僧帽弁大動脈VTI比
心エコー図学会の中で症例発表や臨床研究の発表があったのですが
今回の学会で最優秀賞に輝いたのが
『犬の粘液腫様変性性僧帽弁閉鎖不全症における僧帽弁大動脈 VTI 比による僧帽弁逆流量評価の有用性』
というものでした。
犬さんの僧帽弁閉鎖不全症に対する病気分類は
従来はACVIMのステージ分類を用いることが一般的かと思いますし
ご存知の方も多いかと思います。
特に、ステージB2の後半でピモベンダンの投薬を考慮する場面に使われる指標としては
レントゲンでのVHS、エコーでのLVIDDnとLA/Ao比になります。
ただ、これって
僧帽弁閉鎖不全症の本態であるはずの僧帽弁逆流の逆流量とかを直接評価しておらず
左心房や左心室が大きくなっているか、という間接的な分類だったりするわけなんです。
本来だったら左心室から左心房へと逆流する
僧帽弁逆流の血流量の重症度を評価した方が良いんじゃないか、という視点から
測定を試みられていたわけです。
ただ、従来の方法ですと、やや煩雑だったりもあり
ルーチンでみんながみんな測定するのは難しかったりしたわけです。
そこで今回の僧帽弁大動脈VTI比の登場です。
VTIってなんなの?ってなる方のために一応書いておくと
VTIとはvelocity time integralのことで
そのままだと速度時間積分ってことになるのですが
今回は心エコーの話なので、血流速度の時間積分値を表します。
通常、心臓の中では
左心房 →(僧帽弁)→ 左心室 → 大動脈の順番に血流が流れるわけですが
僧帽弁逆流がある犬さんにおいては
左心室から左心房へと逆流する血流が認められます。
この逆流量がどのくらいかを知りたいわけなので
僧帽弁逆流量 = 左心房から左心室に入る血液量 ー 左心室から大動脈へと流れる血液量
という式で出せるんじゃない?ってことで
それぞれの血流量を測れば逆流量がわかるやん、ってなわけです。
通常、左心房から左心室へ入る血液量は
左室流入波形と言いまして、E波とA波の二層性からなる血流で表されます。
ここの血流波形の積分を取れば血流量がわかるわけで
同じように
左室流出路のところの血流波形の積分を取っちゃえば
大動脈へ流れる血液量がわかるわけですね。
この二つの血流のVTIを比で表すことで
僧帽弁逆流量の重症度がわかるんじゃないかってことが今回の発表でした。
結果として
僧帽弁閉鎖不全症の際に測定される一般的な他のパラメータとの相関関係も良好でしたし
ACVIMのステージ分類では表されないような重症度評価にもつながる可能性もありそうですし
何より、普通に心エコーができる獣医であれば誰でも測れるのが良い点かと思います。
今後、犬さんの僧帽弁閉鎖不全症における病態評価の一つの重要指標になるかもしれません。
そうやって、より詳細に病態を把握することで
内科治療における内服薬の調整につながったり
より適切な時期に外科的治療を勧めることができるようになったりするかもしれません。
早速当院の循環器診療にも取り入れていきたいと思います。
それでは、今日はこのへんで。