薬剤耐性菌時代における犬の膿皮症の治療戦略
たまには獣医療雑誌からの内容でも。。
8月号のCLINIC NOTEより
『薬剤耐性菌時代における犬の膿皮症の治療戦略』
局所的抗菌療法の重要性について、です。
膿皮症はわんちゃんにおける代表的な細菌感染症で
特に今の季節に増える日常的な疾患の一つです。
さらに、近年では薬剤耐性菌に遭遇する主な理由としても認識されており
薬剤耐性菌時代と言える現在において
膿皮症は単純に経験的な全身性抗菌薬療法で治療する疾患ではなくなってきている
(抗生物質の飲み薬で治療する疾患ではなくなってきている)
のが実状です。
従来は犬さんの膿皮症に対する全身性抗菌療法の有効性が
高く評価されておりました。
しかし、薬剤耐性菌のリスクへの懸念やメチシリン耐性ブドウ球菌(MRS)の流行により
近年では、重症化した表在性膿皮症または深在性膿皮症に対してのみ
抗生物質の全身投与が推奨されるようになっています。
わんちゃんの膿皮症に適応される抗菌薬は
ブドウ球菌を抗菌スペクトルに含むことと
皮膚への移行性がある程度期待されることを条件に選定される必要があるとされ
2014年にISCAIDという学会よりガイドラインが発表されております。
このガイドライン中で、第一選択としてあげられているのは
セファレキシンやクラブラン酸加アモキシシリンだったりするので
フルオロキノロン系薬剤を皮膚での第一選択に使用することは推奨されてはおりません。
ビクタスとかバイトリルとか
一日一回の投与で済むからといって膿皮症の子に処方されている例を散見しますが
耐性菌発生の観点から考えても、やらない方が良い処方例だと思います。
また、第一選択として挙げられている抗菌薬も
近年は耐性菌発生の問題により
効果が認められないケースも増えてきております。
由々しき時代なわけですね。
そんな流れもあって
現在では、抗菌薬の全身投与よりもむしろ
局所的抗菌療法が推奨されております。
先ほどのガイドラインの中でも
『表在性膿皮症における局所的抗菌療法の推奨度は
全身性抗菌療法よりもはるかに高い』とされております。
この局所的抗菌療法の中で
最もエビデンスが多いのが当院も使用しているクロルヘキシジンですね。
このクロルヘキシジンは以前から局所的抗菌療法の中心的役割を果たしておりますが
薬剤耐性菌対策としても
今後より一層重要視されていくとされております。
で、今回のトピックの最後の方に書かれてあったのが
新規の局所的抗菌療法についてです。
クロルヘキシジンも消毒剤であるとはいえ
今後耐性菌が発生する可能性もないわけではありません。
何を隠そう、僕の大学の卒論のテーマが
日大の大学病院に来るわんちゃんから分離したブドウ球菌から
どのくらい消毒剤耐性遺伝子が検出されるか?を調べたものだったのですが
事実、消毒剤耐性遺伝子を保有していた株が3〜4%検出されました。
耐性遺伝子が検出される=消毒剤が効かなくなる、というわけではないのですが
今後耐性遺伝子を保有している細菌の割合が増えれば
状況は変わってくるかもしれません。
なので、クロルヘキシジンにプラスαの存在を考えていかないといけないわけですね。
ここで挙げられている新規の局所療法が三つありまして
次亜塩素酸ナトリウム、エッセンシャルオイル、トタラマキ抽出物になります。
次亜塩素酸ナトリウムは漂白剤に含まれるのでお馴染みかもしれませんが
生体に使って大丈夫なの?と思ってしまうかもしれません。
これは適切に希釈さえすれば、安全性も高く有効性も高いため
使用しやすいかもしれません。
後の二つは天然成分でかつ動物用の製剤が販売されています。
デルモセント社のPYOシリーズが上記のエッセンシャルオイルの報告を最も出しており
トタラマキ抽出物を含有した商品は
皆様お馴染みのアンチノールシリーズの新商品アンチノールスキンがそれに当たります。
データ未公表のものもあるみたいですが
どちらの成分もクロルヘキシジンと同等の効果を示したとするものもあるみたいなので
色々と治療のオプションとして試していこうかと思います。
そんなわけで
まだまだ暑い日が続きますが
皮膚の痒みなどでお悩みの際にも相談に来ていただければと思います。
それでは、今日はこの辺で失礼致します。