけど
一応、副作用もある薬剤なので使用する際はきちんとモニタリングされた方が良いとは思います。
長期的なフィブラート系薬剤の安全性ってどうなの?って気になる方は
こちらの論文を参照してください。

ベザフィブラートの長期的な安全性と効果について調べた論文です。
AIに解説してもらうとこんな感じ↓
論文詳細まとめ:犬の高トリグリセリド血症に対する長期ベザフィブラート使用
1. 論文基本情報
タイトル: Long-term safety and efficacy of oral bezafibrate use in dogs with hypertriglyceridemia
著者: Castonguay-Poirier M, Fifle L, Javard R, Huvé R(DMVet Veterinary Center、カナダ・モントリオール)
掲載誌: Journal of Veterinary Internal Medicine, 2026年、Vol.40(2)
論文種別: 後ろ向き臨床研究(オリジナル)
2. なぜこの研究が重要か
ベザフィブラート(BZF)は犬の高TG血症に対する脂質降下薬として以前の前向き試験(De Marco et al., 2017)で30日以内の短期安全性・有効性が確認されていた。しかし30日を超える長期使用のデータが存在しなかった。本研究はその空白を埋める初の長期後ろ向き研究として位置付けられる。
3. 対象・方法
研究デザイン
後ろ向き観察研究(2016〜2023年、単施設)
包含基準
- 高TG血症(TG > 221 mg/dL)に対しBZFを処方された犬
- 投与開始から最低1ヶ月後のTG・生化学フォローアップが存在する
- ベースライン時のALT・CKが正常範囲内
除外基準
- ベースラインTG < 221 mg/dL(4頭)
- 治療コンプライアンス不良(1頭)
- フォローアップなし(1頭) → 最終解析:55頭
症例の3群分類
| グループ | 定義 | 頭数 |
|---|---|---|
| Group 1(PH) | 原発性高TG血症 | 23頭(42%) |
| Group 2a(SHs) | 続発性・基礎疾患治療が不変 | 15頭(27%) |
| Group 2b(SHu) | 続発性・基礎疾患治療が変更あり | 17頭(31%) |
BZFの用量・投与法
- 投与頻度:1日1回(コンパウンド薬を使用、体重ベース用量設定)
- 開始用量中央値:5.5 mg/kg(範囲:3.6〜11.6 mg/kg)
- 最終用量中央値:5.5 mg/kg(範囲:2.2〜11.6 mg/kg)→ 大半の症例で用量変更不要
治療反応の定義
- 適切(Adequate): ベースラインからのTG減少 ≥ 50%
- 不十分(Inadequate): ベースラインからのTG減少 < 50%
モニタリング項目・時点
TG・ALT・CKを、投与開始前(T0)、1・3・6・12・>18ヶ月後に記録
患者背景
| 項目 | データ |
|---|---|
| 平均年齢 | 10 ± 3歳 |
| 性別 | 去勢雄56%、避妊雌44% |
| 主な品種 | ミニチュアシュナウザー(11頭)、雑種(10頭)、ヨークシャーテリア(7頭)、ミニチュアプードル(7頭)、シーズー(3頭)他 |
| 主な併発疾患 | 糖尿病(11頭)、慢性膵炎(9頭)、副腎皮質機能亢進症(9頭)、甲状腺機能低下症(8頭) |
| 食事 | 低脂肪食42頭(76%)、加水分解タンパク食7頭、低脂肪食非給与13頭(24%) |
| オメガ3補給 | 39頭(71%)が受けていた |
4. 結果
4.1 TG低下効果(全体)
| 時点 | 評価頭数 | 適切反応率 | TG減少中央値 |
|---|---|---|---|
| 1ヶ月 | 31頭 | 97%(30/31) | 82% |
| 3ヶ月 | 27頭 | 93%(25/27) | 約83% |
| 6ヶ月 | 18頭 | 89%(16/18) | 約89% |
| 12ヶ月 | 18頭 | 89%(16/18) | 約84% |
| >18ヶ月 | 12頭 | 92%(11/12) | 約82% |
| 最終観察 | 55頭 | 93%(51/55) | 85%(全群合計) |
全群で、ベースラインから最終観察時点までのTG低下は統計学的に有意(p < 0.01)。最終観察時のTG濃度は3群間で有意差なし(p = 0.13)。
4.2 群別TG推移
| グループ | ベースライン TG中央値 | 最終観察時TG減少中央値 |
|---|---|---|
| Group 1(PH) | 594 mg/dL(244〜2085) | 85%(19〜96%) |
| Group 2a(SHs) | 903 mg/dL(235〜2733) | 85%(7〜99%) |
