無治療の慢性腎臓病の猫の経過
という発表が
先日の獣医腎泌尿器学会ののなかの演題の一つにありました。
慢性腎臓病(CKD)と診断された猫さんの中には
進行因子を持つ猫さんと、進行因子のない猫さんの2パターンあります。
進行因子って書くと、何のことかわかりにくいかもしれませんが
高血圧とか蛋白尿とか高リン血症とか腎性貧血とか、そういうやつですね。
何かしらの薬剤による治療介入をした方が良さそうな慢性腎臓病の猫さんというのが
進行因子を持つ猫さんということになります。
逆に、BUNが55とかで、Creが2.8ぐらいで、SDMAが25ぐらいで
明らかに尿比重も低いけど、腎臓の構造自体はそんなに異常はなくて・・・
という子は、慢性腎臓病のIRISステージ2の後半とかに分類されるんでしょうが
血圧も正常でタンパク尿もなく、貧血や高リン血症もない子も多いです。
そういう子が、今回でいうところの進行因子のない慢性腎臓病の猫さんということです。
で、この猫さん達を何の治療もせず
長期間観察してみたら、結果どうなったか?というのが
今回の発表です。
何の治療もしないという、この治療に何が含まれるかというと
以下のものが全て除外されています↓
腎臓病療法食(リン制限、タンパク質制限系の食事です)
レニン・アンギオテンシン系阻害薬(ACEIとかARBとか)
アムロジピン(血圧を下げるお薬です)
ベラプロストナトリウム(ラプロスですね)
リン吸着剤(サプリメントや薬剤も含みます)
炭素系吸着剤(コバルジンに代表される炭のお薬です)
アルカリ化剤(代謝性アシドーシスの是正に使用します)
造血剤(腎性貧血の治療薬ですね)
皮下点滴(言わずもがな、皮膚の下に点滴入れるやつです)
腎臓系サプリメント(アゾディルとかを指しているのかと思われます。)
この研究には26頭の猫さんが組み込まれ
IRISステージ1の子が6頭、2が16頭、3が4頭だったらしいです。
この26頭のうち
慢性腎臓病の進行が認められた頭数が5頭。
それらの進行するまでの期間の範囲が539-1897日だったそうです。
一方で、進行しなかった猫さん達の方を見ていくと
追跡可能期間が175-3158日だったそうですが
12頭で2年後、9頭で3年後まで慢性腎臓病の進行を認めなかったことが確認されました。
ちなみに、慢性腎臓病の進行というものを
クレアチニン濃度がベースラインよりも25%以上上昇したことと定義されています。
なので、クレアチニン3.0→3.3とかは進行にはなりません。
3.0→3.8とかを進行とする感じですね。
この研究から色んなことが考えられると思います。
進行群の特徴としては
基本的に何かしらの進行原因があったみたいです。
鬱血性心不全とか腎盂腎炎とか口腔内腫瘍とか。
食欲の低下や利尿剤の投与なんかが、慢性腎臓病の進行のきっかけになったみたいです。
逆に、そういった明らかなきっかけとかなければ
進行しなかった子達みたいに
数年間慢性腎臓病が進行しない可能性も高いわけで
脱水とか食欲不振とか
そういう明らかな『きっかけ』を作らないのが大事なのだと思います。
あとは、明らかな進行因子のない慢性腎臓病の猫さんには
特段何かしらの治療介入というものは必要ないということなのかもしれないですね。
さっき例にあげたBUN55、Cre2.8とかで
亡くなるまで皮下点滴が必要ですよ、的なインフォームをされている子に
ちょいちょい出会いますけれども
そういう皮下点滴はほとんど意味ないということなんだと思います。
ラプロスについても悩みますよね。
先日、消化管の血流改善に繋がるから使ってみようかという話を書かせていただきましたが
ラプロス使わなくても、数年単位で進行することがないんだったら
適応・不適応はしっかり吟味しないといけないのかもしれません。
体重が少し下がってきていたり、昔みたいな食欲がない子に適応とか
そういう感じになっちゃいますかね。
そういえば、製薬会社の方に
先日のラプロスの記事を読みました、というお話をされました。
で、今度ラプロスの製造販売業者さんである東レの方が病院まで来てくださることになりました。
頑なに使用しない姿勢を貫いているよりも
本当に有用な可能性があるんだったら、そこは取り入れていきたいと思いますので
実際に話を聞いてみて、そこら辺も検討していこうと思っています。
また少し長くなってしまいましたので
今日はこのくらいで失礼します。
猫さんの慢性腎臓病についてお悩みの方は
ぜひ一度ご相談に来ていただければと思います。
よろしくお願いいたします。
それでは。