世界観
本日で、当院の夏季休診は終了となり
明日から通常診察に戻ります。
少しばかり長いお休みをいただきありがとうございました。
明日からまた頑張ります。
VESの年次大会のテーマの一つが人工呼吸管理でありました。
当日は、人間の呼吸器内科・集中治療であられます田中竜馬先生もソルトレークから
オンラインで参加してくださり、色々とご意見を述べられておりました。
ARDS(急性呼吸窮迫症候群)が取り上げられておりましたが
動物の人工呼吸管理が可能な期間が長くても1週間だというお話しを聞いた田中先生曰く
そりゃあ、動物だと救命は難しいねえ、って感じみたいです。
なんでかって
ARDSの病態から考えると
炎症が落ち着いてくるまでに最低でも3週間以上はかかるみたいで
3週間以上の人工呼吸管理が必要となるそうです。
人工呼吸管理と表現するとイメージつきにくいかもしれませんが
犬・猫さんは気管チューブを喉に入れた状態で
ずっとじっとしておくということをもちろん許容してくれないので
人工呼吸による呼吸サポートをずっと続けるということは
即ちずっと全身麻酔をかけ続けるみたいな感じになります。
肺で起こっている炎症が治ってくるまで
自分の呼吸だと呼吸筋が疲れてきちゃったり
酸素化とか換気が上手くできないから
ずっと動物には寝ておいてもらって
機械による呼吸でサポートを行うわけですね。
それを3週間以上です。
その話になった時に
会場にいた先生方的にも笑うしかない、って感じの表情でありましたが
それでもそこにいる獣医師の先生たちって
そこそこ麻酔とか集中治療とか好きな先生たちなわけなんです。
小動物臨床に携わる獣医師が全国に15000人ぐらいいるうち
集中治療に興味のある獣医なんていうのは
多分1%もいないと思われ・・・
そんな物好きな獣医師たちですら笑うしかない状況っていうのは
やっぱり医療と同等のレベルの集中治療管理まで目指すことって
なかなか道のりが長いことなんだろうなって思いました。
ハードルは色々とあると思います。
マンパワーや動物病院の施設面の問題はもちろん
ものすごい費用のかかる治療ではあると思いますので
患者様側の意識の変化も必要なのかもしれません。
そして何より
動物医療に携わる獣医師や愛玩動物看護師が目指す医療のレベルを
どこまで高度なものにしていきたいと考えているか、というのも大きな問題だと
個人的には考えています。
こういった講演を聞いて
夜はその先生方と色々とお話をさせていただく機会があって
翌朝の新千歳空港で
僕は病院のメールに届いていた相談に返答しておりました。
内容は
下痢になる度に抗菌薬しか処方してくれないかかりつけの動物病院の話と
どのように対応したら良いか、というご相談でした。
集中治療が好きな獣医師の割合と
急性の下痢症状に対して抗菌薬しか処方しない獣医師の割合を比較すると
圧倒的に後者が多いのが日本の動物医療事情なわけです。
新型コロナウイルス感染症の時に
人工呼吸器が足りないみたいなニュースになったりで
人工呼吸管理がちょっと話題になりました。
動物のARDSとかがそんな感じで当たり前のようにどこの地域に住んでいても
きちんと治療される時代とかがいつか来るんでしょうか。。。
同じ小動物臨床に従事する獣医師でも
見ている世界観は全然違うなあって感じます。
こんな感じで書いていると
一見、色々と勉強して、診療技術とか知識とかをアップデートしている獣医師の方が
世の中的に正しいでしょ、ってなると思うじゃないですか。
でも、どっちかが正しくて、どっちかが間違っているとかじゃないんですよね。多分。
社会が何を必要とするのかによってその時の正義なんてものは変わるもんでありまして
抗菌薬の注射をして下痢を治してくれたように見せてくれる獣医師を必要とする人の数が多ければ
その先生はきっとそのご家族にとっては頼れるスーパーヒーローなわけでして
頼られている以上、そういう獣医師は淘汰されません。
一方で
ARDSなんて動物と生活していて経験する方が珍しい病態の管理が適切にできたところで
社会的な需要がなければ食っていくことはできません。
ほんと難しいもんです。
以前は、変な医療をやる動物病院とかなくなってくれへんかなって
結構本気で思ってましたし
どうやったらそういうとこ淘汰できるんやろうって本気で悩んでましたが
上記のような理由もあり
自分が何かしたからって何かが変わるわけではないんだなって、最近は思います。
まあ、でも、僕は呼吸苦で亡くなる動物を見たいとは思わないので
その苦しみから解放できる術を学べるのであれば学びたいと思う人間です。
結局はただの自己満足なわけですが
ただの自己満足で助けられる命があって、喜んでくださる人がいるんだったら
それでいっか、って感じです。
みなとまちアニマルクリニックとして
積極的な治療を希望されない方には
そういった方向での選択肢をたくさん提示したいって思いますし
とことんやりたいぜ!って人には全力で医療行為を施すための選択肢が必要です。
今回の自己満足はその選択肢の拡大の手段ですね。
下痢での抗菌薬の話みたいな間違った医療行為をやるというのは違うと思いますが
根治治療を目指さずに緩和的な方向性で考えるっていうのは、立派な医療だと僕は思います。
そういった意味合いで
治療の選択肢の幅が広いっていうのは
病院としてはどっちも大事なんですよね。
なんか色々と思ったことを書いていたら終わりそうにないので
今日はこの辺で自重しておきます。すみません。
それでは、明日からまたよろしくお願いいたします。