新しいアスパラギナーゼ製剤
昨日に引き続き、リンパ腫の化学療法ネタです。
このブログに書くことで
自分自身の知識のアウトプットや整理にも使っているので
詰まらない方はごめんなさい。
ご理解いただけますと幸いです。
一般的なリンパ腫の治療として用いられる抗がん剤の一つに
L-アスパラギナーゼという薬剤があります。
商品名ロイナーゼという薬品が一般的に用いられていると思います。
こちらは他の抗がん剤とはやや趣向が異なり
消化器毒性や骨髄抑制といった有害事象があまり問題になりません。
アレルギー反応さえ注意すれば
非常に使い勝手の良いお薬です。
昔は、犬さんの多中心型リンパ腫の際には
CHOP療法の中に組み込まれて
L-CHOPなどと呼ばれていましたが
現在では、最初からこのL-アスパラギナーゼを使うことはなく
どちらかというと、奥の手的な感じで
CHOPが効かなくなった後のレスキュー療法の際に用いられることが多い薬剤です。
(*あくまで多中心型のリンパ腫においての話です。
消化器型リンパ腫など他のリンパ腫においての立ち位置はまた異なります。)
実際に当院でも
去年の8月に初めて多中心型リンパ腫を発症したわんちゃんで
昨日話に出ていたUW-25プロトコルによって完全寛解となり
半年間の治療が今年2月の頭に一旦治療を終了した子が
6月に再燃した子がいます。
本来の医学的な正しさとしては
再度CHOP療法を導入することではありますが
副作用のこともありましたし
話し合いの結果、再度CHOP療法を実施することはせず
上記のL-アスパラギナーゼとステロイドだけで治療することとなりました。
そこからおよそ5ヶ月が経過しますが
今も元気で頑張ってくれています。
最初のリンパ腫発症からおよそ15ヶ月が経過しており
一般的な多中心型リンパ腫の生存期間中央値397日を上回ってくれています。
こんな感じで
効果のある時はすごく頼りになるお薬が
L-アスパラギナーゼという薬剤です。
今回はこれの新しい?お薬のお話です。
ペグアスパルガーゼとクリサンタスパーゼというお薬。
ペグアスパルガーゼは
ポリエチレングリコールによってL-アスパラギナーゼを修飾した薬剤で
抗原性を低下させ、血中半減期を延長させています。
つまりは副作用であるアレルギー反応の発生率を低下させるのもそうですし
耐性もできにくいので、繰り返し使える可能性もある。
血中半減期を延長ということは分解されるまで時間がかかるということなので
薬剤としての効果持続期間を長くした感じのお薬というわけです。
単純にLアスパラギナーゼのパワーアップバージョンですね。
一方のクリサンタスパーゼは
L-アスパラギナーゼが大腸菌由来の酵素であるのに対し
Erwiniaという細菌由来の酵素になります。
つまりは抗原性が違うので
L-アスパラギナーゼを使用後に耐性になってしまった
つまりは効果がなくなってしまった子に対しても
まだ使える可能性がある薬剤ってことになります。
普通の薬剤が効かなくなってからも
選択肢を残しておいてくれるってだけで素晴らしい薬剤だと思います。
ただ、この二つの薬剤の一番の問題点が、その費用面です。
ペグアスパルガーゼの薬価は1バイアルで23万円。
クリサンタスパーゼは1バイアルでおよそ17万円です。
これを週一とか二週間に一回、三週間に一回と投与をするとしても
なかなか手の出しづらい価格帯の薬剤かと思います。
いずれのお薬も日本の医学分野で使用できるようになったのが
2023年とかの話だそうなので
これから薬価改訂とかで、安くなってくる可能性はあるのだと思いますが
そうなってくれないと
なかなか普通のリンパ腫の治療において
主力選手として活躍してもらうのは難しいですよね。
でも、夢のあるお薬たちだと思います。
他にも今まで使ってたお薬だけど、使い方の部分であったりが
地味にアップデートされてきていたり
同じ、犬さんの多中心型リンパ腫ではありますが
毎年のように少しずつ改良されてきているように思います。
一般的には、抗がん剤療法を頑張っても一年ちょっとというのが
現時点での生存期間中央値となっているのかもしれませんが
実際には、先ほど例に挙げさせてもらった子もそうですし
2年以上頑張ってくれた子もいらっしゃいます。
少しずつでも、統計的な中央値を超えられる症例が増えてくると良いですし
そうできるように頑張りたいと思います。
それでは。