正常血圧性虚血性腎障害
腎臓には自動調節能というものが存在するので
多少、血圧が上がったり下がったりしても
腎臓への血流量は一定になるように調節されるようになっています。
なので、基本的には平均血圧65mmHgぐらい以上を維持していれば
腎臓の血流量は維持できるんだよ、みたいな感じで昔は述べられておりましたが
タイトルの通り
正常な血圧に維持していても
虚血性の腎障害を引き起こす場合があることが知られています。
人間の場合だと、高齢者の場合は血管が固くなってきて
高血圧を持病として持っている方も多いです。
そういう方は腎血流量の自動調節能が働く血圧の範囲が
もう少し上にシフトされているとされています。
つまりは、一見正常な血圧に見えてしまう平均血圧65とか70とかでも
その人にとっては腎臓への血流量が維持できない血圧となってしまっている可能性があるわけです。
この正常血圧性虚血性腎障害の病態は
腎臓の輸入細動脈の拡張不全と、輸出細動脈の収縮不全が原因になるみたいですが
前者を引き起こすのが
高齢、動脈硬化、慢性腎臓病、重症感染症、高Ca血症、造影剤、NSAIDsなどで
後者を引き起こすのが
ACEi(ACE阻害薬、商品名で言うならフォルテコールやアピナックとかでしょうか)や
ARB(アンギオテンシンⅡ受容体阻害薬、テルミサルタン錠とかセミントラとか)です。
この考え方は
慢性腎臓病の犬猫さんに全身麻酔をかける上での考え方には非常に重要で
通常の麻酔中の目標と考えられる血圧よりも
少し高めに平均血圧を維持しないと、腎臓の保護につながる麻酔とはならない可能性を示してくれています。
また、ACE阻害薬やARBなどを服用している患者様は多いと思われますが
これらの薬剤は、腎臓の自動調節能を破綻させている可能性があるため
ちょっとした脱水や食欲不振なんかが
急性腎障害へと発展するリスクを孕んでいる薬剤だと考えています。
先週セカンドオピニオン目的でいらした犬さんは
高血圧や蛋白尿などはないけど
テルミサルタンを結構な用量で服用されておりました。
食欲・元気がある時は、大きな副作用に繋がらなかったみたいですが
嘔吐や下痢なんかの体液量が減るようなイベントが起きた際に
腎臓の機能が一気に落ちたものと思われ
腎数値が跳ね上がっておりました。
他院様で入院し、点滴治療をしたものの
数値とか全身状態があまり良くならないということで来院されました。
当院でも少し検査をさせていただいて
テルミサルタンの必要性を感じられなかったので
漸減を試みることにしました。
そうすると、すごく元気になって食欲も戻ったそうです。
こういうことがままあるのですが
薬剤って本当に怖いなって感じます。
適切な場面で、適切な量の薬剤を使用できるように気をつけたいと思います。
それでは、今日はこの辺で失礼します。