薬剤性急性腎障害の話
今月号のCLINIC NOTEのテーマが『致死的な副作用への対応法』なんですけど

アナフィラキシーや薬疹、発熱性好中球減少症や腫瘍崩壊症候群なども紹介されていたのですが
その中のテーマの一つに薬剤性腎障害があげられていたので

今日はそこの内容をまとめて紹介したいと思います。
いつもこのブログではACE阻害薬やARBには注意を〜とか書いているわけなんですど
あんまりまともに受け取ってくれない人も多いみたいなんで
書籍の中でもきちんと書かれてあるんですよ、ということを含めて紹介したいと思います。
薬剤性急性腎障害を引き起こす薬剤の代表例としては
NSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛剤)、利尿剤、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アミノグリコシド系抗菌薬、抗がん剤
浸透圧利尿剤などが挙げられます。
薬剤性の腎障害も通常の急性腎障害と同様に
腎前性や腎性というものに分類されるわけですけど
NSAIDsや利尿剤、ACE阻害薬、ARBは、腎血流量や血圧低下により糸球体濾過量が低下することにより
腎障害が発生するので、腎前性に分類され
アミノグリコシド系抗菌薬や腎毒性のある抗がん剤、浸透圧利尿剤は腎性の急性腎障害を起こすものとなります。
今回は、比較的発生の多いと考えられるNSAIDsとACE阻害薬・ARBについて書いていきます。
NSAIDsは炎症や痛みの原因となるプロスタグランジンの産生に関与する酵素である
シクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを阻害することにより、抗炎症・鎮痛効果を示します。
このプロスタグランジンには、胃粘膜を保護したり、腎血流を維持する働きもあるため
ここを抑えちゃうと、胃が荒れてきちゃったり、腎障害が生じちゃったりするわけですね。
特に、犬猫さんが脱水している時や血圧が下がっている時なんかや
もともと腎機能が悪いとされている慢性腎臓病の患者さんなどでは
NSAIDsによる腎障害のリスクは上昇すると考えられています。
なので、吐いて下痢して食欲もなくて・・・みたいな
明らかに脱水している犬猫さんなどに
お腹が痛そうだねえ、とか言ってNSAIDsを打つことは
その子の腎臓にトドメをさすことになりかねないということですね。
特に高齢の犬猫さんとかで
家に痛み止めの頓服としてNSAIDsを持っている人とかもいらっしゃるかもしれませんが
身体が脱水していそうな時に飲むと危険なので注意しましょう。
あと、これは補足になりますが
NSAIDsには腎臓の糸球体濾過量を低下させて腎障害を引き起こす機序以外にも
アレルギー反応により急性の尿細管間質性腎炎を引き起こしたり
腎血流量低下の結果、腎乳頭の壊死を起こすなどの、腎性の急性腎障害を惹起する可能性もあるそうです。
次にACE阻害薬とARBについていきますが
これらは両方ともレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系という経路を抑えるものになるので
RAS阻害薬と呼ばれたりするので、今回は二つ合わせてRAS阻害薬と表現しますね。
RAS阻害薬は、血圧を上昇させるアンジオテンシンⅡの生成を抑制したり
アンジオテンシンⅡ受容体をブロックすることにより血圧上昇を抑えます。
この作用は、腎臓の輸出細動脈に働きかけ、糸球体内圧が低下することで
過剰に高くなった糸球体内圧を下げ、糸球体への負荷や蛋白尿排泄を軽減・抑制するわけです。
なので、タンパク尿が尿中に排泄されている患者さんにとっては有用な薬剤であるものの
一方で、この作用は糸球体内圧の低下によって糸球体濾過量が低下し
腎障害を起こすリスクも同時に秘めている薬剤になります。
そのため、ACE阻害薬とARBを併用することは
薬剤性の急性腎障害のリスクを高めることから併用は避けるべきだと
この雑誌にも書かれてありますし
僕自身もキドニークラッシャーの異名を持つ(あ、僕が勝手に呼んでいるだけですが)
静岡市内の先生が併用している症例を見たことがありますが
腎数値は大幅に上昇し、状態は悪化、大変なことになっておりましたのでオススメしません。
また、NSAIDsの場合と同じですが
RAS阻害薬に関しても、循環血液量が減少しているような脱水している犬猫さんや
利尿剤の使用によってレニンの分泌が刺激されているような子たちに関しては
過剰に糸球体内圧を低下させ、急性腎障害になるリスクが高まるので
投与する際には低用量から慎重に開始することが推奨されています。
僕個人的には、状態の悪い脱水状態にある犬猫さんには服用を勧めておりません。
最後に、雑誌の中に書いてある
薬剤性急性腎障害を起こさないための予防策の部分を紹介しておきますが
NSAIDsについても、RAS阻害薬に関しても
高齢や重症例、循環血液量減少などのリスク因子がある動物への投与は慎重に行うか
もしくは回避すべきだと書かれてあります。
もし、どうしても投与しないといけないような状況なのであれば
(あんまりそういう状況ない気もしますが)
きちんと水和状態を回復させて、可能な限りリスクを下げる方が良いとされています。
また、すでに慢性腎臓病などの腎機能が低下している犬猫さんに
NSAIDsやRAS阻害薬を投与する場合には
投与量を減量したり、投与間隔を延長することを検討すべきとされています。
最後はサラッと書いていますが
現状の日本の動物医療においては
『腎臓の数値が高い』=『RAS阻害薬が適応』と考えてしまっている獣医師が結構な数存在します。
僕が知っているだけで静岡市内に5人以上はいらっしゃいますので
たぶん、日本全国どこでも起こっている事象かと思います。
別に、慢性腎臓病がある子に絶対RAS阻害薬を処方したらいけないというわけではなく
タンパク尿が重度であったり、高血圧が抑えられなかったり
どうしても必要という場面はあるとは思います。
ただ、そういう子に対して使用する場合でも
きちんと水和状態は回復した上で、低用量からスタートする、慎重にモニタリングするなどの
対策を取らないと危険なんじゃないかなって思います。
そもそも、RAS阻害薬については
尿蛋白も高血圧も確認されずに処方されてしまっているケースがほとんどな気がしますしね。
血圧測定もどうやら実施していない動物病院の方が多いみたいですし。
今回のテーマになっている致死的な副作用の対応法として挙げられている
他の致死的な副作用達と比べると
結構な頻度で起こっていることなんじゃないかな、って僕は考えています。
ただ、これ皮肉なのが
腎臓の数値が高い → RAS阻害薬を処方 → 腎数値が余計に悪くなる
→慢性腎臓病が悪くなってるね、早めに薬を始めておいてよかったね、と勘違いされちゃうパターン。
結果、この子は服用を続けて腎数値はどんどん悪化していき
何もしてなければ進行しなかった慢性腎臓病がどんどん悪くなっていき
薬を飲み続けたがために寿命を縮めてしまう、ということに陥るわけです。
怖いですよね。日本の動物医療は。
もう遅いかもしれませんが
あんまり書いていると怒られそうなので、これぐらいでおしまいにします。
それでは、今日はこのへんで。