センベルゴ服用後の正常血糖ケトアシドーシス
先日のブログでも紹介しました
猫さんの新しい糖尿病治療薬であるセンベルゴを
当院でも処方させていただく機会がありました。
今日はその猫さんにセンベルゴを処方してから
ちょうど二週間が経った時点での経過観察でした。
食欲も活動性も全く問題なさそうで
血糖値も110ぐらい、血中へのケトン体の出現もなく
フルクトサミンも292と、かなり良好な経過を辿ってくれました。
僕の個人的な印象になりますが
適応を間違えなければ
センベルゴはかなり良いお薬だなという印象になりました。
適応を間違えなければ、と表現したのは
少し前に
センベルゴを服用するようになってから
正常血糖ケトアシドーシスに陥ってしまった猫さんが
それなりの数出てるそうだよ、って話を友人の獣医師に聞いたからです。
実際に、その友人の病院でも
インスリンからセンベルゴに切り替えた猫さんの1人がケトアシドーシスになってしまったとのこと。
そもそもセンベルゴというお薬自体は
猫さんの体内から内因性のインスリンが出ているという前提のお薬であって
インスリンが出ていないインスリン依存性の糖尿病の猫さんに使用してしまうと
ブドウ糖は尿へ排泄されるので血糖値は上昇しないかもしれませんが
インスリンが出ていないので細胞内にブドウ糖が取り込まれることはなく
栄養不足に陥った身体はケトン体を産生することになり
過剰なケトン体産生により身体はアシドーシス(ケトアシドーシス)となってしまいます。
通常の糖尿病の際のケトアシドーシスを糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と呼びますが
センベルゴなどのSGLT2阻害薬使用時には
血糖値は上昇しないので、正常血糖ケトアシドーシスと呼ぶそうです。
ケトアシの際には水和と血糖値のコントロールが大事になりますが
血糖値が正常だった場合には、低血糖のリスクがあるためインスリンがなかなか使いづらく
糖を補いながらの慎重な対応を余儀なくされるため
正常血糖ケトアシドーシスの治療は想像するに大変そうな気がします。
なので、そうならないためにも
センベルゴの使用を考える際には
猫さんがインスリンを出しているか、そうでないのかを見極める必要性があるわけで
糖尿病という病気に対する理解度に関しては
インスリンによる注射治療以上に大事なんじゃないかって話です。
巷では
1日2回のインスリンの注射治療から解放されて、1日1回の飲み薬に切り替えるだけで
糖尿病が良好にコントロールできる!みたいなイメージになってしまっている感もあるので
安易に切り替えるのには注意が必要だと思います。
特に、インスリンによる治療歴の長い猫さんに関しては
センベルゴに切り替えるのはなかなか難しいんではないかと個人的には思います。
僕自身、糖尿病の専門医でも内分泌の専門医でもなんでもないですが
糖尿病治療を実施する前に
血中のインスリン濃度を測定してから治療薬を選択すれば良いんじゃないかと思うんですよね。
インスリン濃度が低ければ、インスリン依存性となりインスリン投与が必要なわけですし
インスリン濃度がそれなりにあれば、インスリン抵抗性の糖尿病なわけですから
センベルゴによる治療も検討しても良いんじゃないかと思うんです。
でも、治療前のインスリン測定についてメーカーさんに聞いてみたんですが
別に測定しなくても大丈夫ですよー的な感じだったので
推奨されているわけではないみたいです。
僕の個人的な経験になりますが
以前は
犬猫さんともに糖尿病治療開始前にインスリン濃度を測定していました。
わんちゃんは元々インスリン依存性の糖尿病が多いとされておりまして
その通りインスリン濃度が低い子がほとんどでした。
ただ、猫さんはインスリン抵抗性の子が多いよとは言われておりますが
僕の印象ではインスリンが出ていない子も多かったように思います。
糖尿病を発症してからどのくらい時間が経過しているかにもよりますし
病院に連れて来られるまでの期間にも差があるので一概には言えませんが
一般的に言われるほどは
猫さんの糖尿病の際にもインスリンは分泌されていないんじゃないか、と僕は思います。
だから、センベルゴに変えたらケトアシになる子がそれなりにいるんじゃないかと。
当時はセンベルゴみたいな薬がなかったので
どっちみちインスリン治療は最初は必要でしたし
インスリン治療から離脱できる猫さんも確率的には低かったので
インスリン濃度を測定しても測定しなくても一緒か、ってことで
最近では糖尿病の治療にあたりインスリン濃度を測定することは無くなりました。
でも、センベルゴみたいなお薬が登場したのであれば
治療開始前にまた血中インスリン濃度を測定してみても良いんじゃないかなあって思うんですが
あんまりそうやって公言してくださる人もいらっしゃらないので
どうしたもんかなあと思っております。
結構、高いお薬ですし
せっかく新しいお薬に切り替えたのに
一週間とかでケトアシになって入院治療が必要になりました、ってなると
ご家族的にも病院的にも、なかなか辛い話になりますので
どうにか適応・不適応を見極める術があれば良いんですけどね。
僕の個人的な対策としましては
新たに猫さんの糖尿病を診断
↓
治療開始前にインスリン濃度を外注に出しておき、ひとまずはインスリンで治療開始
↓
外注検査の結果、体内からインスリンが出ているのであればセンベルゴでの治療を提案
出ていないのであれば、インスリン治療を継続。
と、こんな感じでいこうかなと考えています。
問題はインスリン治療を開始しちゃった子だと
インスリン濃度を測定した際に
内因性のものと外因性のものの区別がつかなくなるてことですよね。
そういう場合は、インスリンを1日ぐらい休んで測定してみたら良かったりするのか
どうなのか、そこらへん誰か教えてくれないですかね。
また、話が長くなりそうなので
この辺で終わりにします。
とりあえず
センベルゴへの切り替えは注意して行いましょうってことと
きちんと糖尿病のことを理解している獣医師に処方してもらう方が良いと思います。
ケトアシドーシスは命に関わる状態なので、その点だけご注意を。
センベルゴ自体は、僕としては良さそうな薬だと思いますので
適応を見極めて引き続き使用していきたいと思います。
それでは、今日はこの辺で失礼いたします。