やらないという選択の責任
ここ一週間で食欲が落ちてきました。
体重も以前よりは減ってきています。
もう歳なんでしょうか・・・
という犬さん・猫さんのご家族が来院されることがあります。
ただ年齢を重ねるというだけで
食欲が落ちてきたり体重が落ちてきたりする動物というケースはあまりないと考えているので
そりゃあ、年齢のせいにできればこんなに楽な仕事もありませんが
一応真面目に仕事をしているつもりなので
身体検査からわかること、さらには血液検査などの他の検査の必要性を説明し、提案させていただきます。
そこから先は大きく二つのパターンに分かれます。
『ぜひこの際だからしっかり調べてあげてください!』とおっしゃるご家族と
『もう歳だから検査とか手術とかは結構です。』とおっしゃるご家族。
どちらの選択を取るかは
ご家族の事情によっても、今までのその子との関係性とかにもよるとは思うので
どっちが合っているとか間違っているとかはありません。
ただ、『検査をしない』を選択することって
そんなに楽な道のりでもないんじゃないかな、ということを今日は書こうかと。
積極的に検査をすすめて、治療を進めていく、ということは
一見、大変そうに思えます。
確かに、医療費はかかりますし、通院も大変ですし
投薬も頑張らないといけないし
場合によっては病気のことをしっかり知るために色々と勉強しないといけないかもしれません。
そういう意味では、お金がかかったり時間がかかったりするのでデメリットが大きいのかもしれません。
ですが、その子が今何に苦しんでいるのか?
何でこういう状態なのか?
どういう治療をしてどういう方向に向かえば、この子をより楽にしてあげられるのか?
その答えが色々と出てくる可能性があります。
あとは、治る病気なのかどうなのかによっても大きく変わりますが
一時的な症状緩和や寛解が可能でも、いずれはどうしようもなくなる可能性が高い疾患の場合
『疾患名がわかる』ということは
良くならない原因の責任を、最終的には病気自体のせいにできるんです。
僕が伝えたいニュアンスがきちんと伝わっているか自信がありませんが
僕としては、この責任の所在をどこに持っていくか、という点は
ご家族の精神衛生上、物凄く大事なものだと考えています。
どうせ助からないのに、診断名なんてわかって意味あるの?って考えるかもしれません。
ここはもう実際に体験した人しかわからないかもしれませんが
『意味がある』と僕は断言できます。
いまいちピンときていない方のために
今度は反対に、『検査はしません』派の場合を考えてみます。
・消化管に腫瘍性疾患のある可能性が高いです
なんかのケースで
『でもうちの子はもう歳だし、これ以上の検査は結構です。』となったとします。
消化管にリンパ腫ができているっぽいけど
針を刺したわけでも、内視鏡をしたわけでもない
それだったら抗がん剤なんかの治療は提案できないから
使うならステロイドぐらいかな、となってしまいます。
ステロイドを使用すれば、一時的に良くなるかもしれません。
でも、そういう瞬間は概ね短期間で
またいずれ症状は悪化します。
確定した疾患に対して薬剤を使用しているわけではないですから、当然の結果かもしれません。
そうなった時に、『まあ検査しないって決めたし、仕方ないよね。』
と、考えることができる方はこの選択も良いと思います。
ただ、『あの時検査したほうが良かったな』と後悔される方も少なくないですし
ステロイドや対症療法が効かなくなった時点で
他に何か方法はないのでしょうか?と選択肢を模索し始める人も少なくありません。
確定診断がついているわけではないので
そこまで積極的な治療はなかなか倫理的に難しい場合も多いです。
結局、できる選択肢はそんなに多くありません。
病気の正体がわかっている場合とは違って
何で症状が悪くなっていっているのか?
目の前の動物がなぜ苦しんでいるのか?
