薬剤性腎障害とACEIとARBと
文字通り、薬剤によって腎臓に何らかの引き起こしてしまう状態のことです。
人間の医療分野では
この薬剤腎障害についてのガイドラインというものがあります。→https://cdn.jsn.or.jp/academicinfo/report/CKD-guideline2016.pdf
この中にも出てくる薬剤で
動物医療でも使用される頻度が高い物としては
鎮痛剤として使用されるNSAIDs(非ステロイド系の消炎鎮痛剤)とACEI・ARBかなあと思います。
NSAIDsがちょっと怖いこともあるんだよ、というのは前に書いたので今日は取り上げません。
気になる方は以前のブログを参照していただければ↓
なので、今日はACEI(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)というものとARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬)というものについて。
細かい薬の作用機序とか書いたところで
眠たくなるだけだと思うのでそういうのは書きません。
ざっくりと書いていきます。
ACEIは心臓に疾患を抱えている方は飲んでおられるわんちゃん・ねこちゃんがいらっしゃるかと思います。
腎臓病の子でも以前は処方されていた薬ですが
今は正直、腎臓病に対して何を目的に使用するのかはやや謎な薬です。
動物用のものでの商品名を具体的に挙げると
エースワーカーとかフォルテコールとかアピナックとかですかね。
フォルテコールを飲まれている腎臓病の方をよく見かける印象ではあります。はい。
このACEIは高血圧の治療薬として使用されていた経緯がありましたし
腎臓病に使用されている先生方はその作用か
もしくは蛋白尿を抑えるため?に使用しているんだと思います。
ただ、実際はあんまり血圧が下がらない印象です。
結構高用量で使用すればもっと変わるのかもしれませんが
血圧下げるにしても蛋白尿を抑えるにしても
他にもっと効果的な薬剤があるので
わざわざACEIを優先的に使用する理由は多くないように感じます。
なので、心臓病に僕が処方しているACEIは血圧を下げるためではなく他に理由があります。
それはまたの機会にして、とりあえず今日のテーマは腎臓と薬とさせてください。
お次はARBですが
こちらはACEIと作用する場所は近くてですね。
イメージはよりピンポイントに受容体をブロックする設計になっている感じです。
こちらの方がACEIに比べて、血圧を下げる効果であったり蛋白尿を抑制する効果が高いです。
動物用の商品名で挙げると
猫さん用のセミントラがこのARBにあたります。
当院では微調整がしやすいのと
安定供給が可能な点と
費用的な点から人間用のテルミサルタンを使用しています。
蛋白尿を認める犬さん・猫さんに使用する薬剤と考えていただければと思います。
蛋白尿自体が腎臓に対して悪影響を与えるとされておりますので
慢性腎臓病の管理の一つとして蛋白尿を抑制するというのは大事なポイントとされています。
という感じで
このACEIもARBも慢性腎臓病の管理に使用されたりする薬剤なわけなんですが
上記の薬剤腎障害を引き起こす可能性のある薬剤にも名を連ねているわけなんですね。
腎臓を保護するために使用した薬が
逆に腎臓を痛めつけちゃう、みたいな可能性があるわけです。
だからこそ、これら薬剤を処方する際は
適応・不適応をきちんと見極めなければなりません。
血液検査で慢性腎臓病と診断されたけど
尿検査も血圧測定もしていないのに
これらの薬を処方するということ自体はあってはならないわけです。
でも、こういう事態が日常的に行われているのが今の実情で
結果、薬を飲んでいるから余計に腎臓病が悪くなっている状況が疑われる犬さん・猫さんが
とても多い印象です。
確かに一つ一つ検査するのも
細かくモニタリングしながら少しずつ処方するのも
やや手間がかかりますし
もちろんそれだけ費用もかかってしまいますし
とりあえずクレアチニンやSDMAは高いから腎臓病でしょ、薬出しとこーってやる方が楽だとは思います。
そういった血液検査をしてから薬を処方する流れの中に
おそらく獣医師の思考はほとんど挟まれていなくて
ただただルーチンで処方されちゃっている場面が多いんだと思います。
処方された患者様側はそれが合っているのか間違っているのかなんてわかるわけもないですし
たまにたまたま処方が当たることもあるんでしょうし
こういう実情がなくなることはおそらく無いんだと思います。
難しいですよね。はい。
世の中にセミントラを処方されている猫さんってめっちゃたくさんいると思うんですね。
一度コロナの影響で薬が仕入れにくくなった時がありまして
その時にうちにも色々と問い合わせがあったので
おそらく相当数の猫さんが飲んでらっしゃるんだと思います。
確かに高血圧の猫さんの数はそれなりにいらっしゃるので
血圧を下げるために飲んでいるんであれば良いのかもしれませんが
血圧測定はしたことないです、とおっしゃるご家族が多いので
実際の処方目的はわかりません。
蛋白尿を呈する猫さんも犬さんほど多くないので
尿タンパクを抑えるために処方する場面もほとんどないと思います。
なのにたくさん飲んでいる猫さんがいるという感じになっちゃってるんですね。
こういうのを書いても何か現状を変えるような力は
このブログに無いのはわかっているのですが
どうにか変わらんのかなあといつも感じるんですね。
なんか愚痴みたいになっちゃってますし
これ以上書くと本気で怒られそうなんで、そろそろやめておきます。
とりあえず、慢性腎臓病と診断されて何かお悩みがある方は一度相談しに来ていただければと思います。
この薬は必要ですか?
皮下点滴って絶対にしないとだめですか?
尿検査なんてしたことないんですけど・・・
動物でも血圧って測れるんですか?
とか何でも良いです。
気軽にご相談ください。
それでは今日はこれくらいで失礼いたします。