犬さん・猫さんの慢性腎臓病について⑥〜治療編その5『腎性貧血』〜
本日のテーマは慢性腎臓病に伴う貧血についてです。
慢性腎臓病による貧血を腎性貧血と呼んだりしますが
多くは慢性腎臓病のステージ3以降になると問題となる病態の一つになります。
腎臓病になって何で貧血になるの??という疑問が出てくるかもしれません。
なので、まずはなぜ腎性貧血が起こるのか説明します。
腎臓は尿を産生するための臓器として認識されている方も多いかもしれませんが
赤血球がきちんと成長するために必要な
エリスロポエチンというホルモンを産生する臓器でもあります。
腎臓の機能が落ちてくる慢性腎臓病の進行により
エリスロポエチンの産生も低下し
結果的に赤血球が作られなくなってしまい、貧血になるという流れです。
あと、そうかもしれない的な感じで言われているのが
HIF(低酸素誘導因子)と呼ばれる酸素濃度の低下を感知する物質の作用が
慢性腎臓病の時には障害されているんじゃないかという考えもあります。
このHIFは先ほどのエリスロポエチンの産生に関わっているとされており
結果的にHIFが障害されると
エリスロポエチンの産生低下により腎性貧血になるという感じです。
赤血球は全身に酸素を運ぶ役割を担っておりまして
すべての臓器は機能を果たすためには酸素が必要になるので
赤血球が減ってしまう貧血という状態は
色々な臓器が酸欠になってしまう感じです。
もちろんそれは腎臓も例外ではなく
貧血により余計に腎臓は障害されてしまいます。
エリスロポエチンが出なくなるんなら、補えばいいじゃない。
その通りです。
なので、昔はヒトエリスロポエチン製剤が使用されておりました。
ただ、週に何回も打たないといけなくて大変だったり
抗体ができてしまうなど、使いにくい点もあったため
現在はダルベポエチンという持続型の赤血球増結刺激因子製剤が用いられることが多くなりました。
それにプラスして赤血球を作る材料でもある鉄を補ってあげます。
それが今の動物医療での腎性貧血の治療になります。
これだけだと特段新しい情報なんてないやん、となる方もいるかもしれませんので
今後、もしかしたら新しい腎性貧血の治療の選択として出てくるかもしれない薬剤を紹介して今日は終わりにしたいと思います。
先ほど、腎性貧血の起こる機序でも紹介したHIF(ヒフと読みます。)関連の薬が人間の方だと使われ始めています。
HIF-PH阻害薬と呼ばれるロキサデュスタットやモリデュスタットみたいな
◯◯デュスタットと呼ばれる薬が2019年ぐらいから発売され
現在5剤ぐらい出ており
色々と使い分けがなされているみたいです。
なんともカッコイイ名前の薬剤ですよね。
簡単に説明すると、HIFを分解する酵素をブロックして
HIFを増やして、エリスロポエチンをたくさん作ろう!みたいな感じの薬です。
動物医療でも今後、デュスタット系薬剤の使用が検討される場面も増えてくるとは思いますし
実際に使用しておられる先生ももしかしたらいらっしゃるのかもしれません。
人間だと注射薬より経口薬が良いので使用するという場面も多いみたいですが
動物だと逆に注射で入れることができる方が良いという場面も少なくありません。
経口薬だと使用場面が限られるかもしれませんが、薬剤選択の一つには入ってくるとは思います。
ただ、貧血を改善するだけでなく、血管新生なども行うみたいなので
血栓塞栓症のリスクや悪性腫瘍の増悪のリスクなどの懸念材料もあるみたいです。
今後に期待という感じだと思います。
腎性貧血についてはこんな感じでしょうか。
慢性腎臓病には進行してくると
食欲の低下、活動性の低下などの症状が出てくることが多いですが
それらの原因の一つになるのが今日の腎性貧血です。
慢性腎臓病を抱えている犬さん・猫さんにとっては
常に頭の片隅に置いておかなければならない病態かと思います。
それでは、今日はこのへんで失礼いたします。
いつも興味深く拝見させて頂いております。私の前猫は腎不全ステージ4の時ですら貧血は無くヘモグロビン関連の数値は正常値内でした。唯一の異常値は保護当初の活発な時期から既に血小板の数値が異常に悪く口内炎も相まって常時口元周辺に微かに薄い血と唾液が滲んでいました。初めて貧血状態に陥ったのは亡くなる1か月前からの1〜2日に1回の皮下補液を開始してからです。やはり血液が薄まるからでしょうか。蛋白尿やナトリウム、リン数値の異常もその時期と重なります。結果として腎不全ステージ2持ちの猫が1年以上コンベニア注漬けにされ最期はビルビリンの異常値、白血球値は最大基準値の数倍に至りました。この時点では流石に素人から見ても逝ってもおかしくない状態でした。血液検査の数値と猫に顕れる症状というのは個体差がありそうですね。というのも現在のシニア♀保護猫の場合、腎不全ステージ2でも基準値をやや下回り貧血気味です。かかりつけの病院は投与は微妙に早いとしタイミングを図っているようです。