ニューキノロン系抗菌薬と若齢期の関節障害
雑誌の一部を紹介するシリーズ。
ちょうど今日届きましたSA Medicine143号『Extreme 抗菌薬』より
今日はニューキノロン系抗菌薬による関節障害について書いていきたいと思います。
当院はニューキノロン系抗菌薬を若齢期の動物に使用することはありません。
その理由は
若齢期の動物におけるキノロン系抗菌薬を原因とする関節障害が多くの動物で報告されているからです。
ニューキノロン系抗菌薬ってどんなものがあるかと言いますと
商品名だとバイトリル錠とかビクタス錠とかで
薬剤名だと、エンロフロキサシンとかオルビフロキサシンとかオフロキサシンとか
◯◯フロキサシンみたいなのがこの薬剤の仲間にあたります。
こういうやつですね↑
このキノロン系抗菌薬を原因とする関節障害が
幼若なビーグルさんで初めて報告されたのが1977年です。
その後も色々な動物で報告がなされており
それらの理由から
人医療及び獣医療において、キノロン系抗菌薬を若齢期に使用することは広く制限されてきました。
特に、幼若な犬さんは関節毒性に対する感受性が最も高いとされており
関節障害を認めた犬さんは跛行を示すそうです。
また、骨端成長板への毒性も報告されており
幼若なラットを用いた実験では、ニューキノロン系抗菌薬が骨の成長阻害を引き起こしたとされています。
こういった理由から
当院ではニューキノロン系抗菌薬を1歳未満の犬さん・猫さんに使用は禁止としています。
というよりもそもそも使用しないといけない場面ってどういう時なんだろう?とは正直思います。
何かめちゃくちゃ特殊な事情がない限り
ニューキノロン系抗菌薬を若齢動物に使用することはないんではないかなと思うわけです。
でも、こうやって書いていると
『いや、でもビクタス錠の能書には若齢期にも使えるよ的なことが書いてあるよ』というご指摘が出てくると思います。
その通り、確かにそのような記載はされております。気になる方はチェックしてみてください↓
https://www.ds-vet.jp/product/victas_ss/pdf/documents.pdf
ここにはあくまで常用量を10日間までの使用なら3ヶ月齢のビーグルさんに安全に使えたよ、と書いてはありますし
犬さんのビクタスの適応年齢は4ヶ月以上とホームページには書かれてあります。
一方で、5倍量で使用した場合に関節に病変があった症例がいたことの記載も能書の中にはあります。
これを受けてどう考えるかは獣医師の先生によって見解が分かれるところだとは思います。
ただ、これから成長していく子犬さんに
わざわざ関節障害や成長障害を引き起こす可能性のある薬剤を使用しようとは僕は思いません。
あと、なぜか下痢症状に対してニューキノロン系抗菌薬を使用されている場面を見かけることも多いのですが
抗菌薬を使用することで逆に腸内細菌をめちゃめちゃにしてしまわないのかなと、素直に疑問に感じるわけです。
何か理由があるのなら僕の勉強不足なので
もしご存知の方がいらっしゃれば教えてください。
特に使うこれといった理由がないのなら、本当にやめてほしいなと思います。
抗菌薬の乱用をいくら一つの病院単位で気をつけたところで
地域の耐性菌はなかなか減りません。
動物愛護週間的な感じで
下痢に抗菌薬を無闇矢鱈に使用するのは控えましょうキャンペーンとか始まればいいんですが
農水省もそこまではさすがにやってくれないですし
なかなか難しい問題ですね。
話が少し逸れましたが
今回の雑誌にも
『筆者らの施設では、ニューキノロン系抗菌薬を若齢期の動物に使用しないようにしている。』と記載されております。
当院でも絶対に使用しないようにしています。
命の危機に瀕しているような状況だったとしても他の抗菌薬という選択があるかと思いますし
投与によるデメリットの方が大きいと僕は考えておりますので、そうしています。
何かご質問などありましたらいつでもご遠慮なくおっしゃってください。
それでは、今日はこのへんで失礼いたします。