| Group 2b(SHu) | 869 mg/dL(358〜3211) | 87%(記載範囲内) |
ベースラインTGはGroup 2bがGroup 1より有意に高値(p = 0.02)だったが、最終観察時には3群間に有意差なし(p = 0.13)。
→ 基礎疾患の治療が不十分でもBZFは有効にTGを低下させたという点が本研究の最重要な臨床的発見。
4.3 用量変更の実態
- 55頭中、BZF用量を増量したのは1頭のみ(Group 2a、糖尿病犬:5.2→6.6 mg/kg)
- 増量後に適切反応を達成
- この症例では後に血糖コントロールも改善→BZFによるインスリン感受性改善の可能性示唆
4.4 有害事象(55頭中4頭=7%)
| 症例 | 有害事象内容 | 用量 | 経過 |
|---|---|---|---|
| 症例1 | 嘔吐・悪心(初回投与24時間以内) | 5.4 mg/kg | 48時間で消失、2.7 mg/kgで再開→問題なし |
| 症例2 | 間欠性下痢(投与1週間後) | 5.0 mg/kg | 休薬48時間で消失、4.0 mg/kgで再開→問題なし |
| 症例3 | 出血性胃腸炎(投与7週間後) | 4.7 mg/kg | 一時休薬→5ヶ月後に4.0 mg/kgで再開、以後徐々に増量しても問題なし |
| 症例4 | ALT上昇(672 U/L;基準値18〜121):投与6ヶ月後 | 5.8 mg/kg | BZF中止後6週でALT 41%低下、しかしTG急増(483→1323 mg/dL)。他の脂質降下薬(キトサン、スタチン等)に変更するも改善せず |
CK上昇(横紋筋融解):55頭中0例
ただしCKはベースライン+1回以上のフォローアップデータが揃っていたのは55頭中24頭のみであり、解釈に注意が必要。
5. 考察の重要ポイント
① BZFは原発性・続発性を問わず効果的
他のフィブラート系薬(フェノフィブラート)の先行研究と比較しても遜色ない成績(TG減少84〜88%)。続発性でも基礎疾患が不完全にしかコントロールされていないGroup 2bで最終観察時のTGがGroup 1と差がなかったことは臨床的に非常に重要。
② 開始用量5.5 mg/kgは適切
ほぼ全ての症例で増量なしに適切反応を達成。ほとんどの症例で「5.5 mg/kg SID」が実用的な標準出発用量と考えられる。
③ ALT上昇(肝毒性)は遅発性の可能性
ヒト医学では投与開始後数ヶ月〜数年後にフィブラート関連肝炎・肝硬変様変化が報告されている。本研究でも6ヶ月後に出現した事例が確認された。1〜3ヶ月の初期モニタリングだけでは不十分であることを強く示唆。
④ 低脂肪食なしでも92%が適切反応
低脂肪食非給与の13頭中12頭(92%)が適切反応。フィブラート単独でも高TG血症のコントロールは可能だが、ガイドラインでは低脂肪食との併用が推奨されており、膵炎・胆嚢疾患のリスク管理の観点からも食事管理は継続すべき。
⑤ 無反応例の考察
1頭(副腎皮質機能低下症+生理的用量プレドニゾロン投与+加水分解タンパク食)が18ヶ月以上で適切反応を示さなかった。同様の条件の他の3頭は反応したことから、低脂肪食の欠如や遺伝的脂質代謝異常が無反応の一因として考えられた。
6. 臨床獣医師に即座に使える情報
✅ 適応の判断
BZFを検討すべき症例:
- TG > 221 mg/dL(特に食餌管理・オメガ3脂肪酸でTGが正常化しない場合)
- 膵炎・胆嚢粘液嚢腫・タンパク尿・インスリン抵抗性のリスクが高い症例
- 続発性高TG血症でも基礎疾患のコントロールが不完全な場合(BZFの追加で有意にTG低下)
- ミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリア、ミニチュアプードル等の高リスク犬種
開始前の必須確認事項:
- ベースラインのALTおよびCKが基準値内であること
- 糖尿病・甲状腺機能低下症・副腎皮質機能亢進症・ネフローゼ症候群の除外(または診断)
- 12時間以上の絶食後採血でTG > 221 mg/dL を確認
💊 処方の実際
| 項目 | 推奨内容 |
|---|---|
| 用量 | 5.5 mg/kg SID(開始用量の中央値・最終用量の中央値ともに同一) |
| 用量範囲 | 3.6〜11.6 mg/kg(体重に合わせてコンパウンド調剤) |
| 投与頻度 | 1日1回(SID) |
| 投与形態 | コンパウンドカプセル(体重ベース用量調整のため) |
| 食事との併用 | 低脂肪食の継続を推奨(ただし薬単独でも有効) |
📋 モニタリングプロトコル(本研究から推奨)
| 時点 | 検査項目 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 開始前(T0) | TG・ALT・CK・血算・生化学・尿検査 | ベースライン確認、禁忌除外 |
