抗菌薬(抗生物質)の適正使用
病院で処方されるお薬の中で
馴染みがあるせいか抗生物質に関心のある人は多いようでして
このブログでも裏ブログでも度々取り上げているので
しつこいかもしれませんが
皆様に知っておいていただいてもいいことだと思うので書こうと思います。
抗生物質という言葉自体は、現在の動物医療で一般的に処方している薬剤を考慮すると
あまり適切ではないかもしれません。
本当は抗菌薬と書く方が良いとは思いますが、抗生物質の方が馴染み深いと思うので
今回は抗生物質という表現方法で書かせていただきます。
抗生物質というものはそもそも細菌感染に対して使用する薬剤です。
細菌の増殖を抑えたり、細菌を殺滅することで感染症の治療を行うわけですね。
つまりは、基本的には細菌感染がない状態には抗生物質は使わない薬剤ってことになります。
ただ、多くの動物病院では毎日のように抗生物質って処方されているような印象を受けます。
ここを読んでいる方の中にも
今まで抗生物質を処方されたことのあるご経験をお持ちの方は多いんじゃないかなと思います。
実際、猫さんの膀胱炎症状だったり急性下痢症状だったり
犬さんの急性下痢だったり、皮膚の痒みだったり
あとは去勢手術とか避妊手術とかの術後に
自宅に帰ってからの薬として処方される場面が多いと思います。
猫さんの膀胱炎症状や犬さんの消化器症状や皮膚症状で、動物病院を受診するケースは
比較的多い部類に入る主訴だと思うので
おそらくほとんど毎日どれかの症状で診察する機会はあるかと思いますし
去勢手術や避妊手術もほぼ毎日実施している動物病院さんが多いと思うので
結果的に、毎日のように抗生物質を処方する場面って出てきてしまうんだと思います。
ただ、数年前に抗生物質の適正使用について言及された国際的なガイドラインみたいなのが出てから
ちょっとずつ変わってきているのかなとも思います。
実際、当院では上記のような疾患や理由で抗生物質を処方することはほぼありません。
『ほぼ』と書いたのは、一部例外があるためです。
猫さんの膀胱炎の中には、中高齢以上で感染性膀胱炎になる子が一部いらっしゃいますし
犬さんの皮膚疾患の中にも蜂窩織炎なんかの重度の感染症なら
抗生物質による治療が必要になるケースはあると思います。
ただし、いずれもきちんと培養検査や薬剤感受性試験なんかを実施して
細菌の存在や適切な抗菌薬を検査する必要はあるかと思います。
その上で使用する感じですね。
そんなわけなんで、僕がここ1週間で抗生物質を処方したのは一回だけです。
その子は皮下に膿瘍が溜まってしまって
それによって臀部の皮膚がほとんど壊死したような状態でした。
膿瘍からは大腸菌が検出されて、適切な抗菌薬の使用と創部の連日の洗浄によって
現在は快方に向かっているような感じです。
一日平均で30件ぐらいの病院なので
おおよそ1週間で200件弱ぐらいの診察件数の中で一件だけなので
抗生物質を必要とする患者さんって実際そんなに多くないんじゃないかなって思っています。
抗生物質の不適切な使用は、身体の中の正常な細菌にまで影響を与えてしまい
場合によっては嘔吐や下痢といった消化器症状を引き起こしたり
猫さんなんかは食欲が落ちてしまう子がいたり
抗生物質に耐性を持つ耐性菌が増えてしまうリスクがあったり、と色々と懸念事項があるので
本当に必要な時だけ使用したい薬剤だと思います。
去勢手術や避妊手術の後に抗菌薬を使用しなくなって3年以上経過するんですが
今のところ特に何かしらの問題になったことはなく
やっぱりいらなかったんだなあという気持ちが強いです。
2週間効果のある抗生物質の注射って前にブログでも書いたと思うんですけど
あれを今だに去勢・避妊手術後に注射されている動物病院さんもあるそうで・・・
注射をされる動物のことを考えれば可哀想なことこの上ないわけですが
それに加えて環境中での薬剤耐性菌の発生リスクなんかを考えると
お家の方にも影響は少なからずあると思うんですね。
動物だけじゃなくて、人間の身を守るという観点からも
抗菌薬(抗生物質)の適正使用って
これからは本当に大事な時代になってくるんじゃないかなって思いますし
できればそういう流れになって欲しいなって思います。
それでは、今日はこれくらいで失礼します。
上記の御見解に同意します。薬の過剰使用は薬剤耐性菌/ウイルスを生むリスクと副作用が心配。
逆に患者の不調の原因不明or確定診断に時間を要する場合、診断的治療(血液検査等で即時診断、試験的投薬を開始し薬の効き具合等経過観察の上対応)につき貴職御見解を賜りたく。
>藤井様
ブログへのコメントありがとうございます。
藤井様のご意見を元に、あくまで個人的な意見になりますが
診断的治療についてブログの記事として書かせていただければと思います。
よろしければそちらをご覧いただければと思います。
[…] 抗菌薬(抗生物質)の適正使用 に 藤井領一 より […]