本当の正義
『ほんとうの正義というものは
けっしてかっこうのいいものではないし
そして
そのためにはかならず自分も深く傷つくものです。
そしてそういう捨身、献身の心なくしては正義は行えませんし
また
私たちが現在
ほんとうに困っていることといえば物価高や、公害、飢えということで
正義の超人はそのためにこそ
たたかわなければならないのです。』
これは
1973年、アンパンマンが世の中に初めて出た時の
やなせたかしさんのあとがきの一部です。
アンパンマンと聞いて、知らない人はほとんどいないんじゃないかというぐらい
今も愛されている作品ですが
当時のやなせさんは、アンパンマンがこんなに長い間人々に愛され続けるものに
なるなんて考えていなかったのかもしれません。
そんなアンパンマンが
50周年を記念して
原点となる最初の頃の作品が復刻版として出版されておりまして
今の次男のちょっとしたブームみたいで
さっきまで読み聞かせておりました。
当時の『あんぱんまん』という作品には
ほとんどキャラクターは登場しません。
あんぱんまん以外ですと、ジャムおじさんぐらいですかね。
ジャムおじさんも、当時はそんな名前ではなく
ぱんつくりのおじさん、という名前で登場し
パイプ煙草を口に咥えながらパンを焼いています。
この作品の中で
あんぱんまんは1人の旅人と1人の子どもに自分の顔を食べさせてあげます。
最終的には顔が全部なくなります。
胴体だけが空を飛ぶ姿は、ちょっとしたホラー感がありますが
上記の捨身・献身の心なくして正義は行えないという
やなせさんの考えを表現したものなのだと思います。
最近のアンパンマンでは
自分の顔を食べさせてあげる描写が以前と比べて減ったそうです。
正義の意味とか、飢餓という状況が今の日本にはあまりないとか
顔をちぎって食べさせるという描写自体がNGだとか
そこには色々な理由があるのかもしれません。
でも、やなせさんが考える正義という考え方が
どこか忘れ去られてしまうのは悲しいように思います。
時代錯誤となるのかもしれませんが
捨身や献身といった自己犠牲の上に成り立つ正義というものは
どこか昔の日本人的な考え方で
個人的にはちょっと憧れてしまうような
カッコいい生き方の一つにも思えるのです。
コスパとかタイパとか
効率の良さみたいなものがどうしても重視されてしまう世の中ですが
アンパンマンのように
見返りを求めることなく自分の何かを犠牲にするということを貫いた末に
結果得られるものは
意外と何物にも変えられないものだったりするんじゃないかと思うのです。
そういう精神を貫く人間に
果たして効率重視の人間が太刀打ちできるのか、と疑問に思うわけです。
そう考えると
あんぱんまん的思考というものも
どこか自分の一部として保持していたいなと思うんですね。
そんなことを
絵本を読んでいて感じた次第です。
それでは今日はこの辺で失礼します。