薬の有害事象
猫さんの新しい関節炎の治療薬として発売された
ソレンシアという注射薬ですが
今(11月19日)の時点でgoogleで検索をかけると
ソレンシアの次の検索候補に『ソレンシア 猫』『ソレンシア 死亡』と出てきてしまいます。
確かに、動物用医薬品等データベースの方には
こんな感じで→https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/19074
ソレンシアを注射した後の猫さんの経過が報告されております。
これを見ていくと
報告された26例のうち20例が死亡例として挙げられております。
この数値だけをそっくりそのまま受け止めると
怖いから使うのはもうやめようかなって思考に陥ってしまいそうになりますね。
実際に、先日のソレンシアセミナーでも
多くの獣医師から企業側に質問がありました。
確かに、実際に使用するのはほとんどが一次診療の獣医師だろうし
注射後に何かあった時に責任を問われるのは一次診療の獣医師ですし
患者様に責められる立場にあるのは注射をする獣医師だったり動物病院だったりするので
その点ははっきりさせたいという気持ちはわかります。
僕自身も診察の中で質問されることもありますので
せっかくなので僕の現時点での個人的な意見を書かせていただきます。
(*あくまで個人的見解だという前提でお読みください。
これによって何かが起きました
っていうのは当院の患者様以外に僕が責任を負うことは難しいです。)
そもそも海外で2年ほど前から発売され使用されていた経緯のあるソレンシアが
日本でのみ死亡報告が連発していること自体、少し変だと思うんですね。
日本で使用されているソレンシアと海外のものが同じ製品だと仮定するのであれば
日本だけそういう事例が多いのは
日本での小動物診療側の問題かと思うんです。
もちろん、特定の猫種さんのみがそういう副作用を発症しやすい、とかが
後で発覚する可能性もゼロではないかもしれませんが
他の薬剤において、あまりそういう事例がないので可能性は低いと思います。
そう考えると
使用する獣医師側の問題とか、使用される猫さん側の状態のせいか
そういう可能性が高くなるのかなと思うんですね。
で、日本の小動物診療の特徴の一つに
安楽死を選択する場面が少ないっていうのがあると思うんですが
それも今回のソレンシア問題の原因の一つではないかなと考えています。
(あくまでも個人的には、ですよ。)
データベースに挙げられている事例の中身を見ていただくと
状況から察するに、末期的な状況の子もいらっしゃったり
何なら関節炎ではなくて口内炎の痛みなんかに使用されているケースもあったり・・・
あまり全身状態が良くないケースに使用されていることが多いような印象を受けます。
もしかしたら海外だと安楽死を選択されているようなケースなんかなと感じるんですね。
それでも、日本の小動物診療において
あまり安楽死の方向性を望まれる患者様も少ないですんで
せめて最後、痛みだけでも取ってあげたい、という想いで
ソレンシアが注射されているケースもあるんじゃないかな、と思うんです。
元々、ソレンシアは腎臓病があっても使用できる関節炎の薬のようなイメージで
安全性が売りみたいなところがあった新薬だと僕は認識しています。
そのせいもあって、結構な重症例にも使用された結果
こういう副作用の報告みたいな感じになってしまったのかな、と。
もちろん、それだけで全てが説明できるとは思いませんし
亡くなってしまった猫さんは本当に可哀想だと思います。
それでも、ソレンシア自体とても良い薬だと僕は考えておりますので
きちんと全身状態を評価して、症例を選択して使用するのが良いのかなと思います。
関節炎の痛みから解放されるということ自体
猫さんにとってはものすごいストレスから解放されることだと思うので
結果的に運動量が増えれば、他の病気にとってもプラスに働くことも多いと思いますし
健康寿命も伸びると思うんですね。
なんか今回のようなことで
この薬があんまり使用されなくなってきた
みたいな状況にはならないと良いなあって思います。
人間の子宮頸がんワクチンの時みたいな感じなのかもしれませんが
せっかくの医療の進歩が
感情のみによって否定されるのは結構悲しいものがあるので
可能な限り、ソレンシアの安全性についてもっと検証してほしいところですよね。
何か続報があれば、またここにも書いていきたいと思います。
僕の使用感としては、ソレンシアはすごく効果的な薬剤だと思います。
それでは今日はこの辺で失礼いたします。
愛犬の腎臓病(現在ステージ1ぐらい)について調べていてこちらにたどり着きました。
神奈川在住なので御院には行けないのですが、いつもブログ興味深く読ませていただいています。(裏ブログも)
今回薬のお話しだったので、以下についてご意見等聞かせていただけたらと思い、初めてコメントいたします。
猫用の腎臓病の承認薬でラプロスというのがあると思うのですが、犬でも効果があるケースがあるので検討してみてもいいかもと現在のかかりつけの病院から言われました。
