世の中そんなに甘くない
犬さんにも猫さんにも比較的良く見られる腫瘍の一つにリンパ腫があります。
血液中に存在する白血球の一つであるリンパ球ががん化するイメージの悪性腫瘍です。
一部の例外を除いて
基本的なリンパ腫との戦い方は化学療法、いわゆる抗がん剤が主力になってきます。
わんちゃんだと多中心型リンパ腫や消化器型リンパ腫なんかがその代表例でしょうか。
わんちゃんの多中心型のリンパ腫は
無治療の場合ですと大体の生存期間が4〜6週間。
一般的に行われている半年間の抗がん剤のプロトコルを実施した場合
1年生存率が50%ぐらい、2年生存率が20%ぐらいとなってきます。
これらの数字を長いと捉えるか、短いと捉えるかは人それぞれだと思いますが
同じ犬さんのリンパ腫でも
高悪性度の多中心型リンパ腫は
高悪性度の消化器型リンパ腫と比較して予後が良いことが多いので
多中心型のわんちゃんの方が生存期間が長いことが多いです。
2021年の8月に当院で多中心型リンパ腫と診断した一人のわんちゃんがいらっしゃいました。
半年間の抗がん剤治療を乗り越えて、病変は完全に消失し
その後一年以上何事もない日々を過ごせておりました。
本当に病気だったことを忘れさせてくれるぐらい病院に来た時もめちゃくちゃ元気で
いつも喜んでおやつを食べてくれていました。
このまま何事もなく、もう一年、もう二年と過ぎ去ってくれないかなあと
完治してくれないかなあと、考えておりました。
今月の最初に、その子の体表リンパ節がまた腫れたことがわかりました。
リンパ腫の再発だと考えられます。
最初に診断した時から、およそ1年と9ヶ月です。
人間に当てはめて考えたとすると
最初に癌が発覚してから7、8年後に再発がわかるような感じでしょうか。
あわよくば治ってくれないか、とかいう考え方が甘かったんでしょうか。
現実は厳しいもんですね。
なんでなんかなあ、と思いますが
こればかりは仕方ないのかもしれません。
およそ2週間前にちょうどリンパ腫の抗がん剤治療の半年間を終えた別のわんちゃんがいらっしゃいます。
その子は消化器型のリンパ腫であったため
正直最初は年を越せるかどうかも微妙かなと考えておりました。
どこかのタイミングで再発する可能性が高いだろう、と考えながらの抗がん剤治療でしたが
無事に完走してくれました。
何ならこの子もこのまま何事もない日々をずっと過ごしてくれないかな、と考えるわけですが
そう甘くないというのはさっきも言った通りで
今までも幾度となく思い知らされております。
神様という存在をそもそも心から信じたことは一度もないですが
そういう現実を突きつけられるたびに
やっぱりいないんだなと考えさせられます。
いや、でも誰かにとって都合の良い神様という存在がいないっていうだけで
みんなに平等に幸も不幸ももたらしてくれるような存在は、もしかしたらいるんですかね。
話が変な方向にいきそうなので
そろそろ今日は終わりに入ります。
統計的なデータが算出する中央生存期間というものは
やはりそんなに嘘をついてはこなくてですね
その数字に当てはまることも多いです。
実際に治療をする立場の人間としては
どうにかその統計的データに打ち勝とうと
奇跡を願ってやまないわけですけれども
奇跡はあくまでも奇跡なわけでして
そう簡単には起こってはくれないのが現実なんでしょう。
容易には受け入れがたい現実を前にして
やってられないと感じてしまうこともあるかもしれません。
ですが
動物たちはそんなこと関係なく病気と戦いながら1日1日を懸命に生きようとしてくれます。
そんな彼・彼女達に失礼のないように
心を折ってばかりいる場合ではないのかもしれません。
頑張りますか。
今日はこれで失礼します。それでは。