治療しない選択肢
今月号の小動物腫瘍科専門誌 Veterinary Oncologyのテーマは
『高侵襲性腫瘍にフォーカスする』です。
その中での項目に
『治療しない選択肢』というものが各腫瘍について書かれてありました。
侵襲性が強い腫瘍ならではの記述なのかもしれません。
積極的に治療をするだけが最善の選択肢とは限りません。
積極的に治療を実施した結果
反対にご家族様が後悔することになることだってあり得ます。
だからこそ
積極的に治療をする選択肢
治療しない選択肢の双方について
しっかりとご家族と相談した上で選んでいくことが重要となります。
今回の雑誌でも取り上げられていた血管肉腫を例に取ると
血管肉腫は進行が早く、転移する確率が高いことが問題です。
つまりは検診などで見つけることは困難であり
腹腔内出血などの命の危険に晒された状況になってから気づくことも多い悪性腫瘍です。
積極的に腫瘍と闘ったとしても血管肉腫に勝つことは難しいとされています。
その上でどうするか。
血管肉腫に対する積極的な治療を挙げるとすれば
脾臓摘出などの局所治療やドキソルビシンなどの化学療法が挙げられます。
特に転移や出血性の貯留液が出ている場合は
予後が極めて悪いとされており
上記の積極的治療を実施したとしても長期生存という点においては期待できないことが多いです。
こうやってネガティブなことばかりを書いた後に
それでも積極的治療を実施しますか?、と聞かれたら
治療しないという選択を選ぶ人が増えそうですね。
今日のブログは
やらないという選択をとることもありなんだよ
ということが書きたかったので
それはそれで良いんですが
じゃあ血管肉腫の症例には実際どうしてるの?って聞かれたら
当院は結構、積極的治療を実施するケースが多いです。
脾臓の腫瘍が破裂して運ばれてくるケースが一般的かもしれませんが
急性期の治療として輸液・輸血を実施し
状態改善後、脾臓摘出。
その後はドキソルビシンを三週間に一回投与していく、という
そんな流れを勧めることが多いです。
先述したように
血管肉腫についてはネガティブなデータが揃っているのに
何で治療は積極的な方を勧めるの?ってなってしまいますが
僕個人としては
手術であったり、抗がん剤で合ったりを実施した子の方が
その後の生活の質がすごい良い気がするからです。
確かに長期生存が難しいことに変わりはありませんし
下手したら数週間後
良くても術後から半年ぐらいで亡くなってしまう子がほとんどです。
それでも、少しでも本人が楽な期間を過ごせる可能性があるなら
チャレンジしてみたいなというのが僕の個人的な考え方です。
ご家族様が手術はどうしても嫌だ、と言えば
もちろんやりませんし
抗がん剤投与した後に、生活の質が落ちちゃうぐらいなら
途中でやめるとは思います。
いつでも治療しない選択肢という方向にシフトできるような状況で
積極的治療を勧めるという
そんな変な感じで僕自身は臨床をやっています。
積極的治療をするだけが正しいわけじゃないですし
消極的な緩和治療が悪いというわけではありません。
色々と相談した上で
その子とご家族様にとって一番良いだろうと選んだ選択肢が
一番正しいんじゃないかなって思います。
できるだけ多くの選択肢を提示できるのも大事ですが
あんまり迷わせてしまうのも、それはまた違うわけで
先生だったらどうします?と聞かれることも多いですが
そこら辺は自分の感情や思いを込めたインフォームになっちゃうのは仕方ないよなあって
最近は思います。
そう考えると
ある程度、患者さんと腹割って話せる関係であった方が
いざという時に話が早いのだと思います。
それでは。