患者側としては、犬にはなぜ承認されていないのか、猫だけに承認されているのに犬につかってもほんとによいのか、ということが気になっています。
そのあたり、機会がありましたらいつかブログに書いていただけたらなぁと思って、コメント書かせていただきました。
>あおき様
コメントありがとうございます。
ブログの方もお読みいただきありがとうございます。
もう少し皆様のご興味の持てる内容を書けるように頑張ります。
ご質問のベラプロストナトリウム(商品名:ラプロス)についてですが
2年前ぐらいのブログの記事で触れていますので、よろしければ参考にしていただければと思います。↓
ラプロスについての記事
あくまで僕の個人的な意見なので、参考程度にしておいてください。これが絶対に正しいとかそういう感じで捉えないよう注意してください。
僕の印象ではラプロスはエビデンスも弱いし、実際の効果があるかどうかもうーん?という感じなのに結構高い薬というイメージで、正直、猫さんの慢性腎臓病にも最近はほぼ使用していない薬です。
確実に腎臓病と診断できていて他にできる治療介入がまだ何もない段階だけれど、どうしても何かしたい!という方にはお話させていただくぐらいの立ち位置で使用しています。
猫さんの慢性腎臓病のガイドラインとかに記載されるようになれば勧めやすいんですが
日本で開発された薬で日本人しかほとんど使用しない薬剤だと思いますので、それも難しいのかなと思っています。
犬さんの肺高血圧症の治療としてたまに使用することはありますが、わんちゃんの慢性腎臓病への使用は適応外使用という認識で
使用したことはありません。
わんちゃんの場合、腎臓病に対して使用する場合の用量がきちんと定まっていないんじゃないかなと思います。
(新しい情報とか出てきていたらすみません。)
いずれにしろ使用にあたっては、かかりつけの先生と充分相談される方が良いかと思います。
よろしくお願いいたします。
早速のお返事ありがとうございます。
以前にすでに書かれていたのですね。気づけず失礼いたしました。
大変参考になりました。
今後もブログ更新楽しみにしています!
こんにちは初めまして。感慨深い内容でコメントさせてください。
1匹は昨年逝ってしまった子。もう1匹は今も変形性関節症でソレンシアを投与しています。
昨年逝ってしまった子はソレンシアが認可される前からの症状で、トラマールによる鎮痛を主体とした治療を行っていました。認可されてから投与するようになりましたが、末期だったので効果は薄かったです。
今の子は症状が始まってからソレンシアが使えているので、QOLを維持(ソレンシア投与してから徐々に下がり、次に投与するとまた上がって下がっていく、の繰り返し)できています。つなぎとしてプレドニゾロン1/4を2日に1回投与しています。
今の子は腎臓強いみたいでBUN、CREともに安定しています(尿酸値はとっていない)。
ソレンシアは関係ありませんが、肝臓は悪く、一時期GPT800超えになったことも。1年くらいで戻しましたが、また上がり始めていて300くらいです。
長くなりました。ソレンシア、副作用は確かにあるのでしょうが、びっこや、歩行悪化の症状が見られ、事前の血液検査で問題なければ投与リスクは他の薬にくらべ少ないとみています。現状注射でないと投与ができないので、通院、あるいは往診でないと処置できない。毎月実施することを考えると薬価が高いなどはありますが、炎症防止のためにプレドニゾロンを一時的に増やす、より長期的に投与を続けられるのでどちらを選ぶかでいうと、ソレンシアを候補にあげています(所見症状やレントゲンで知見がとれれば、ソレンシアはいい薬だと思います)
一方で、投与直後に副作用がでることがあります。皮下注射で投与後数時間で瞳孔は開きぎみ、口をあけてよだれを垂らす症状がでました。副作用で報告のあるものではありませんが、そのようなリスクはあるのは飼い主の責任として理解すべきと思います。
長文となって大変失礼いたしました。日々ご苦労されていることと存じます。
医師の中には多角的に可能性を考えず、状況から処置して最悪悪化させてしまう方もいらっしゃるのをみております。このように考察し深堀りされるご姿勢をみると、胸が熱くなる思いです。
日々大変な思いされていることと存じますが、
お大事にお過ごしください。
>飯島様
初めまして。この度はブログにコメントをいただきありがとうございます。
飯島様のようなご意見をいただけることについて、とても嬉しく感じております。
ソレンシアについては、個人的には素晴らしい薬剤だと考えて使用しておりますが
まだ歴史の浅い薬剤ではありますので、どうしてもネガティブな情報が先行してしまうことによって
結果的に本来、その恩恵を受けることができたはずの猫さんたちにとって不利益な結果となってしまうことも考えられます。
もちろん盲目的に安全な薬剤だと考えて使用することも危険だとは思いますので
そこは一人一人の猫さんをきちんと診察し
ご家族様ともきちんと相談するなど、吟味を重ねた上での使用を検討するべきだと考えています。
温かいお言葉もいただきありがとうございました。
また、何かご意見などございましたら、ご気軽にコメントをいただければと思います。