僧帽弁閉鎖不全症犬における慢性腎臓病の進行
循環器疾患と腎臓病は互いに影響し合うことは随分前から言われております。
犬さんでは
僧帽弁閉鎖不全症と慢性腎臓病の関連についての報告はありますが
僧帽弁閉鎖不全症の重症度に応じた慢性腎臓病の進行に関する報告は少ないので
今回調べてみましたよ、というのが本研究の目的みたいです。
結論
僧帽弁閉鎖不全症を持っているわんちゃんの方が
慢性腎臓病のステージが進行するまでの時間が短いというものでした。
当然と言えば当然と思われるかもしれません。
心臓が悪いなら利尿剤とか飲んでるから
そのせいで腎臓が悪くなるんじゃないの?と考える人もいらっしゃるかもしれません。
ただ、本研究では利尿剤を投与されるようなACVIMステージC以降の僧帽弁閉鎖不全症の子は
そもそも組み込まれていない感じでしたし
心臓病もステージB1とB2と群に分けられているんですが
この群間に慢性腎臓病悪化までのスピードに差はないという結果でした。
僕の解釈が間違っていたら申し訳ありませんが
改めて書き直しますと
この報告の結論的には
心臓病の重症度とかに関わらず
僧帽弁閉鎖不全症が存在するということ自体が慢性腎臓病の進行のリスクになる可能性があるよ
という感じみたいです。
犬さんの僧帽弁閉鎖不全症の存在がなぜ慢性腎臓病の進行に繋がるのか?の
細かい病態解析はこれから更なる研究が必要みたいですが
この論文の考察で述べられていたのは
心疾患の際に炎症性メディエーターが増加し
それらの物質によって腎臓への傷害が進むんじゃないか、的なことは書かれてありました。
心疾患になれば、心臓から送り出される血液量である心拍出量は低下しがちですし
その結果、いくら代償機構が働くとはいえ、腎臓へ流れる腎血流量が下がる可能性もあります。
レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系は活性化し
それがまた心臓への負荷を増大させたり
血圧上昇による心臓・腎臓、両臓器への負担が増すことにも繋がります。
心疾患のステージに関わらず
僧帽弁閉鎖不全症を持っているというだけで慢性腎臓病の進行スピードが早いということは
その先の予後にも影響を与えるわけでして
尿検査・血液検査・超音波検査などによって慢性腎臓病を疑ったわんちゃんにおいて
一度は心臓のチェックもしておく方が無難なのかな、と思いました。
五者の精神ではないですが、医師には易者という側面も必要かと思います。
検査ばっかで嫌になるかもしれませんが
ある程度、診察している子の未来を予測してご家族様に伝えるのも
獣医師の務めだと思いますので
どうしてもそういう感じになってしまいます。
少し話題が逸れそうなので
今日はこれくらいで終わりにします。
今回の論文から考えることとしては
当たり前かもしれませんが
ただただ慢性腎臓病に注目するのではなく
循環器疾患の管理も合わせた総合的な評価が大事ということですかね。
心臓も腎臓も消化管も脳も・・・
どれも大事な臓器でお互いに連携をとって身体というものは機能しています。
歯周病なんかが循環器疾患に影響したりするのはその典型なのかもしれませんが
それはまた別の機会にでも望月が書いてくれるかもしれませんし
こっちで書くかもしれません。
とりあえず、動物全体を診れる獣医師でありたいと思います。
それでは、これにて失礼します。