尿中シスタチンBについて
昨日お伝えしておりました通り
今日は、比較的新しい検査項目である
尿中シスタチンBについて、もう少し掘り下げて書いていきたいと思います。
というか、昨日聴いたセミナーから抜粋して、まとめた感じなので
獣医さんたちはそっちのセミナーを聴いてもらった方がいいと思います。
そもそもシスタチンBってなんぞや?というお話ですが
シスタチンBは細胞内に存在する非常に小さなタンパク質で
犬さんの腎細胞からも分離されています。
血液中の濃度は非常に低いため
血液が糸球体で濾過されて、尿中にシスタチンBが排泄されるというルートは
ほぼ無いと考えられているタンパク質です。
じゃあ、どういう時に尿中にシスタチンBが出現するのかって
話になるんですけど
基本的には
尿細管上皮細胞が壊死したりして、細胞が崩壊し
その尿細管細胞内のシスタチンBが尿細管液に漏れ
そのまま尿中に排泄されるという流れになります。
なので
『尿中シスタチンB=尿細管障害のバイオマーカー』ということになります。
じゃあ、どういう時にこの検査が使えるのかなあってのが
気になるかと思うので
今のところわかっている尿中シスタチンBについての情報を書いていきます。
①犬さんの急性腎障害においてはクレアチニンよりも早期に障害を検出できる
というのがこちら↓で報告されています。

また、急性腎障害の重症度によっても尿中シスタチンBの数値が変わってくるみたいで

こちらの報告では、こんな感じで
AKIの重症度によって、シスタチンBの数値に差があったことがわかっております。

また、同じ報告の中で
こんな感じで↓

尿中シスタチンBの数値が急性腎障害の予後予測にもなるんじゃないかということが
わかっています。
ちなみに、これ、生存群と死亡群の間で比較した際に
尿中シスタチンBは明らかに数値に差があるのに
血中のクレアチニン濃度では差がないことがわかっておりまして
クレアチニンは急性腎障害の予後予測には使えないけど
尿中シスタチンBは使えるんだぜ、みたいな結果になっています。
面白いですよね。
今までは全部わんちゃんのお話ではありましたが
猫さんについての報告もありまして↓

猫ちゃんの急性腎障害でも尿中シスタチンBの値が顕著に上昇することがわかっておりまして
やはり猫さんにおいても
急性腎障害になってから生存した群と死亡した群で
死亡群の方が明らかに尿中シスタチンBの数値が高くなっていたことから
予後予測の参考になる可能性はあると思います。
犬猫さんに関する尿中シスタチンBについて概要はこんな感じでしょうか。
ほとんどが急性腎障害絡みの話ではあるので
その場で検査結果がわからないという点がややネックなところではありますが
慢性腎臓病の進行予測のツールとしても有用な可能性はあると思いますし
それなりに使い勝手はありそうな検査です。
テルミサルタンとかACE阻害薬とか
NSAIDsとかトリロスタンとか
腎臓へ影響を与えるような薬物を投与する前、投与後のモニタリングとして
尿細管障害が起きていないかをチェックする検査項目としては有用な気がしますし
全身麻酔後、手術後などの急性腎障害が起こりそうなイベント時の測定も有用だと思います。
定期的にクレアチニンを評価している子で
前回と違ってちょっと数値上がったけど、これってどうなの?の
評価にも合わせて使えるかもしれません。
色々と試してみたいと思います。
ただ、さっきもっちーとも話し合いになりましたが
結局のところ、尿細管障害がわかったとして、何ができるのか?
ってなった時に、直接的に尿細管障害を治療することができないという点が少し悩みどころ。
測定の意味があるのか?ってなりそうなこともあるのかもしれません。
『この子の慢性腎臓病は進行が他の子よりも早いかもしれません。』とか
『急性腎障害からは脱せたとしても、この子の長期予後は悪いかもしれません。』などの情報を
伝えることに意味がありそうな場面では、測定が有用なのだと思います。
どんな検査でもそうですが
検査というものは使い方次第で
意味あるものにも無意味なものにもなり得ます。
そこら辺、きちんと考えた上で実施しないといけませんね。
というわけで、今日は尿中シスタチンBという新しい検査について書いてみました。
この情報が何かしらお役に立てれば幸いです。
明日は急な予定変更がなければ
思いっきりブログの中で愚痴を書く予定です。
不快に思われる方は、読まないことをお勧めします。
それでは。