過度なタンパク質制限
先日初めて当院を来院された腎臓病のセカンドオピニオンの患者様。
クレアチニンが6.5とかだったので
完全にステージ4に当てはまるわけですが
御多分に洩れず、血液検査と皮下点滴しかされていなかったので
血液検査、画像検査、血圧測定、尿検査などを実施し
その後、定期的な皮下点滴も中止することとなりました。
レントゲン上も、超音波検査上も
左右の腎臓に重度の石灰沈着と思われる病変が多数。
尿蛋白もまあまあ認められました。
で、血液検査上はすごい高カルシウム血症。
猫さんの場合は、特発性高カルシウム血症という病気があるのですが
犬さんの場合、悪性腫瘍が否定的であれば
高カルシウム血症の原因は、上皮小体(副甲状腺)機能亢進症のことが多いと思います。
原発性の上皮小体機能亢進症も存在しますが、珍しい印象で
多くは二次性の上皮小体機能亢進症であることが多いです。
二次性は腎性と栄養性に分かれますが
大抵、腎性であることがほとんどです。
すごくざっくり説明すると
腎臓が悪くなってリンの排泄ができなくなり
それによってカルシウムが下がってきてしまうため
それを感知して
身体の中で上皮小体ホルモンがたくさん出して、カルシウムを上げようという感じの流れです。
その結果、血中のリンもカルシウムも高くなってしまったりすると
身体中の臓器に石灰沈着を起こすことが多く
腎臓もその臓器の代表例であります。
腎臓に石灰沈着を引き起こせば、当然の如く、腎臓の機能へ影響を与えるわけで
慢性腎臓病の悪化因子の一つと考えられております。
なので、前置きが長くなりましたが
今回の子も、進行した慢性腎臓病で高カルシウム血症があったので
腎性のものかな?とお考えました。
ただ、まだ年齢は11歳と比較的若い年齢ですし
通常の慢性腎臓病っぽくない印象を受けました。
で、お話をお伺いすると
他院さんで尿石症の手術をした4、5年前ぐらいから
動物病院で出された療法食を食べていた、と。
フードの種類を聞いてみると、通常は一般的には使用しない特殊な療法食でした。
そのフードの構成成分は、タンパク質が10.9%、カルシウムも0.45%しかありません。
これは、いわゆるタンパク質制限を行うために処方する腎臓病療法食よりも結構低い数値です。
なので、僕のこの子の病態における仮説は
①慢性腎臓病→腎性上皮小体機能亢進症→高カルシウム血症→石灰沈着、という流れではなく
②療法食による重度のタンパク質・カルシウム制限
→低カルシウム血症→栄養性上皮小体機能亢進症→高カルシウム血症
→腎臓への石灰沈着→慢性腎臓病、という流れです。
わかりにくくて申し訳ありませんが
簡単にまとめると
不適切な療法食が原因で腎臓に石灰沈着が起こって、それが原因で慢性腎臓病になったんじゃないかって話です。
これが本当なら医原性の慢性腎臓病かもしれません。
で、その仮説を立証するために
フードの変更をお願いしました。
今食べていた療法食から、普通のシニア食に変更をしてもらいました。
食事中のタンパク質量が増えるので、腎臓の数値は上がるはずですし、おそらくリンの数値も上がるはずです。
カルシウムが高い子に、今よりもカルシウムの入ったフードを処方するという
少し矛盾していそうな処方ですが、そうしてみました。
結果的に、1週間ちょっとで
血中カルシウム濃度は14.4→8.4(正常値は9.3〜12.1)になりました。
高カルシウムどころか、少し低いぐらいの結果になりました。
カルシウムの摂取量は増えたはずなのに、血中カルシウム濃度は減るというのは
何とも不思議なものですよね。
とりあえず、この子は新しいフードに慣れたら
慎重にリン制限をかけていく形になると思います。
慢性腎臓病関連のミネラル代謝異常というのは本当にややこしいですね。
猫さんの慢性腎臓病の管理の項目にFGF23が出てきた際にも
早期からの過度のタンパク質制限は高カルシウム血症のリスクとなるよーみたいな
注意喚起がなされておりましたが
今回の子は、そういう事例を目の当たりにしたように思います。
療法食というものは
適切に使用すれば病態に対して上手く働いてくれるお薬のように作用しますが
不適切な使用によっては今回のような医原性の病態悪化を生んでしまうように思います。
療法食は薬と一緒、というような考え方で
軽はずみな仕様は避けていただきたいところではありますが
ドラッグストアやホームセンターやamazonや楽天にも
療法食が流れてしまっていること自体が問題だったりもするんでしょうかね。
今回のケースは動物病院から処方されてしまっているので、防ぎようがないのですが
基本的には動物病院の獣医師と相談し、療法食は選択するようにしましょう。
それでは、今日はこの辺で失礼いたします。