敗血症と自宅で体温測定
生命を脅かすような感染症に対する生体反応の結果
身体中のあちこちで組織障害や臓器障害を起こしてしまうような状態のことを
敗血症と呼びます。
(⇧敗血症.comより引用。)
世界のあちこちで数秒に1人が命を落としてしまうほど
敗血症とは恐ろしい病態であり
人医学領域においても、日常的な敗血症対策が重要と考えられております。
この敗血症という病態に対して
人医学領域においては数年に一度ガイドラインの改訂が行われ
より早期に治療介入を行うことで
救命率を上げるような努力がなされています。
一方で、動物医療においての敗血症に対する認識は
残念ながら昔の概念のままの獣医師も多く
僕が学生時代に習ったような
敗血症=菌血症みたいな感じだったり
敗血症になるのって、肺炎とか子宮蓄膿症ぐらいでしょ?みたいな
そんな感じで捉えられてしまったままな気がします。
敗血症なんてそんなに遭遇しないでしょ!?って考えられてしまうかもしれませんが
人間でそこまで身近に存在するにも関わらず
犬猫さんで滅多にないなんてことはないんじゃないかと僕は思います。
実際は、ただ診断まで至らずに亡くなってしまっているケースが多いのではないかと推察されます。
基本的には感染症がきっかけとなり敗血症は起こるわけですから
基礎疾患としてどこかに感染巣がなければなりません。
腎盂腎炎、細菌性肺炎、細菌性胆嚢炎、細菌性腹膜炎、心内膜炎、椎間板脊椎炎などが
鑑別としては挙げられるのかもしれませんが
高齢の特にわんちゃんで多い病態としては
歯周病が関連しているケースが多いのではないかと考えています。
中高齢以上になると
程度の差はあれど
歯周病の有病率はほぼ100%に近くなるんじゃないかってぐらい
ほぼ皆様、歯周病を持っておられます。
歯周病は口腔内の細菌による感染症なわけでありまして
感染巣となりうるものを皆様持っているわけですね。
普通に食事も採れて、元気もあって
基礎疾患もない若い子だったら
歯周病があったからといって、全身性の敗血症に発展するケースなんて
ほとんどないとは思われますが
これが高齢動物になってきて
腎疾患や循環器疾患、悪性腫瘍などを持病として抱えてしまったり
免疫力が落ちてくるような状況になると
途端に話は変わります。
なんとなく今日元気がないし、食事もあんまり食べないなあ
みたいな感じで様子を見ていたら
半日したら少し呼吸も速くなってきて・・・
そんな感じで次の日になったら、ぐったりしてきた、的な。
そのような流れで来院されるケースも少なくありません。
動物病院で体温を測定してみたら
39.0℃ちょっとでやや熱が高かったり、逆に37℃前半と少し低かったり
呼吸数も早く、血圧も低め、みたいな。
血液検査をしたら、腎数値高かったり、黄疸が出ていたり、血小板が低かったり・・・
ああ、敗血症だなって感じで
入院下での治療となりますが
複数の臓器障害が併発したような状態まで発展していたり
昇圧剤や輸液療法を実施しても血圧の上昇を認めない場合は
亡くなってしまうことも少なくありません。
もしかしたら
何かおかしいかな?って感じた1日目の時点で
動物病院を受診できていれば、結果は変わったかもしれません。
動物病院への受診をご家族が決心できるかどうかって
すごく大事だなって日々感じておりますが
敗血症症例の場合、そこを後押ししてくれる一つのポイントは
体温にあるんじゃないかと個人的には考えています。
(*僕がただ言っているだけなので、ちゃんとしたデータとかがあるわけじゃないです。)
今でも、犬さんの多中心型リンパ腫の治療として
化学療法(抗がん剤)を毎週のように実施している子に対しては
自宅での体温測定をお願いしておりまして
自宅で38.5℃以上になる場合は、すぐに病院に来てくださいとお伝えしております。
抗がん剤使用時の発熱性好中球減少症も
抗がん剤の影響で白血球数が下がり(免疫力が低下し)
その影響で腸内細菌や口腔内の細菌の影響で発熱が起こってしまう状態なわけですから
雰囲気は敗血症に近いものがあります。
じゃあ、同じように自宅で体温を測る習慣を持ってもらえれば
なんか今日元気がないなあ、って時に発熱していたらすぐに気づけるんじゃないかと
思うんですね。
特に14,15歳を超えてくるような高齢の犬猫さんで
歯周病がまあまあひどい犬さんや
猫風邪症状を元々持っている猫さんなんかは
毎日でなくていいので、普段から自宅での平熱を知っておくのは
意外に大事なのでは?と感じています。
実際に測定するのは
できれば直腸温が良いとはされているので
もしご希望の場合は
それ専用の体温計を病院でお出しすることもおっしゃってください。
僕は今、基礎疾患があって高齢の犬猫さんには
みんなこの体温計を出して、自宅で測定してもらおうかなって考えています。
もし直腸温が測定できない時は
耳の中(鼓膜音)や脇の下での測定もできるとはされておりますが
犬さんは耳の中の温度の方が脇の下よりも高く
猫さんは脇の下の方が耳の中よりも高いとされており
低い方で測定すると過小評価してしまうので
その点は注意が必要かもしれません。
人間は自宅に体温計がある場合が多いと思いますし
家で測定して熱があって病院を受診した際に
家では○○.○℃あったんです、みたいな感じでお医者さんに伝えることも多いと思います。
そんな感じで、動物医療においても
自宅で熱を測る習慣みたいなのがあれば
もっと早期に病気に気づけることってあるんじゃないかなあと思い書いてみました。
ただ、人間と比べて
犬猫さんに関しては、発熱すること自体があまり多くはないので
若い健康な子に関しては必要ないとは思います。
どっちかというと、いつ何があっても・・・みたいな高齢な子で
基礎疾患をすでに持っていて何かの治療中です、みたいな
そういう子がやると効果的かもな、って話です。
なんか長くなってしまいました。
すみません。
自宅での体温測定が救命率の向上に繋がってくれればなって思います。
それでは、今日はこの辺で失礼いたします。