テルミサルタンって怖いなあって思った話
医原性に動物の体調が悪くなることって
あんまり珍しくないんですが
今日はそういう事例を紹介しようと思います。
今回は実際の時系列とともにお伝えしようかと思います。
7月27日の土曜日にセカンドオピニオンで来院されたわんちゃんのお話。
その子は11歳2ヶ月のわんちゃんで
当院に来る二週間前に元気食欲がなかったので
s動物病院さんへ。
血液検査を実施したそうです。
その7月15日の血液検査が
BUN 130mg/dl以上、Cre 4.4mg/dl、K5.9mmol/L、IP 9.0mg/dlという感じで
腎臓が結構悪いのかなっていう血液検査結果でした。
で、そこから三日間入院になったそうです。
退院してあと7月19日の血液検査結果がこちら↓
BUN 39mg/dl、Cre 1.4mg/dl、K5.5mmol/L、IP 3.0mg/dl
ほとんど正常値に近く数値は改善しておりました。
これで終われば良かったわけですけれども
当院に来る前日にまた食欲元気がなくなったので
この動物病院さんで血液検査を実施しました。
BUN 103mg/dl以上、Cre 2.4mg/dl、K6.4mmol/L、IP 4.9mg/dl
また悪くなっていますね。
で、皮下点滴を実施されたとのこと。
翌日になっても元気食欲全然ないし、水も飲まないってことで当院に相談にいらっしゃった感じです。
一回良くなった腎臓の数値がまたすごく悪くなるのって不思議に思いますよね。
よくよくお話を聞いてみると
4月に心臓肥大があるとかなんとか言われたそうで投薬が始まっておりました。
投薬内容は、ピモベンダンとテルミサルタン(猫さんのセミントラと一緒です)。
身体検査上、ピモベンダンも適応にはなんないんだろうなって思いましたが
そんなことよりも本来はタンパク尿か高血圧症例に適応になるテルミサルタンですよね。
用量を詳しく聞いてみると
テルミサルタン20mg錠を1/2錠1日2回で処方されていました。
この子の体重が8.7kgなので、1.14mg/kg を1日2回ということになります。
僕の個人的な使用方法は
0.5-1.0mg/kg 1日1回から開始するので
結構多い量で入ってるんかあって印象でした。
身体検査上、明らかな脱水もなく
画像検査上、他に明らかな原因もなさそうで
血圧ももちろん正常でありました。
じゃあ、何でこんなことになってるんだろうなって考えた時に
一度良くなったのに、また悪くなったことが引っ掛かるわけです。
普通に考えれば、良くなった後に再度腎臓が悪くなるような因子が加わらないと
腎障害が再び起こることってあんまりないのかなと考えました。
で、入院中はもしかしたら投薬されてなかったんじゃないかなって思いました。
そう考えればそれなりに辻褄が合うわけです。
てなわけで、テルミサルタンの漸減をスタートしました。
いきなりバツんと切ってしまっても良かったのかもしれませんが
血管拡張系の薬剤の投与は個人的にはすごく慎重にならないといけないと考えておりますので
入れるときは低用量から、抜く時は漸減という形を取っています。
今回もテルミサルタンを1日1回にまずは減らしてもらい
一週間後の再診にしました。
で、再診の8月5日。正確には9日後ですね。
僕はただ薬を減らしましょう、と言っただけの後の診察です。
結果どうだったかと言いますと、食欲元気も改善し
体重も増えておりました。
気になる血液検査はどうだったかと言いますと
BUN 106.2mg/dl以上、Cre 2.38mg/dl、K5.5mmol/L、IP 4.4mg/dl でした。
(直近の7月26日がBUN 103mg/dl以上、Cre 2.4mg/dl、K6.4mmol/L、IP 4.9mg/dlです。)
血液検査の結果を見てどう感じられますか?
あんま良くなってないように見えますよね。
でも、僕的にはカリウムが6.4→5.5に下がってくれていたので
やっぱりテルミサルタンによる薬剤性の腎障害みたいな感じなんじゃないかなって思いました。
何より、わんちゃん自身の活動性や食欲が大幅に上がっていたので
改善傾向にあると判断しました。
で、テルミサルタンを完全に休薬してもらい二週間後を再診にしました。
本当は二週間後再診予定だったのですが
ご家族の方が怪我をされてしまい、一週間伸びました。
で、8月28日の再診。
食欲も完全に元通り、すっかり元気になり、体重もまた増えました。
気になる血液検査ですが、こんな感じです↓
BUN 35.6mg/dl以上、Cre 1.26mg/dl、K4.5mmol/L、IP 3.4mg/dl
もうほとんど正常な値って感じに改善してくれています。
今回の一件は、僕はただ薬を切っていっただけなのですが
ご家族様もすごく喜んで下さっていて
薬って怖いですねっておっしゃっていました。
確かに薬って怖いです。
今回のテルミサルタンもそうですが
個人的な経験としてはACE阻害薬(フォルテコールとかアピナックとか)でも
同じような経験がありますし
過去にはテルミサルタンとフォルテコールが併用されており
すごく腎数値が高くなっている犬さんも猫さんも見たことがあります。
めちゃくちゃ当たり前なのかもしれませんが
薬ってやっぱり適応・不適応がありまして
どういうお薬をいつ・どのくらいの用量で使用するかは
きちんと考えてから使うべきなんだと思います。
自分で処方した薬で、わんちゃんを腎臓病にしておいて
腎数値が高いからって脱水もないのに点滴し続けてたら、意味不明ですからね。
点滴し続けたところで薬を飲み続けてたら、たぶん良くなんないと思いますし
この子はあの状態が続けば、ちゃんとして慢性腎臓病へと移行して命を縮めていたと思います。
雨がひどくて
午後の診察はあまり人が来なくて時間があったので
今日は具体的に細かく書いてみました。
改めて書くことで、自分の診察を振り返ることにもなりますし
これはこれで勉強になるなあと思ったので
また時間があれば、実例に基づき書こうかと思います。
それでは、今日はこの辺で。