それに対しての明確な回答が得られないわけですから
なかなか精神的にはきついです。
先ほどの確定診断した例とは違って
病名がついていないと、症状悪化の責任を病気のせいにすることも難しくなります。
中にはご自身のことを責めるようになるご家族もいらっしゃいます。
『検査や治療をしないという選択をする』ということは
そういった責任を自分自身で背負う覚悟がある人が、選択するほうが良いんじゃないかと思います。
別に検査や治療だけに限った話ではなくて
去勢手術をしない、避妊手術をしない
フィラリア予防をしない、ワクチン接種をしない
そういう選択をとることも同じなのかなと思います。
去勢手術をしないから精巣腫瘍や会陰ヘルニアになりました。
避妊手術をしなかったから乳腺癌や子宮蓄膿症になりました。
フィラリア予防をしていなかったせいで、フィラリア症からの肺高血圧症になってしまいました。
そうなった時のその子の病気や症状に対して
ご自身が責任を全うできる覚悟をお持ちなのであれば、それはそれで良いと思います。
どちらを選択するかは、最終的にはご家族が決めることなので
病院側が無理やり何かを勧めることというのはできないわけですが
僕の経験上
『何かをする』選択をした人で後悔した人には一人も出会ったことがないですが
『しないこと』を選択した人の多くはご自身の選択に多少なりとも後悔されるケースが多いです。
あくまで自身の経験中での印象なので、全てに当てはまるわけではありません。
ただ、ご家族が後悔されている姿を見ることも
そういう結果となってしまった動物たちを見るのも
どちらもあまり嬉しいものではありませんので
基本的には検査や治療を勧めることが多いと思います。
大事な選択だと思うので
その場で直ぐに決めるのって難しいと思うんです。
だからこそ、健康なうちに日頃から家族で話し合ったり
ある程度の方向性を決めておくのは大事なことなんじゃないかなと思います。
それでは、今日はこのへんで失礼いたします。
いつもお世話になっております。
先生のお話、私は本当に大切なことだと感じています。話がそれてしまいますが3月に突然、猫の体調が悪くなり(胸水がたまってしまった)その後10日ほどで亡くなりました。
その時はまだ他の病院に通院していたのですが私達も突然のことで訳がわからず色々と先生に質問したのですがその病院の先生のお話の中で「今から原因を調べてもしかたない」のようなことを言われました。確かにそうだったのかもしれません。詳しい検査はできなかったんだと思いますが病名がわかならいままお別れになり今もモヤモヤ考えてしまいます。調べられるチャンスがあったなら知りたかったです。今でも辛いです。
>Chibi母様
お世話になります。コメントありがとうございます。
猫さんの胸水貯留はあまり良くないものが絡んでいることが多いのは事実かと思います。
ですが、心疾患・腫瘍性疾患・乳び胸など、原因によって治療や予後も大きく変わるのも事実です。
その時に何かお力になれれば良かったなと心苦しく思います。
今回のブログで思い出させてしまっていたら申し訳ございません。
できる限りの選択肢を提示できる動物病院であろうと思います。
いつもお世話になっております。
まだ3歳だった愛猫が原因もわからず日々弱っていく4ヶ月間。何も出来ずに最後の最後にセカンドオピニオンで先生に診断して頂き、大変な病気だという事がわかりショックは大きかったですが残された2週間、とても濃い時間を過ごす事が出来ました。もっと早くみなとまちアニマルクリニックで診てもらったら何かが変わったのかもしれないと今でも考えてしまいますが、どうして亡くなってしまったのか知れただけでも少し気持ちが楽になれたと思います。
まだまだこれから3匹がお世話になりますので宜しくお願い致します。
>クレアの母様
こちらこそいつもお世話になります。
クレアさんのこと、もっと長い時間を作り出してあげることができず、申し訳ありませんでした。
クレアさんの分も御三方のことは精一杯サポートさせていただければと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
猫の抗がん剤治療について調べていてここにたどり着きました。10月初め頃、11歳の愛猫が食欲不振となり、近くの動物病院へ行き、血液検査、猫エイズ、白血病検査を受けましたが原因がわからず、皮下点滴にて脱水緩和、ビタミン剤の投与で2日に1回病院へ通いました。
病院へ行っているにもかかわらず良くならない、原因がわからない状態が続き、大きな病院へセカンドオピニオンでかかったところ、すい臓線癌の可能性が高く、肝臓にも転移し、はっきり言って厳しい状況だといわれました。
もっと早く大きな病院を受診していれば・・・と自分を責めましたが、病名が付きそうなこと、助けてあげられないなら自分で調べてみようと言う前向きな気持ちになれ、診断を下していただけるということは大切だと実感。思わずコメントを残してしまいました。
まだ確定診断ではなく、細胞の検査結果待ちをしていますが、症例の少ない癌とのことで不安な毎日を過ごしています。
食欲はほぼ廃絶、水も自力で飲むことはないので現在は鼻カテーテルを入れて栄養と水分を補給しております。
自分より先に旅立ってしまうこと、11歳とまだまだの年齢だったこと、本当にこれでよかったのかと自問自答することもありますが、先生の仰る様に、しなかったことを後悔したくないので全力で緩和に取り組んでいきたいと思いました。
>あず様
猫さんのことで大変な日々の中、コメントいただきありがとうございます。
僕自身の犬の経験でもそうですし、仕事として患者様とお話しさせていただいても感じることですが
どんな選択をしても全く後悔しないなんてことはないんだとは思います。
ですが、『腹を括る』とでも言いましょうか、こうすると決めてそこに向かう時、人間は結構強くなれるんだなと感じることが多いですし
そういう選択をされた方が後悔されることは少ないように思います。
あず様のコメントからもそういった想いの強さというものを感じます。
病気の診断が下るということは、どのように病気と向き合うかの方向性に、決心の後押しをしてくれることにも繋がると思うのです。
たとえ、治すことができない病気だとしても、向き合う敵の正体がわかるかどうかは非常に大事なんだと思います。
大変な闘病生活の中、僕自身も勇気づけられるようなコメントをありがとうございました。
あず様の猫さんに僕は何もできないのですが猫さんとの日々が一日でも長く続くことを祈っております。