腎臓の超音波検査 腎皮質大動脈比
昨年発表されたこちらの論文。

猫さんの腎臓の皮質の厚さと大動脈の径を比で算出することで
CKDやAKIなどの病態の評価に使用できないか、というものを検討した研究です。
久々かもしれませんが
ひとまずAIに投げるとこんな感じ↓
まず結論
この論文の一番大事な結論は
猫の腎皮質厚(RCT)を大動脈径(Ao)で割った RCT:Ao ratio は
体重やBCSの影響を受けにくく、CKDでは低く、AKIでは高くなるため
猫の腎疾患評価に使える可能性がある、という点です。
特に実用上は、
- 正常猫の平均 RCT:Ao ratio は 1.27 ± 0.15
- CKDでは 1.05 ± 0.19 まで低下
- AKIでは 1.70 ± 0.26 まで上昇
- CKD識別カットオフは 1.15
- 感度 75%
- 特異度 80%
- AKI識別カットオフは 1.45
- 感度 90%
- 特異度 89%
というのがこの論文の中心です。
研究の背景
著者らはまず、腎エコーでよく使われる腎長径には限界があると述べています。
腎長径は腎臓全体の大きさであり、皮質・髄質・腎洞脂肪まで含むため、実際の病変部位や病期を反映しきれない可能性がある、という立場です。
人医ではむしろ皮質厚の方が腎機能、特にeGFRと相関しやすいという流れがあり、犬でもRCTやRCT:Ao ratioの有用性が報告されていました。
猫では、正常でも皮質が高エコーに見えやすく、エコー輝度だけでは評価しづらいため、皮質の“厚さ”に着目する意義がある、というのがこの研究の出発点です。
この研究の目的
目的は2つです。
- 正常猫におけるRCT:Ao ratioの基準的な値を示すこと
- その比がCKDやAKIの診断補助として使えるかを検証すること
仮説としては、
- RCTは体重やBCSと相関するだろう
- でもRCT:Ao ratioなら体格の影響を受けにくいだろう
- CKDではRCTおよびRCT:Ao ratioは低くなるだろう
- AKIでは逆に高くなるだろう
という立て方です。
研究デザイン
後ろ向き・多施設共同研究です。
2021年1月から2024年3月までの5施設の猫症例を集めています。
最初に620例をスクリーニングし、最終的に357例が解析対象となりました。
- 正常猫 152
- CKD 171
- AKI 19
- ACKD 15
CKD内訳は、
- Stage 1: 36
- Stage 2: 110
- Stage 3: 18
- Stage 4: 7
でした。
つまりCKDはStage 2がかなり多く、Stage 3–4は少なめです。ここは解釈上かなり大事です。
症例の分類基準
正常群
正常群は、
- 尿路症状なし
- 血液検査で azotemia なし
- Cre/SDMA上昇なし
- エコーで病的構造変化なし
というかなり厳しめの基準です。
ただし、medullary rim sign(MRS)は単独なら正常扱いとしています。
AKI群
AKIは、
- 急性発症の臨床症状
- 3日以内のazotemia発現
- CKD既往なし
などで分類。
CKD群
CKDはIRISに従って分類し、Stage 1–2をearly、Stage 3–4をlateとしています。
Stage 1の定義には sCre、SDMA、尿比重、蛋白尿を利用しています。
ACKD群
ACKDは、既存CKDの所見に加え、
- sCreの20%以上増加
- AKIを示唆する臨床徴候や尿所見
で分類しています。
測定方法
ここは実臨床でかなり参考になります。
RCTの測り方
- 腎のmidsagittal plane
- 2本の平行な高エコーのpelvic diverticular line が見える断面を使う
- 腎被膜の trailing edge から、renal pyramid 基部の leading edge までの最短垂直距離
- ventral側で最も見やすい3か所を測って平均
- cranial pole / caudal poleに限定しない
という方法です。
つまり、先生がよく感じるような
極の部分の edge shadowing を避けて、見やすいventral cortexを複数点測る
