猫さんの膀胱炎に抗菌薬を使用するか否か?
今日のテーマは、猫さんの膀胱炎です。
また、これかと思う方もいらっしゃるかもしれないですが
初めての方もいらっしゃるとは思うので、どうかお付き合いください。
なぜこのテーマにしたか?ということに関しては
これをブログで書こうかなと思わせてくれる出来事がちょうど今日あったからです。
それ自体は後述します。
で、猫さんの下部尿路疾患(頻尿とか血尿とかのいわゆる膀胱炎症状)に
抗菌薬(いわゆる抗生物質)を使用するかどうかですが
基本的には世界的なガイドラインに沿うのであれば、これを基準とします↓
『犬・猫の細菌性尿路感染症の診断管理に関するISCAIDガイドライン』
日本語訳したやつが落ちていたので、貼っときます。
2011年に出たガイドラインが2019年に改訂されたやつですね。
ご興味のある方は読んでみていただいても面白いかもしれません。
ただ、全部に目を通すのはすごくめんどくさいと思うので
一部、抜粋します↓
『下部尿路症状の証拠がある猫の治療を行う際に考慮すべき最も重要なことは
下部尿路症状の猫(特に若い猫)の大多数は細菌性膀胱炎ではないという認識である。
この集団では、猫特発性膀胱炎や尿石の方がはるかに一般的である。
猫特発性/間質性膀胱炎などの非細菌性疾患の動物では
診断を確定し、抗菌薬による過剰治療を避けるため、特に注意が必要である。』
こんな感じで猫さんの膀胱炎については書かれてあります。
簡単にまとめるなら
若い猫さん(大体8〜10歳以下ぐらいを目安と考えていただければ)の膀胱炎症状の原因は
特発性膀胱炎(いわゆるストレスが原因みたいなやつです)や尿石症が多く
細菌感染による細菌性膀胱炎は少ないです。
抗菌薬は細菌を倒すための薬剤であるから
膀胱炎症状を呈した猫さんに安易に投与するのは過剰治療となる恐れがありますよ。
ということです。
もちろん、割合は少ないですが
猫さんにも細菌性膀胱炎という病気は存在します。
が、多くの場合は基礎疾患が存在している(腎臓病のために尿が薄くなってしまっている、とか。)と
されております。
このような背景から
猫さんの細菌性膀胱炎を診断する際には、細菌培養検査が推奨されております。
じゃあ、結論どうですか?
4歳の猫さんが、頻尿を主訴に動物病院を訪れたと仮定します。
あなたは抗菌薬の注射や内服の処方をしますか?
たぶん、しないですよね。
ここを盲目的に抗菌薬を注射してきたのが日本の獣医療であって
そういう事態が続いているから、警鐘を鳴らすためにも
ガイドラインがわざわざ日本語に訳されているんではないかとも思います。
正解はおそらく尿検査によって(可能であれば細菌培養検査まで出して)
細菌性膀胱炎を確定してから抗菌薬を処方すべきだと思います。
というようなことを書いていると
他の病院さんの中で
当院は猫さんの膀胱炎には抗菌薬を使用しない動物病院
みたいな話になっているみたいなんですね。
なんかちょっと変わった治療方針だね、あの動物病院は。みたいな感じでしょうか。
いや、そういうことじゃなくて
細菌性膀胱炎やったらもちろん抗菌薬使うけど
猫さんの膀胱炎やったら使っちゃいけない場面の方が多いですよ、っていう話です。
おそらく普通に今この文章を読んでくださっている方々の9割以上の方は
猫さんの膀胱炎症状にすぐに抗菌薬を使用しない理由を理解してくださったと思うんです。
でも、そこの理由のところは汲み取っていただくことは残念ながらできません。
変わった動物病院だね、みたいな感じになってるんだと思います。
国際的なガイドラインとか、国からの抗菌薬使用の提言とか
そういうのにいくら従っていようが
ただ地域で少数派の治療方針は
異端児扱いを受けるという結果になるんだと思います。
難しいですね。
もしかしたら将来的には、やっぱり抗菌薬を使った方が良かったってなるんかもですし
そうなれば、うちの考え方がやっぱりおかしかったんや、って話になるわけですが
少なくとも2022年現在のきちんとした考え方としては
過剰投与をやめましょう、と言っているんです。
今まで使ってきた過去があったとしても、変化を求められているのであれば
そこは変わっていかなければならない点なんじゃないかなあ、と僕は思います。
思考停止した頭で少数派の意見を全否定するのではなくて
少数派の意見に耳を傾け、自分の頭で考えて、自分自身の考えを改める。
たったそれだけのことなのかもしれないですが
古くからの慣習とか凝り固まった経験則みたいなのが
それを邪魔させるんでしょう。
パラダイムシフトっていうものが起こるのには時間がかかりそうです。
それでは今日はこの辺で失礼いたします。