犬さんの高脂血症への治療介入
春になりました。
フィラリアの検査の際に
犬さんの健康診断目的で
全身の血液検査をされる機会が多くなる季節ではないかと思います。
肝臓の数値が少し高いと言われた。
腎臓の数値が去年よりも上がっていた。
みたいな感じで色々な異常を動物病院で指摘される場面も多いかと思います。
中でも
よく見られる異常の一つとして『高脂血症』が挙げられます。
高脂血症とは通常、血中の中性脂肪やコレステロールの数値が高いことを指しますが
人間とは違い
犬さんの高コレステロール血症が問題となることは少ないとされておりまして
主に治療するかどうか悩むのは
中性脂肪の数値が高い時になります。
ただ、血液検査で中性脂肪の数値が高い時に
治療を実施する基準みたいな、ガイドライン的なものが定まっていないので
ここの獣医師の判断による部分も多い分野ではないかと思います。
なので、今回書くのはさっき聴いたセミナーの一意見として読んでください。
高脂血症、特に中性脂肪の値と関連するのではないかと考えられる
犬さんの病気・病態としては以下のようなものが挙げられます。
膵炎
空胞性肝障害
胆嚢の運動性低下
タンパク尿や腎臓の糸球体障害
シュウ酸カルシウム結晶
眼病変
これらの中には
それなりに関連性についてのデータがあるものもあれば
人間の方では言われているけど、わんちゃんではどうなんだろう?ってものもあります。
ただ、可能性としては上記のような疾患・病態に関連する可能性があるということです。
例えば
尿検査でタンパク尿が重度に出ており
UPCもとても高い、となった場合に
中性脂肪が高いことが原因となることがあるということですね。
実際に、中性脂肪を下げるような治療介入をするだけで
タンパク尿が減少していくこともあります。
これは
病理検査上、腎臓の糸球体に脂肪が沈着するような所見や
脂肪塞栓が起きている所見が確認されているので
それらの所見が関連しているみたいですが
経過を見た報告によると18ヶ月間の観察の中では
クレアチニンの数値に影響はなかったみたいなので
この脂肪の沈着みたいな所見が実際に腎機能を低下させるかはわかりません。
ただ、タンパク尿は出ているので
もっと観察期間が長ければ腎機能低下の原因になってもおかしくないのかなとは思います。
こんな感じで
色んな病態に絡んでくる高脂血症でありますが
じゃあ実際に血液検査で中性脂肪の値が高いと言われたらどうするか。
それについて簡単に。
まずは、その血液検査をした時が、食後なのか絶食状態なのか、がポイントになります。
食後に中性脂肪の値は高くなる可ことがわかっておりますので
その結果が、食後2時間とか4時間とかなのであれば
12時間絶食時の再検査を実施すべきかとは思います。
ただ、食後だったとしても中性脂肪が高くならない子も多いので
一概に食後だけの高値だから大丈夫とは言えないんですけど
そこら辺はどう判断すべきなのかは結論が出ておりませんで。
食後の血液検査で中性脂肪が500overとかの値を示す子は
もしかしたら脂質代謝が苦手な可能性はあるのかもしれません。
そこら辺がわかってくると今後考え方が変わることはあるかもしれませんが
今のところは、絶食時に中性脂肪の数値が高い、という時だけ
治療介入するかどうかの対象になると考えていただいて問題ないと思います。
12時間絶食時の血液検査でも中性脂肪の数値が高い場合
具体的には
300-400mg/dlぐらいの軽度の上昇の場合は
体重管理や低脂肪食、オメガ3脂肪酸や5-ALAなど
マイルドな治療介入で良いのではないか、という感じでした。
中性脂肪の数値が300-400mg/dl以上の中程度以上の高脂血症に関しては
先に上記の軽度の場合の治療方法を実施し
それでも数値が改善しない場合に
フィブラート系の薬剤の使用を検討するというお話でした。
もちろん、高脂血症に関連する合併症が
すでに重度に出ている場合には
いきなり薬剤による治療介入を検討しないといけない場面もあるかもしれませんが
フィブラート系薬剤も肝障害や筋障害など可能性もあるので
使用するかどうか、使用後のモニタリングは慎重に行う方が良いと思います。
そんなわけで
今日は犬さんの高脂血症への治療介入をテーマに書いてみました。
高脂血症自体が危ないというよりは
それに関連する疾患や病態に発展しないというような感じのイメージでしょうか。
参考になりましたら幸いです。
それでは、今日はこの辺で。