心原性肺水腫の救急対応と集中治療
昨年末に参加した獣医麻酔外科学会の中で
タイトルの内容がテーマの講演・ディスカッションがありました。
その中の一つのテーマとして挙げられていたのが
通常の救急的な内科療法のみだけでは反応が乏しい
難治性の心原性肺水腫症例に対する人工呼吸管理というものでした。
ここ10年ぐらいで日本全国の救急・集中治療の獣医さん達が
先陣を切ってチャレンジしてくださったのが、この治療でありまして
簡単に説明すると
自分自身の呼吸では酸素化や換気が上手くできないので
気管チューブを気管に入れて、人工呼吸器に接続して
呼吸管理を機械でやってしまおう、という感じの治療方法です。
新型コロナが流行した時に、人工呼吸器の不足が問題になりましたが
それもこの人工呼吸器による呼吸器疾患の治療というものになります。
ただ、言葉で表現するのは簡単ですが
実際は、そう単純なものではなくて、色々な問題を孕んでおります。
麻酔外科学会の講演の中でも挙げられていた問題点として
獣医師側の問題と、患者様側の問題が述べられておりました。
獣医さん側の問題としては
抜管(気管チューブを外して自発呼吸の状態に戻ること)まで
長時間に及ぶ綿密な管理が必要となるので
そのための24時間体制が取れるマンパワーが必要なことだったり
他の診療業務を同時並行で行わないといけない問題であったり
ライフワークバランスなどあったもんじゃない、という点であったり
獣医師だけでなく動物看護師なども含めて
循環管理・呼吸管理に関わる専門的な知識や技術、経験が必要であったり
そんなことが述べられておりました。
実際、一つの夜間救急病院さんでは
朝8時までしか対応ができないので
人工呼吸管理をしてもその時間までに改善がなければ
改善の見込みがなさそう、と判断することもあるというお話でしたし
そこら辺は施設ごとによってかなり変わってくる印象です。
マンパワー・時間帯・医療設備・経験や知識など問題は挙げ出したら山積みです。
そのためか
そもそも人工呼吸で管理しようとする動物病院自体、かなり少ないです。
患者様側の問題としては
一番は費用的な問題かと思います。
24時間体制でずっとモニタリングし治療し続けるような体制を取るので
当然それ相応のご費用がかかってきます。
あとは、その治療を行ったからといって全頭が生存できるわけではないという点と
この治療自体が原疾患の治療ではないので
そこで助かったからといってその後の治療は継続しないといけないという点かと思います。
昨日までおよそ24時間人工呼吸で管理をしていた犬さんも
僧帽弁閉鎖不全症という心臓の弁膜症を以前から持っておりました。
一昨日の朝、来院された時は舌の色も悪く、呼吸はとても辛そうな状態で
すぐに治療を開始しましたが、投薬への反応があまり認められませんでした。
結果、昼から鎮静をかけて機械に繋ぐという決断をし
丸一日寝た状態から、昨日の13時ぐらいに抜管しました。
で、今現状、酸素室の中で『わん、わん』と吠えてくれております。
みなとまちで働くようになって24時間以上、人工呼吸管理をする経験というものは
今回が初めてでありまして
正直、途中やや気持ちが折れそうな時もありましたし
ご家族様にもポジティブなことは言えないような状態ではありましたが
とりあえず元気な姿をご家族に見せることができ
無事に退院もできそうな感じなので
本当、諦めないで良かったなと思います。
あんまり自分で言いたくはないですが
年に一回か二回あるかないかのファインプレーだったように個人的には感じており
たまには自分自身を褒めてあげようかと思いますが
一番はしんどい治療を頑張ってくれたわんちゃん自身と
10%以下でも可能性があるならやってほしいと治療を任せてくれたお父様のおかげかと思っています。
ファインプレー的な診療を常時出せるように
もっと勉強しないといけないなとは思いますし
病院として、常に高いパフォーマンスを発揮できるように
スタッフを増やして、育て上げて
もっと強いチーム医療体制を築き上げないとなあ、と考えさせてくれました。
最近、モチベーションが以前よりも下がっているように自分の中で感じておりましたが
今回の子は、そこを戻してくれるきっかけになってくれたように思います。
やっぱ小動物臨床の仕事って結構楽しいかもしれません。
こういうことが起こるからやめられないのだと思います。はい。
すみません。長くなりましたので
もういい加減に終わります。
明日こそ腎臓病のことを書こう、と決意し
今日はこれでおしまいです。それでは。