犬B細胞性リンパ腫に対する抗CD20抗体併用CHOP:R-CHOP型治療の可能性
犬のB細胞型リンパ腫に対する治療と言えば
CHOP療法でお馴染みの化学療法が主流だと思います。
この従来のCHOP療法に、犬さんの抗CD20抗体を併用する研究が報告されました。
人医療では、リツキシマブという抗CD20抗体を用いたR-CHOP療法が行われており
犬さんのリンパ腫の治療においても
このR-CHOP療法が現実的に可能になるかも?
しかもCHOP療法単独よりも成績が良いかも?
といった、そんな報告になっています。

山口大学の水野先生やがんセンターの小林先生が共同で研究されている
日本から出た論文で、今後の標準治療への発展をすごく期待させる内容なので共有しておきます。
少し長いですが、もしよろしければお付き合いください。
まず、背景として
犬さんのリンパ腫は、小動物臨床の現場で比較的よく遭遇する血液腫瘍の一つです。
その中でもB細胞性リンパ腫は犬さんのリンパ腫の大部分を示すとされ
論文の中でも犬リンパ腫全体の60-80%を占めると説明されています。
先ほども述べたように
犬さんの多中心型リンパ腫、特にB細胞性リンパ腫に対する標準治療は
長年に亘りCHOP療法が主体となっています。
過去にもブログで触れたことがありますが
CHOPというのは各薬剤をそれぞれ指しておりまして
C:シクロホスファミド、H:ドキソルビシン、O:ビンクリスチン、P:プレドニゾロン
の4種類の薬剤を組み合わせた多剤併用化学療法になります。
このCHOP療法は現在でも犬さんのリンパ腫の治療の中心ですが、長期成績には限界があります。
生存期間中央値はおよそ1年、2年生存率が全体で約20%とされています。
また、再発後にはCHOPの再導入、ロムスチンやLアスパラギナーゼ、ミトキサントロンなど
各種薬剤を用いてレスキュー療法が試みられるものの
再発後の治療反応は十分とは言えません。
近年では、ラバクフォサジンやバーディネクサーなどの新規薬剤が登場しているものの
長期間会や生存期間を劇的に改善するには至っていないという背景があります。
そのため、新しい治療戦略が求められている、というのが現状かと思います。
一方で、人医療においては、先述のR-CHOP療法というものがあります。
上記のCHOP療法に抗CD20抗体であるリツキシマブを加えることで
CHOP療法単独よりも、治療成績が大きく改善したという経緯があります。
CD20はB細胞の分化過程で発現する表面抗原で
多くのB細胞性腫瘍でも発現しており、B細胞性リンパ腫の治療において重要な位置付けとなっています。
ただ、リツキシマブはヒトのCD20の抗体になるので
犬さんにそのままリツキシマブを用いることができません。
そのため、犬さんには犬さん用の犬抗CD20抗体が必要になるということになり
この問題が、獣医療で抗CD20抗体療法が広く実用化されてこなかった大きな理由の一つになります。
そこで、今回の研究では犬さんのCD20を標的にしたキメラ抗体が用いられました。
細かい話は僕も理解しきれていないので省略しますが
今回用いた抗体は、抗体依存性細胞障害活性という指標が強いものであるのと同時に
犬さんの末梢血のB細胞を強力に枯渇される作用を持つものだったそうです。
事前の臨床研究においても、健康なビーグルさんに単回静脈投与すると
24時間以内に末梢血のB細胞が完全に枯渇し、その効果が2-3週間持続したそうです。
このような背景を踏まえて
この抗体をCHOP療法に併用し、安全性、治療効果、B細胞枯渇の持続性が評価されました。
対象となったのは、未治療の高悪性度B細胞性リンパ腫の犬さん13頭で
ステージ3が2頭、ステージ4が2頭、ステージ5が9頭
サブステージはaが10頭、bが3頭なので
ステージは進行ステージ症例が多い一方で、全身状態が比較的保たれている集団かと思います。
また、治療前にステロイド投与を受けていなかった子が11頭
受けていた子が2頭という内訳でした。
犬さんのリンパ腫治療においては、治療前にステロイドが投与されていることが
予後に影響する可能性があるため、ステロイド前治療がない症例が多かったことも
良好な成績の一因になった可能性はあります。
具体的な治療内容としては
従来のCHOP療法に用いる化学療法剤の投与量は変わらず
抗体薬は基本的にビンクリスチンと同日に投与されています。
ただ、第1週だけは例外とされ、投与前にジフェンヒドラミンとプレドニゾロンコハク酸エステルが投与されています。
抗体薬は、生理食塩水で希釈し、2-3時間かけて点滴で投与されたみたいで
最初はアレルギー反応に注意しながら徐々に流量をあげていくイメージみたいです。
結果は、全ての例で完全寛解が得られましたが
プロトコル完遂率は53.8%、つまりは6頭が途中で離脱しました。
離脱理由としては
2頭が治療開始約3ヶ月後に進行、3頭は重要な有害事象により中止、1頭は4週目に死亡
という結果になっています。
本研究の結果をまとめると
全13頭における無増悪生存期間中央値は340日で、全生存期間中央値は458日でした。
1年生存率は69.2%、2年生存率は38.9%という結果となり
これだけを見ると、既存のCHOP療法の単独よりは成績的に良好な数字に見えます。
実際、これらの症例の中には4年以上の長期寛解を示した犬さんも存在したそうなので
良いのかもしれません。
ただし、裏を返すと
13頭というn数が少ない研究にはなるので
そのうちの数頭がたまたま長期生存する子達だったとすると
結果の解釈に影響する可能性もあるので
その点は、この研究の限界なのかなと思います。
症例数は少ないことが欠点の一つだと思いますし
純粋に、CHOP療法単独と比較したものではないので
この報告だけで、今すぐ標準治療に!とはならないかもしれませんが
結果的に、明らかな有害事象などは認めず、成績も良好のように見え
かつ、B細胞を枯渇させる効果に関しては長期間持続したことも確認されていることから
一定の効果は期待できるものに思えます。
この研究の最大の意義は
犬さんおB細胞性リンパ腫に対して
人と同じようなR-CHOP療法というものが現実味を帯びてきたということかと思います。
将来的には、犬さんのB細胞性リンパ腫の標準治療の新規療法として
確立される可能性もあるかもしれません。
これからの更なる研究報告に期待したいところですね。
それでは、今日はこのへんで失礼いたします。