経皮水分蒸散と腎臓
昨日までの二日間
東京での獣医腎泌尿器学会に参加させていただきました。
色々と新しい話や面白い話を聴くことができたり
すぐにでも新たな治療選択として取り入れれそうなものもあったりで
充実した学会だったように思います。
参加人数も500人弱ぐらいでしょうか。
年々増えているみたいで
腎泌尿器分野に関心のある獣医さんは増えてきているみたいです。
せっかくなので得た知識のほんの少しでも
ここにアウトプットしておくことで
自分自身への知識の定着にもなりますので
今日から何回かに分けて書かせていただこうかと。
で、今日は
皮膚からの水分蒸散量と腎臓のお話。
一日目、日本腎臓学会とのコラボ企画における
薬学部の先生のお話です。
現在の教科書的な概念では
体液量の調節は主に腎臓の尿量調節によって維持されていると考えられておりますが
この先生たちのグループは
発汗ではない目に見えない経皮水分蒸散に着目しました。
皮膚からの水分蒸散による水分の喪失は尿量にも匹敵するとされており
体液の保持機構を真に理解するには
腎機能だけでなくて、皮膚機能の解明も重要なんじゃないか、とのことでした。
で、実際この先生たちは何をやったかと言いますと
乾癬という皮膚の疾患のモデルマウスにおいて
水分の蒸散量がめちゃくちゃ多いことを明らかにして
そのマウスは、大量に水を飲んで、かつ尿量を制限しないと水分を維持できないことを
明らかにしました。
それだけ、皮膚からの蒸散量が多いってことですね。
また、この乾癬モデルマウスは血圧が高くなっていることもわかっておりまして
ここで一つの考えが思い浮かぶわけです。
血管を収縮させて
皮膚にいく血流量を減らして
できるだけ水分が逃げないようにしているのでは?と。
で、次に、腎臓病の方からのアプローチとして
5/6腎摘ラット(つまりは腎不全発症モデル的なラット)を用いた研究を行いました。
この腎不全モデルのラットは血圧が高くなっていることがわかっているのですが
もしかしたらこれは
多尿により水分を喪失しやすいラットが
皮膚からの水分蒸散量を減らすために血管収縮が起こっているのでは?と推察しました。
この次に何をやったかと言いますと
本来、皮膚の血管収縮・拡張というものは主に体温調節のために実施されます。
体温を上げることで皮膚の血管は拡張することがわかっているので
さっきの腎機能不全のラットの体温を上げるとどうなるか?
みてみました。
結果的に
全身の血圧は下がったらしいんですね。
結論
腎機能が低下→多尿→水分喪失が多い
→水分喪失を防ぐために血管を収縮させ皮膚からの蒸散量を減らす
→高血圧が起こる
そういったパターンもあるのでは?という感じのお話でした。
面白いですよね。
他にも高血圧のモデルラットを用いての研究をされていたり
皮膚のナトリウムの量を測定されていたり
水分の維持に関わる様々な話をされておりました。
動物医療において
皮膚からの水分蒸散量は
皮膚科の先生たちの間で測定されている分野かと思います。
主には皮膚のバリア機能の指標として測定されているものですね。
もし、上記のような研究内容が
犬・猫さんにおいてもある程度外挿して考えることができるのであれば
慢性腎臓病の犬猫さんも多尿になりますし
その際の水分喪失には気をつけないといけません。
実際に、慢性腎臓病の犬猫さんの皮膚から
どのくらいの水分が蒸散しているのかはわかりませんが
皮膚のバリア機能を守るというアプローチも
脱水の予防という意味では
一つの治療選択肢になりうるのかもしれないなあ、と
今回の講演を聞いて
僕が感じた感想です。
慢性腎臓病の犬猫さんに
保湿系の外用薬なんかを勧めます、となると
なぜ???となりかねないような治療選択ではありますが
有害なことはなさそうですし
今までにない面白いアプローチ方法ではありますから
やってみる価値はあるのかもしれません。
皮膚からの水分蒸散量をモニタリング項目として
定期的に測定できれば良いんですけどね。
そこがまだどこの施設でも測定できますってわけではないので
現状は、慢性腎臓病の犬猫さんにおいて
プラスαとしてやっておいた方が良いこと、ぐらいの立ち位置になる感じでしょうか。
というわけで
本日は、皮膚の水分蒸散と腎臓病との関連性?みたいなお話でした。
明日はまた違う話でも。
それでは、今日はこの辺で。