犬さんのタンパク漏出性腸症に合併する血栓塞栓症
今年の獣医内科学アカデミーは第21回になりますが
僕が内科学アカデミーに初めて参加させていただいたのは
大学5年の時なので
今から12年前ぐらいになるのかなと思います。
その時、学生スタッフとして学会のお手伝いをさせていただいておりまして
僕が担当する部屋が血液関連の講義の部屋だったので
学会の仕事をしながら、空いた時間に講義を聴いておりました。
僕が血栓塞栓症の治療についてきちんと話を聞いたのは
多分その会場が最初だと思います。
当時はまだ低用量アスピリンが使用されたりしていた時代で
血栓塞栓症の予防を推奨する疾患としては
タンパク漏出性腎症とIMHA(免疫介在性溶血性貧血)が挙げられ
場合によっては予防が推奨される疾患に
確かクッシング症候群とかタンパク漏出性腸症が入っていたかと思います。
(12年も前の記憶なのでうろ覚えですみません。)
そこから12年の時が流れ
今回の内科学アカデミーの中でタンパク漏出性腸症の際の血栓塞栓症の話がありました。
昔とは違って色々と違う知見も出てきているみたいでして
以前の報告では、合併症としての血栓塞栓症はそんなに多くないという話だったですが
去年のアメリカの獣医内科学会の中での発表で
タンパク漏出性腸症の際の血栓塞栓症の発生率は
42症例中の10症例で、なんと24%もあったということなので
それなりに遭遇する確率の高い病態だということになっています。
何でタンパク漏出性腸症の時に血栓ができちゃうんだろう?という原因についても
昔はアンチトロンビン(血栓を溶かそうとする方向に働くタンパク質)が減っちゃうからじゃないか
って感じだったんですけど
どうやらアンチトロンビン単独の影響だけではないんじゃないかっていう報告も出てきたり。
アンチトロンビンの低下以外の原因としては
血小板数の増加
白血球数の増加
ステロイドの使用
なんかが挙げられておりましたが
確かに、タンパク漏出性腸症の患者さんで血小板数が増加している子って
まあまあいるんだよなあ、という印象だったり
他の病院さんで
タンパク漏出性腸症と診断されて
まあまあの量でステロイドを処方されている子なんかに
門脈血栓が詰まってたんだろうなって子も何度か経験があるので
そこら辺は原因としては確かに存在しそうな感じです。
しかも、今回の講演のお話では
治療の奏功によって低下していたアルブミンの数値が改善した後も
凝固亢進状態は続いていた、ということだったので
アルブミンが戻っているからといって安心しちゃいけないってことなのかなと思います。
こういう話を総合して判断すると
タンパク漏出性腸症と診断した時点で血栓の予防として
抗血小板薬か抗凝固薬の使用は検討した方が良いのかもしれないです。
前々からそんな話はちょくちょく聴いてましたし
実際そうなんだろうなあとは思ってはいたものの
投薬数が増えちゃうのもなあ、とか考え
なかなか全員に処方とまではいってませんで。。。
僕自身は、ステロイドをそれなりの頻度・用量で飲まないといけない期間だけ
クロピドグレルを処方するに留まってはいたものの
今回の講演を聴いて
そこも改めないといけないのかなあ、と思いました。
どうしようか、もう少し考えてみます。
そんなわけで
今日は犬さんのタンパク漏出性腸症の際の血栓塞栓症のお話でした。
それでは。