仙尾椎硬膜外麻酔
全身麻酔を実施する上で大事な要素というのが三つあります。
鎮静:意識を消失させる
鎮痛:痛みを取る
筋弛緩:筋肉の緊張を緩める
この三つがきちんと成立して、手術前後の周術期の管理というものがうまくいくのです。
これらのうち
痛みを取る『鎮痛』というものが上手くいっていないと
手術時の痛みによって動物は動いてしまいます。
動いてしまうと当然手術はできないので
無理やりに寝かせようと鎮静を深くかけたりするわけです。
そうすると、痛みは感じているのに動けない、みたいな状態となり
麻酔から覚めたときに、『痛あああーーい』みたいな感じで
わんちゃんはギャンギャンと鳴いてしまったり
猫さんも攻撃的になってしまったり
挙げ句の果てには手術後の回復が遅くなってしまったり
良いことは何一つありません。
そこで色々な薬剤を組み合わせてより良い鎮痛を実現することが求められるわけですね。
麻薬系&非麻薬系オピオイド、NSAIDs、α2作動薬、NMDA受容体拮抗薬などなど
色々とあるわけですが
どれも鎮痛はできても無痛というものを実現することは難しくなります。
唯一、無痛というものを実現できる可能性があるとすれば
局所麻酔薬によって神経伝達をブロックしてしまうことだと思います。
局所麻酔薬と聞くと馴染みがないかもしれませんが
人間だと歯を抜くときなんかの歯科処置だったり
手術をするときに腰に注射する薬に局所麻酔薬が用いられることがあると思います。
イメージがつきますでしょうか?
今日のタイトルの仙尾椎硬膜外麻酔は
仙骨と尾椎の間の隙間に局所麻酔薬などを投与する硬膜外麻酔となります。
適応となる手術は
下腹部の手術、肛門周囲、尿道の手術、膝蓋骨や前十字靭帯の手術など
主に下半身の手術となります。
上手く薬を投与することができれば
本当に無痛に近い状態を維持できるわけで
手術中の麻酔管理もすごく楽になりますし
何より、動物たちが手術中も手術後も全然痛がりません。
本当に切ったの!?って思うぐらいの状態です。
手術後の痛みが少なければ
動物たちにかかるストレスは軽減されますし
手術後に食事を取れる可能性も増えると思います。
そういった良い状態が維持されることによって
術後の傷の治りや全身状態の改善スピードも早まる可能性は十分にあるため
上手くいけば良いことずくめです。
ですが、どんな薬剤についても良いことだけではありません。
薬を使う以上、もちろんリスクというものは存在します。
局所麻酔薬による仙尾椎硬膜外麻酔のデメリット・リスクを挙げるとすれば以下のような感じでしょうか↓
投与部位の毛刈りをしないといけないこと
局所麻酔中毒の可能性
投与中・後の交感神経抑制の可能性
神経の損傷
針の刺入部位の感染
などでしょうか。
これらは対策と準備をすれば、命の危険に晒される可能性の少ないものですし
得られるメリットの方が多いと考えております。
今月は猫さんの尿道の手術をやることになりそうですので
その時は、この手術の効力が如何なく発揮される感じだと思います。
ずっと尿道閉塞で苦しんでいた猫さんなので
早くその苦痛から解放させてあげれると良いなと思います。
それでは今日はこのへんで失礼いたします。