という設計になっています。ここは実践的です。
大動脈径の測り方
- sagittal plane
- 腎動脈分岐のすぐ後方
- 収縮期最大径
- 内腔径を trailing edge から leading edge で計測
です。
正常猫で何がわかったか
1) 左右差はほぼない
正常猫では、
- 左腎RCT 3.71 ± 0.57 mm
- 右腎RCT 3.71 ± 0.56 mm
で差はありませんでした。
RCT:Ao ratioも左右差なしです。
2) 正常猫の代表値
正常猫全体の平均は、
- RCT = 3.71 ± 0.53 mm
- RCT:Ao ratio = 1.27 ± 0.15
でした。
3) RCTは体重に引っ張られる
RCTはBWと中等度の正相関を示しました。
回帰式は
RCT (mm) = 0.220 × BW(kg) + 2.657
です。
つまり体重が重い猫ほど、当然ある程度は皮質も厚く見える、という結果です。
4) でもRCT:Ao ratioは体重やBCSの影響を受けにくい
RCT自体はBWと相関しましたが、RCT:Ao ratioはBWやBCSとの有意な関連がほぼありませんでした。
著者らはこれを、この指標の大きな利点として強調しています。
5) MRSの有無は大きな影響なし
正常猫でMRSあり・なしを比べても、
- RCTに有意差なし
- RCT:Ao ratioにも有意差なし
でした。
つまり、単独MRSはこの指標を大きく狂わせないと考えてよさそうです。
病的腎で何がわかったか
群ごとの平均値
とてもわかりやすい結果です。
- 正常
- RCT 3.71 ± 0.53
- RCT:Ao 1.27 ± 0.15
- CKD
- RCT 3.24 ± 0.68
- RCT:Ao 1.05 ± 0.19
- AKI
- RCT 4.97 ± 0.79
- RCT:Ao 1.70 ± 0.26
- ACKD
- RCT 3.97 ± 0.86
- RCT:Ao 1.56 ± 0.38
でした。群間差はいずれも有意です。
ただしAKIとACKDの差は有意ではありません。
この結果から、病態イメージとしては
- CKD → cortical thinning
- AKI → cortical thickening
- ACKD → AKI寄りの厚みを取りうる
という理解でよさそうです。
CKDステージとの関係
CKD 4ステージ間では、RCT:Ao ratioに有意差があり、ステージが進むほど低下傾向を示しました。
ただし、
- Stage 3 と Stage 4
- Stage 2 と Stage 3
- 正常と Stage 1
の一部では有意差がつきませんでした。
これはかなり大事で、要するにこの指標は
- CKDの存在をざっくり拾う
- early と late を大別するのにはある程度役立つ
- でもStage 1を正常から完全に切り分けたり、Stage 2/3/4を細かく厳密に分けるほどの精度はない
ということです。
論文中でも、normal vs early CKD vs late CKD vs AKI の4群にまとめると、全群間で有意差が出ています。
このあたりからも、細かいIRIS stageの刻みより、病態の大枠把握に向いている印象です。
ROC解析
ここが診断ツールとしての本丸です。
CKDの識別
正常 vs CKDでのROCでは、
- AUC 0.84
- カットオフ 1.15
- 感度 75%
- 特異度 80%
でした。
つまりgood diagnostic toolという評価です。
AKIの識別
正常 vs AKIでは、
- AUC 0.94
- カットオフ 1.45
- 感度 90%
- 特異度 89%
でした。
こちらはexcellent diagnostic toolという評価です。
つまり、この論文だけで見ると、この指標はCKDよりむしろAKIでより鋭く効いていると読めます。
ACKDについての解釈
ACKD群は
- 正常より高い
- CKDより高い
- でもAKIとは有意差がない
という結果でした。
著者らは、ACKDはAKIに近い値を取りうるが、CKD・正常・AKIとかなりオーバーラップするので、この比だけでACKDを診断する信頼性は低いと述べています。
