猫さんの多発性嚢胞腎治療薬としてのトルバプタン
猫さんの多発性嚢胞腎(PKD)は
一般的には長い年月をかけて進行する遺伝的な側面を持つ疾患で
末期には慢性腎臓病の末期のような状態になり腎不全となり死を迎える疾患です。
人の常染色体顕性多発性嚢胞腎(ADPKD)と似ているとされています。
人のADPKDの治療法としては
腎臓の中における嚢胞形成を直接的に抑制するように働くとされる
バソプレシン受容体拮抗薬であるトルバプタンが推奨されています。
これらの背景から
このトルバプタンを猫さんの多発性嚢胞腎にも臨床応用できるのではないか
ということで
岩手大学の先生方が
多発性嚢胞腎の猫さんとトルバプタンの使用に関して
長年研究されています。
今日は雨ということで
来院件数も少なめということもあり
先ほど、猫さんの多発性嚢胞腎に対するトルバプタンの臨床応用についての
最近の話を動画で聴いておりました。
結論的には
トルバプタンの使用により
猫さんの腎臓の中の嚢胞形成は一定抑制できるんではないか、ということ。
ある程度の進行抑制には効果的な結果になっていました。
ただ、いくつかの注意点がありまして
まず大前提として
このトルバプタンというお薬がめちゃくちゃ高いということ。
薬価を検索していただくとお分かりになるかもしれませんが
15mg錠ですと先発品でおよそ一錠1300円。
ジェネリックでも600円から700円ほど。
使用できる猫さんはできれば3mg/kg/dayか4mg/kg/dayで使用したい、的なお話だったので
5kgの猫さんで15mg錠が1日1錠のイメージ。
これはなかなかキツイのかな、と思います。
もう一つの大きな注意点としては
この多発性嚢胞腎。
一般的には緩徐進行型といって、ゆっくり進行するタイプが多いみたいですが
中には急速に進行するタイプもあるみたいで
その猫さんにはなかなか薬の効果が期待できないか
薬を使用しても進行を抑えるまでにはいかないみたいな結果になっていました。
ここら辺は注意が必要だと思います。
高い薬をせっかく使ったのに効かないじゃん、的なことにもなりかねないということですね。
ここら辺は投薬前のモニタリングと、事前のインフォーム
投薬後のモニタリングがすごく大事になってくるということかもしれません。
あとは導入期とモニタリングですかね。
人の方ではトルバプタンの使用を開始する場合は
専門医がついた状態での入院管理を必要とするそうで
猫さんに対する使用においても
低用量からスタートし、慎重なモニタリングの元
薬用量を少しずつ増やしていく必要性がありそうです。
モニタリングの方法に関しては
超音波検査にて、左右の腎臓の体積を計算し
その左右の合計を指標として
治療判定を行なっていくやり方が一般的なようです。
僕自身、今多発性嚢胞腎の猫さんの経過を追わせていただいているのが
お一人だけですが
その子は生後6ヶ月の時から診察させていただいているので
もう3年目ぐらいになりますが
特に腎臓の総体積に影響を与えるほどの嚢胞はまだ形成されていないと
判断しているので
まだ投薬を開始はしておりませんが
どのくらいのタイミングで治療薬を検討すべきなのか
慎重に判断したいと考えています。
その子のためにも
もう少し多発性嚢胞腎に対するトルバプタンの臨床応用についての
知見が増えてきてくれたらなあ、と思っております。
何か情報をお持ちの方がいらっしゃたら教えてください。
お願いします。
また、多発性嚢胞腎にお悩みの猫さんも
もしよければご相談ください。
それでは、今日はこの辺で失礼いたします。