猫さんの乳腺腫瘍の疫学
昨日、一応書きますよと予告していたので
今日のテーマは、猫さんの乳腺腫瘍の疫学について書いてきます。
猫さんの乳腺腫瘍は
発生頻度の高い腫瘍の一つとはされており
多くは悪性の乳がんであり、再発・転移する確率が高いのが特徴です。
乳腺腫瘍のリスク因子としては、年齢、品種、ホルモンの影響が挙げられます。
年齢については
9歳以降に発生率が増加するとされ、12歳をピークとする正規分布に近い分布を取ります。
9歳以降増加傾向を認め、12歳を越すと徐々に発生率が下がってくるイメージですね。
品種については
ペルシャさんやシャムさんにおいて発生が多い傾向があるとされており
シャムさんに絞った場合
他の猫さんよりも2倍発生リスクが高いとされているだけでなく
診断される年齢が若く、リスクも9歳で頭打ちになることがわかっており
これらのことから、遺伝的な素因もあるのではないかと考えられます。
ホルモンの影響に関してですが
早期の避妊手術により、乳腺腫瘍の発生抑制が可能であるということは
皆様ご存知かもしれません。
避妊手術を実施していない猫さんを対象とした研究において
避妊手術を6ヶ月齢までに実施すると
乳腺腫瘍の発生リスクを91%減少させ
7〜12ヶ月齢までの実施では86%減少させることが示されています。
また、一歳を超えての避妊手術の効果がないことも示唆されています。
こんな感じで
やっぱり若い頃の避妊手術の有無が、乳腺腫瘍の発生リスクに大きく影響を与えるわけですが
これは国別でのデータにも反映されています。
国内のデータですと2010年のものになりますが
猫さんの乳腺腫瘍が全体の腫瘍に占める割合が17.0%であるのに対し
2024年のタイのものは37.1%
2016年のスイスのデータでは8.2%
2022年のポルトガルのデータでは38.2%と
国によってかなり差があります。
同じヨーロッパでも
北欧や一部の地域では、英国よりも避妊手術が一般的ではなく
結果として乳腺腫瘍の発生率が高い傾向にあるようです。
当院は2024年5月現在
静岡市内ではキャットリボン運動↓に賛同している唯一の動物病院ではあるのですが
乳がんで亡くなる猫さんの数を減らしたい考えています。
猫さんの乳がんは
早期発見・早期の積極的な治療介入により良好な予後を得ることも不可能ではありません。
ですが乳腺腫瘍ができてから
少し大きくなってきてしまっていたり、リンパ節への転移がある状況下で
動物病院を訪ねて来られるケースの方が多いように感じています。
そうなった時の乳がんとの戦いは予後の悪いことが多いです。
それだったら
若いうちに避妊手術を考えてみる方が良いのかなあ、と僕は考えています。
健康な子を手術することに抵抗を持たれる方がいらっしゃるのは重々承知しておりますし
その気持ちもわかります。
でも、乳腺に腫瘍ができて
自壊して出血が止まらなくなってしまったり
肺に転移したり、胸水が溜まったりで苦しい思いをする猫さんは
やはり見ていて可哀想な気がします。
確かに全身麻酔というものはリスクがゼロではないとは思いますが
猫さんの女の子に関しては
避妊手術で得られるメリットの方が大きいように思います。
それでは、今日はこの辺で失礼致します。