ここはかなり妥当です。
実臨床でも、ACKDは画像だけでなく臨床経過・血液検査・尿検査の総合判断になります。
BLKSについて
BLKS(big kidney–little kidney syndrome)18例も別解析しています。
大きい腎と小さい腎で、
- 腎長
- RCT
- RCT:Ao ratio
はいずれも有意差がありました。
著者らは、BLKSでは単純なCKD stage評価だけでは不十分で、片側の代償性肥大や片側性CKDの可能性も考えるべきと議論しています。
つまり左右平均だけで見ると病態をならしてしまう危険がある、という示唆です。これは臨床的にかなり大事です。
著者らの考察のポイント
良い点
著者らが強調している強みは、
- RCTは体重の影響を受ける
- でもRCT:Ao ratioは体格補正として機能しうる
- MRSの影響をあまり受けない
- CKDで低下、AKIで上昇という方向性が明確
- 特にAKI識別能が高い
というところです。
なぜCKDで下がるのか
CKDでは線維化・実質減少に伴って皮質が薄くなるという、かなり素直な病理生理です。
なぜAKIで上がるのか
AKIでは炎症や浮腫、特にouter medullaの腫脹が関係し、結果として超音波上のcortex相当部が厚く見える、という考え方です。
この論文の限界
ここはかなり大事です。
1) 後ろ向き研究
当然ながら後ろ向きで、施設も複数にまたがるため、症例選択や撮像条件のばらつきは避けにくいです。
2) GFRを直接測っていない
先生が最初に気にされていた点ですが、この論文はGFRとの直接相関を見た研究ではありません。
あくまで正常/CKD/AKIの群間比較と、診断カットオフ設定が主題です。
したがって、「RCT:Ao ratio はGFRの代理指標として使える」とまではこの論文単独では言えません。
3) Stage 3–4やAKI、ACKDの症例数が少ない
AKI 19例、ACKD 15例、CKD Stage 4は7例しかありません。
そのため、重症群や複雑群での推定精度には不安が残ると思っておいた方がいいです。
4) interobserver / intraobserverの検証がない
測定は1人のレジデントが行っており、検者間再現性の詳細な解析は出ていません。
なので、実地臨床でどれくらい再現できるかは今後の課題です。
5) 血圧評価は使っていない
CKD評価の補助情報として重要になりうる血圧は使っていません。
6) 画像上の形態異常を伴う特定疾患は除外
PKD、FIP、腎腫瘍などは除外されているので、一般的な“腎疾患全般”にそのまま外挿はできません。
臨床的にどう使えそうか
私ならこの論文は、次のように理解します。
使える場面
- 猫の腎エコーで、「この皮質、体格のせいで厚いのか薄いのか」 を少し補正したいとき
- CKDっぽい薄さなのか、AKIっぽい腫れなのかを定量的に補助したいとき
- 腎長径だけでは判断が曖昧なとき
注意点
- Stage 1 CKDの拾い上げには限界あり
- ACKDの判別には弱い
- GFR評価の代替とはまだ言えない
- 必ずCre/SDMA/尿比重/尿蛋白/経時変化/他の画像所見と合わせるべき
という感じです。
AIによる要約だったり、AI的な意見は以上のような感じです。
慢性腎臓病の診断の際に
超音波検査を実施することは多いものの
どちらかというと腎臓の長径を測定して大きさを確認したり
尿管結石や腎臓の腫瘍など
腎臓に明らかな構造的な異常や
通常の慢性腎臓病とは異なる病態が隠れていないかを
診断するために実施することが多いかと思います。
この論文の感じだと
ざっくりではあるもののCKDの進行とともに
この腎皮質と大動脈の比の数値も小さくなっていくみたいなので
同じ猫さんでのモニタリングでも利用できそうかなと感じました。
あとは、AKIの時の方がそれなりに有用っぽいので
診断する猫さんと初めまして、とかの時に
単純なCKDの進行なのか
AKI on CKDなのかの判断基準の参考とかにはなるのかもしれないですね。
一応、参考までに測定の際の図を論文から引用して載せておきますね。

誰の参考になるかはわかりませんが
誰かのお役に立てば良いかなと思います。
それでは。