| 1ヶ月後 | TG・ALT・CK | 有効性確認(97%が適切反応)、消化器症状チェック |
| 3ヶ月後 | TG・ALT・CK | 継続有効性確認 |
| 6ヶ月後 | TG・ALT・CK | 遅発性肝毒性の発見に重要(本研究でALT上昇はこの時点) |
| 12ヶ月後 | TG・ALT・CK | 長期維持確認 |
| 18ヶ月以降 | TG・ALT・CK | 定期モニタリング継続(6ヶ月ごと推奨) |
⚠️ 重要: ALT上昇は1〜3ヶ月では陰性でも6ヶ月以降に出現する可能性がある。長期投与例では6ヶ月以上たってもALTモニタリングを継続すること。
⚠️ 有害事象への対応フロー
消化器症状(嘔吐・下痢)が出た場合 ↓
48時間休薬 → 症状消失を確認 ↓
初回用量の50〜75%に減量して再開 ↓(大半は問題なく継続可能)
ALT上昇(基準値上限の3倍以上)が出た場合 ↓
BZF一時中止 ↓
6週後にALT再検(中止後に改善するかを確認) ↓
改善あり → BZF関連肝毒性と判断、継続困難
改善なし → 他原因を精査 ↓
代替薬(フェノフィブラート等)を検討
※スタチン・キトサンへの変更ではTGコントロール不良の可能性あり(本研究の症例より)
📌 治療反応の評価基準
| 判定 | 基準 | 次のアクション |
|---|---|---|
| 適切反応 | ベースラインからTG ≥ 50%減少 | 同用量で継続 |
| 不十分な反応 | ベースラインからTG < 50%減少 | 基礎疾患の再評価・用量増量・食事管理の強化を検討 |
| 目標値(参考) | TG < 200 mg/dL | ヒト医学での膵炎再発予防目標値(犬でも参考値として使用可) |
🔍 続発性高TG血症における注意点
続発性高TG血症では基礎疾患の治療を最優先するが、TG > 1000 mg/dL 等の重症例では膵炎予防の観点から基礎疾患治療と並行してBZFを開始する多モーダルアプローチが合理的(ヒト医学のガイドラインに基づく推奨)。
本研究のGroup 2bでは基礎疾患治療が変更された場合でも、BZF追加によりTGが有意に低下し、最終観察時のTGが原発性群と同等まで改善したことが示されている。
7. 研究の限界(臨床解釈への影響)
| 限界 | 臨床的影響 |
|---|---|
| 後ろ向きデザイン・単施設 | エビデンスレベルはやや低い、前向き研究での検証が必要 |
| 内分泌検査の非標準化 | 続発性の一部が原発性に誤分類された可能性 |
| フォローアップ時点の非統一 | 有害事象が見逃された可能性あり |
| CKデータの欠損(55頭中24頭分のみ) | 横紋筋融解の頻度が過小評価の可能性 |
| コンパウンド薬の含有量未確認 | 実際の投与量にばらつきがある可能性 |
| 治療反応を絶対値でなく相対値で評価 | TGが非常に高い症例では50%減少でも目標未達の場合あり |
| 胆石発生の腹部エコーフォローアップなし | フィブラート関連胆石リスクが評価不能(ヒトでは既知のリスク) |
8. 今後の課題・展望
- ペマフィブラート(PMF)の犬への応用: ヒトのRCTではBZFより高い脂質低下効果と肝・腎への安全性プロファイルの優位性が報告されており、犬でも前向き検討が期待される
- BZFの投与間隔: ヒトでは8〜12時間毎投与も行われており、難治例での1日2回投与も選択肢となりうる
- 遺伝性脂質代謝異常の解明: 無反応例には遺伝的リポタンパクリパーゼ異常が関与している可能性があり、犬でのキャラクタリゼーションが必要
9. 総括
本研究の最重要メッセージは以下の3点に集約される。
① BZFは原発性・続発性を問わず、長期的(最大18ヶ月以上)にわたって高いTG低下効果(中央値85%減)を維持する。
② 5.5 mg/kg SIDが実用的な標準用量であり、大半の症例で増量不要。
③ 有害事象は全体の7%(4/55頭)と少ないが、肝毒性は6ヶ月以降に出現する可能性があるため、長期投与においても定期的なALTモニタリング(少なくとも6ヶ月ごと)を継続することが不可欠。
評価している頭数はそんなに多くはないですし
一部のデータに抜けている部分もあるので、エビデンスのレベルはそんなに高くはないですが
やはりフィブラート系の薬剤は中性脂肪を下げることに関しては
良好な結果を出してくれる薬剤ではありそうで
有害事象の発生率もそれほど高くないのかなとは思います。
ただ、中性脂肪を高くしてしまう基礎疾患が他にあったとしても
数値自体を下げてしまうので、基礎疾患の存在を隠してしまうことにもつながりかねないですし
横紋筋融解の可能性であったり
肝障害のリスクもあるので
処方するとなると、きちんと適応を判断し
継続する場合はモニタリングをした方が良い薬剤だとは思います。
少なくとも
健康診断とかで中性脂肪が高いですね、はい、飲んでください
みたいな、そういう薬剤ではないということは確かかと思います。
それでは、今日はこのへんで。