モガムリズマブとラパチニブ
裏ブログの方で望月が書いてくれていた
一本何十万円の抗がん剤というお話の詳細についてでも
今日は書いていきましょう。
犬さんの膀胱や尿道に発生する悪性腫瘍で
最も多いのが尿路上皮がん(以前の移行上皮がん)という腫瘍になります。
これは膀胱三角と呼ばれる
尿管と尿道が膀胱へと連絡している付近に発生することが多く
腫瘍が大きくなることによって
尿管か尿道もしくはその両方を閉塞していきます。
尿を体外へ排出することができないと
尿毒症と呼ばれる状態となり
(尿として排泄するはずだった毒素が身体中を回ってしまうイメージです)
最終的には死に至ります。
何も治療をしなかった場合の
中央生存期間はおよそ2ヶ月とされており
何かしらの治療を施した場合でも
多くは半年から一年未満とされておりました。
腫瘍ができたんなら外科手術で取り除けばいいじゃない、と
普通は考えるわけですが
発生する場所が場所だけに
手術で摘出するとなると
膀胱・尿道を全摘出しないといけなかったり
手術に伴う腫瘍の播種も発生が比較的高いとされています。
また、それぐらい侵襲的な手術(膀胱と尿道を全部とってしまうような)
をしたとしても
2021年の東大外科のグループの報告では
膀胱・尿道を全摘出した移行上皮がんの症例の
21/24(87.5%)に再発が認められた、とされております。
完治を見込めるならまだしも
再発率が高いとなると、手術をするかどうかも非常に悩ましい腫瘍だなと思います。
その結果、色々な薬剤を用いて内科的に
生存期間1年の壁をどうにか超えることができないだろうか?という試みが
行われてきました。
で、今開催中の内科学アカデミーです。
その中で
今日のタイトル『モガムリズマブ』という薬剤の報告がありました。
その中で、この薬剤の使用成績が
奏効率71%
中央生存期間がなんと474日!!
すごくないですか?
このグループは2年前ぐらいにもラパチニブという薬剤で移行上皮がんと戦っておりまして
ラパチニブも中央生存期間が435日なんですね。
今回はこのラパチニブを超えてきた感じになります。
しかもですね。
一例だけではありますが
この二つの薬剤、ラパチニブとモガムリズマブを併用した症例という子がいるそうで
その子はなんと治療開始から3年以上経過した今も元気にしているらしいんですね。
犬さんの尿路上皮がん(移行上皮がん)の治療は過渡期を迎えているかもしれません。
ここで終われば良いことしかない話なんですが
問題は費用なんですね。
人間に使用される薬剤というものは基本的に薬価というものがあります。
なのでラパチニブもモガムリズマブも
薬価をネットで調べることも可能なんですね。
ちなみにこんな感じです↓
これがモガムリズマブ(商品名;ポテリジオ)のデータで
薬価のところわかりますでしょうか?
1バイアル=約17万円です。
この一瓶でおよそ体重20kg分のわんちゃんの治療に使います。
これを3週間に1度投与するわけです。
治療にかかる費用は薬価だけではもちろんありません。
抗がん剤投与を行う上で、血液検査・画像検査・血管確保などなど
どうしても治療に伴うその他諸々というものが存在します。
なので、どんだけ良心的な動物病院だったとしても
体重20kgのわんちゃんなら3週間に一度20万円ぐらいの費用がかかる治療方法となるわけです。
じゃあ、ラパチニブの方は?となると
これも御多分に洩れず結構かかります。
こんな感じですね↓
一錠の薬価がおよそ1700円という恐ろしい値段です。
体重10kgのわんちゃんが1日1錠となりますので
1ヶ月で1700(円)×30(日)=51000円が薬価となります。
モガムリズマブよりはやや良心的か?
いや、そんなことないですね。
こちらも結構高額です。
この二つの薬剤を併用するとかなると
かなりの金額になるわけですが
一年の壁とか言われていた病気の生存期間が
本当に3年以上まで延びるのであれば
この治療をやりたいという方は絶対に存在すると僕は思います。
僕らの仕事は
ご家族が希望される治療にできるだけ沿えるよう努力することです。
どうせ高いからこんな治療しないでしょ、とか勝手に決めつけて
選択肢を提示しないのは違うと思います。
僕らがやらないといけないことは
ご家族がやりたいとおっしゃるのであれば
その希望に全力で応えることができるような準備をしておくことであり
こういう情報をきちんと頭の片隅に留めておいて
いつでも引き出せるようにしておくことです。
こういうセミナーを聴くと
めちゃめちゃ治療方法をやってみたくなるのですが
症例が来ないことにはできないわけです。
なので、もしわんちゃんの尿路上皮がん(移行上皮がん)でお悩みの方とかいらっしゃれば
ぜひ相談に来てください。
来週は抗がん剤投与だけで3件の子を実施予定です。
当院も腫瘍内科症例が増えてまいりました。
何か新しいご提案ができるかもしれません。
よろしくお願いいたします。
長くなりましたので
本日はこの辺で終わりにしたいと思いますが
望月が書いていた新しい医療機器については
また今度紹介したいと思います。
僕的には新しいおもちゃを買ってもらう感じでしょうか。
金額が1000万円とか高過ぎるおもちゃですし
結局借金は増えてしまうわけですが
モチベーションを上げたり治療の質を上げたりするのには
必要な買い物なんだろうなと僕は思います。
詳しくは後日のブログを楽しみにしておいてください。
それでは、今日は失礼いたします。