トリロスタン投与による医原性副腎皮質機能低下症
今月いっぱいは先日の学会の見逃し配信の視聴期間なので
これ面白そう!と個人的に思ったものを
自分自身の勉強にもなるので
ここでも紹介していきます。
今日のテーマは犬さんのクッシング症候群関連のお話です。
犬さんの副腎皮質機能亢進症、いわゆるクッシング症候群は
わんちゃんの内分泌系の疾患の中で発生率が高く
比較的よく遭遇する疾患です。
そのクッシング症候群の内科治療の第一選択とされるのが
トリロスタンという薬剤でありまして
体の中での副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)の合成を阻害するお薬です。
このトリロスタンを服用中のクッシング症候群のわんちゃん
2年間の観察期間において
累積で15%(24/156頭)の子に
医原性の副腎皮質機能低下症の発生が見られたという報告があるそうです。
ステロイドホルモンの発生を抑制した結果
医原性のアジソン病みたいな感じになってしまったということですね。
具体的には
投薬開始後に嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失などの症状が出てきたり
酷い場合は、虚脱症状みたいな感じになってしまう感じです。
この医原性のアジソン。
トリロスタンの投与量とか投与頻度とか投与期間とは
直接的な関係なく発生してしまうみたいでして
クッシング症候群の治療をトリロスタンでされるワンちゃんにとっては
注意が必要なものなんですね。
また、この医原性副腎皮質機能低下症は
一時的なものと永続的なものに分かれるのですが
一時的な場合は
トリロスタンを休薬し、ステロイドホルモンを投与することで
またクッシング症候群(ステロイドホルモンが過剰になる状態)の症状が
出てしまうもので
そうなるとまたトリロスタンの投薬を再開していかないといけないわけですが
同じ感じでやると、またアジソンになっちゃうかもしれないので
身体から出ているステロイドホルモンの状態を細かくモニタリングしながら
投与量を考えないといけません。
ただ、そのモニタリングに使用されていた副腎の予備能力を測るための
ACTH負荷試験は
2回血液検査しないといけなかったり
ACTH製剤が副腎を壊死させてしまう可能性も稀ですがあったり
そこら辺を考えると
頻繁に実施するのはなかなか大変なのです。
そこで今回の発表では
尿中コルチゾール・クレアチニン比(UCCR)という検査が
この医原性のアジソン病のモニタリングとして使用できるんじゃないか、というものでした。
この検査は
以前にも、クッシング症候群の診断の記事で
クッシング症候群の除外診断に結構使えますよ、的なことを書いた気がしますが
家で尿を取ってくるだけの検査で
その尿中のコルチゾールの値とクレアチニンの値を外注検査で測ってもらうだけなので
特に動物にも負担のかからない検査です。
今回の発表では
このUCCRをモニタリングすることで
ずっとアジソンのままなのか
それともまたクッシングが再発してきている感じなのか
身体の中のステロイドホルモンの状態をある程度把握できそうな結果でした。
医原性アジソン病のモニタリングとして
UCCRは有用なのかもしれません。
クッシングの治療中に
体調が悪くなってきた犬さんのモニタリング項目として
UCCRを活用するのは良いかもしれないですね。
体調悪くなくても、普段のモニタリング項目の一つとして
経過を追うのも面白いのかもしれません。
そんなわけで
今日は医原性副腎皮質機能低下症と尿中コルチゾール・クレアチニン比のお話でした。
それでは。