AIM蛋白療法
今月のCLINIC NOTEの特集テーマが『慢性腎臓病の検査と管理』なのですが
そこの最後の部分のTopicで
『慢性腎臓病終末期の対応の選択肢』という話題が取り上げられておりました。
このTopicはいくつかの項から成り立っているのですが
その一つが再生医療です。
血液透析や腎移植には様々な問題点があることから
再生医療は慢性腎臓病を解決するための最も期待されている治療法です。
人では、iPS細胞の登場や腎臓の再生医療の進展から徐々に現実的になってきているそうです。
しかし、もし仮にそれが実現したとして
それを動物でも利用できるとなると、数十年後になるかもしれないとのことでした。
本執筆を担当されているのが日獣大の宮川先生でして
僕はこの先生の歯に衣着せぬ物言いが結構好きなのでありますが
AIM蛋白についてもまあまあ辛辣なことが述べられておりました。
数年前に話題になりました
『猫が30歳まで生きる日』という著書でも知られるAIM蛋白ですが
現在もどうやら猫さんの腎臓病の治療薬を開発中ということで
研究が続けられている?みたいです。
コロナの影響で資金繰りが難しくなったというニュースがあり
2億円以上の寄付金が集まり話題になったこともあり、ご存知の方も多いかと思います。
特に猫さんのご家族の方にとっては
腎臓病を治せる魔法のような薬が開発されるのでは?と注目していた人も多いのはないでしょうか。
今回の雑誌でAIMについて述べられている部分を読んでみると・・・
2016年に報告されているAIMの作用は
尿細管障害によって生じた細胞、蛋白などから成る尿細管内の閉塞物質の除去を助ける
というもので
もしそれが真実なのであれば
AIMは急性腎障害の治療としては期待できるかもしれない、ということでした。
このことは、獣医腎泌尿器学会の認定医講習会でも同様の内容が述べられていたと記憶しています。
ただ、この論文やAIM蛋白についての東大のページには
猫さんのAIMは蛋白と結合しているから尿中に出現しにくい、とされており
本当にAIM製剤を注射して尿細管に到達するのか?という疑問は大きいみたいです。
にも関わらず、多くの猫さんのご家族様や獣医師の中でも
『AIMは慢性腎臓病を改善させる』という認識を持ってしまっており
それは問題なんじゃないか?ということでした。
一括りに慢性腎臓病と表現しても
そこに至るまでの原因は一つではなく
全ての慢性腎臓病の猫さんが
急性腎障害から尿細管閉塞を起こした結果なったというわけではありません。
それに、腎臓の組織が線維化して機能を失った状態から
AIM蛋白を投与したところで再生するわけはなく
『慢性腎臓病が治る薬』みたいな表現はあまり良くないように思われます。
(実際、今回の雑誌には『言い方はかなり悪いが、もはや詐欺に近いのでは』と表現されておりました。)
なので、AIM蛋白療法は失われた腎臓の機能を取り戻してくれる再生医療という扱いではなく
急性腎障害の治療選択肢の一つとして捉えるのが良いみたいです。
となると、やっぱり早期発見早期治療介入となるわけで
腎臓病の兆候がないか、定期的に健康診断で見つけにいったり
慢性腎臓病と診断してからは、より進行を遅らせる取り組みをやるしかなさそうです。
先日の腎泌尿器学会と今回の雑誌の内容と
他諸々の情報を考慮して、当院の慢性腎臓病の管理もアップデートしたいと思います。
それでは今日はこの辺で失礼いたします。