てんかん重積に対する治療薬の選択
今月のVeterinary Boardの特集は『発作』です。
色々と書かれてある中で
今日はてんかん重積の時に選択される薬剤についてでも。
てんかん重積とは
臨床的には、5分以上持続するてんかん発作を指します。
このてんかん重積の病態にもステージというものがありまして
発作の時間が5-10分ぐらいを切迫期(stage1)
10-30分を確立期(stage2)
30分以降を耐性期(stage3)
24時間以降を超耐性期(stage4)となっており
それぞれ体の中で起こっていることが異なっており
薬剤への反応性も異なるため、選択される薬剤も変わってきます。
今日はその薬剤について。
てんかん重積の管理における目的の第一は
現在起こっているてんかん発作を可能な限り早期に止めること、です。
当たり前かもしれませんが、まずは発作を止めないといけません。
それにより高体温、代謝異常、低酸素などの合併症を最小限に抑えることができます。
今起きているてんかん発作を止めた後はどうするか?
次は、その薬剤管理からの離脱が目標となります。
具体的には、持続点滴で薬剤を流しているなら
それを減らして、断薬していき、発作が起きないかどうかを見ていきます。
それらのてんかん重積の管理の間に
一般的な抗てんかん薬療法を開始して
管理から離脱できた後に、てんかん療法への切り替えを目指すわけです。
じゃあ、具体的にどんな薬剤を使用するのか。
ACVIMコンセンサスステートメントにおいて
使用される薬剤とその投与経路が
使用する際の選択段階(First lineからThird lineまで)ごとに分類がされています。
てんかん重積の治療薬としてFirst lineとなるのは
静脈内投与または鼻腔内投与によるベンゾジアゼピン系の投与
とされています。
主に用いられるベンゾジアゼピン系薬剤に
ジアゼパムとミダゾラムがあります。
ミダゾラムの方が、より効果的で安全である可能性があるとされてはいますが
効果はその子によって異なるとは思います。
ベンゾジアゼピン投与後の発作停止時間の中央値は
ミダゾラムの静脈注射、鼻腔内投与、ジアゼパムの静脈内注射で
それぞれ1分、0.8分、1.25分と報告されているので
鼻腔内投与も結構すごいですよね。
以前にも書いたことがあると思いますが
昔はジアゼパムの坐薬であるダイアップ坐薬とかを
痙攣が起きたら使ってください、と処方された歴史もあったりします。
ただ、坐薬の投与については
現在進行形で起こっているてんかん発作を止める効果は期待できないので
未だに処方されている方はご注意ください。
Second lineの薬剤として挙げられているのが
フェノバルビタールとレベチラセタムですね。
これらの静脈注射を何度か繰り返すか、持続点滴するかがSecond lineとされています。
これらの薬剤は
早期の使用によって、多剤併用による早期の発作終息が期待され
難治性てんかん重積への進行を防ぐこともできるとされているので
場合によっては、早期の使用も検討して良いとされています。
この二つの薬剤は
注射薬も経口薬もあり
注射で血中濃度を安定させた後は
経口薬に切り替えがスムーズにできるという点が良いですね。
僕の個人的なお気に入りはレベチラセタムで、最近よく使用するようになりました。
Third lineとしては
ケタミン、デクスメデトミジン、プロポフォール、吸入麻酔薬など
麻酔薬が含まれてきまして
FirstからSecond lineの治療に対する反応が乏しい場合に選択されるものとなります。
ここら辺になると
呼吸抑制などには注意しないといけないですし
心血管系への抑制も起こる可能性が出てくるので、低血圧などにも注意が必要です。
どうしても発作が止められないなら
麻酔をかけてどうにか脳の興奮を抑えようといった、そんなイメージの治療です。
本当に止まらないてんかん発作に対しては
こういった麻酔薬などを持続点滴で入れ続け
発作が終息した場合は、それを12時間(理想は24-48時間)継続し
そこから薬剤を減らしながら断薬を図っていくという流れになります。
結構、マンパワーと個人の体力勝負みたいな治療になってくるわけですが
本格的なてんかん重積はそんなイメージです。
とりあえず、一通り書いてみましたが
自宅でも関係するとしたら、First lineの治療でしょうか。
当院では、鼻腔内投与のデバイスをご家族様にお渡しし
自宅で投与していただくこともあります。
5分以上続くてんかん発作は可能であれば早めに止めてあげる方が良いと思いますので
動物病院に来るまでにできれば止めてあげたいですしね。
あんまり参考にならないかもしれないですが
何かのお役に立てれば幸いです。
それでは、今日はこの辺で。