心理的支援としての輸液
昨日は慢性腎臓病に対する輸液療法の適応について
ある種の文句みたいなことを書いておいてなんですが
今回は輸液療法を別の視点から考えてみたいと思います。
今年の獣医がん学会のメインテーマは
がんにおける終末期のケアでした。
そのメインシンポジウムの中で
タイトルにある『心理的支援としての輸液』というお話がありました。
日本における緩和ケアに関する講演会に参加した一般市民を対象として
アンケート調査の結果によると
終末期の治療として水分補給あるいは栄養補給のために
点滴を期待しているという人がおよそ50〜60%いたとされております。
また、別の報告では
終末期がん患者の76%と家族の85%が輸液なしでは栄養が足りないと感じており
患者の56%と家族の84%が輸液をしないことで寿命が短くなると考えていた
とされております。
この後半の報告の中の個人的な注目ポイントは
患者本人よりもそのご家族が、終末期の輸液療法というものに
強い希望を抱いている割合が多かったことです。
これはあくまで人医学の方のデータでありますので
患者本人の意思確認ができるケースも多くあるのだと思います。
そうすると患者本人とご家族の希望される治療が異なることもあるのだと思います。
動物医療において
患者様の希望される治療というものは基本的にご家族が希望される治療ということになります。
この報告に当てはめて説明するのであれば
動物病院で行う点滴療法というものに希望を持たれる患者様も多いのかなと思います。
僕たち動物医療従事者の仕事は
動物の病気に向き合うことでありますが
それと同時に、その動物達と一緒に暮らすご家族の心理的なフォローもするべきだと思います。
そういった側面から輸液療法の是非を検討すると
その治療が本当に医学的に効果のあるものかどうかはさておき
ご家族の心理的安定化につながるのであれば
動物医療における一定の効果のある治療としての意味もあるのではないかと考えます。
人医学の領域ではプラセボ効果というものは有名ですが
動物医療においても、ご家族に対するプラセボ効果というものはあると言われています。
何かやってあげたいけど、何もできることがないという現実を突きつけられるより
痛みの緩和やだるさの緩和など
何か動物本人にとって少しでも楽になる可能性のある治療があるのであれば、やる意味はあると思います。
昨日はこういう場面で輸液は必要ないと言ってみたり
今日はこういう場面では必要だと言ってみたり
どっちなん?となるかもしれませんが
要は動物やご家族にとってその治療が本当に必要かどうかだと思います。
必要ないのであればやらない方がいいですし
必要なのであればやる意味はあると思います。
当たり前のことかもしれませんが、結局はそれだけだと思います。
何が必要で、何が不必要か
そこをご家族とともに動物医療に携わる人間が
共に相談を重ねながら、必要なものを実施していく。
それが動物医療なのだと思います。
最後になりますが
本日は愛玩動物看護師の国家試験が実施されました。
受験された方、お疲れ様でした。
ぜひ合格するために勉強した知識を生かして、これから活躍の場を増やしていただきたいなと思います。
当院でも、動物看護師さんを募集しております。
ご興味のある方は一度ご連絡ください。
それでは、今日はこのへんで失礼いたします。