膵炎とリパーゼ
膵炎の診断、リパーゼについて考える的な講演を聴いたので
今日はそれをテーマに。
膵臓からは
アミラーゼ、トリプシン、リパーゼなど色々な消化酵素が分泌される中で
アミラーゼは炭水化物の、トリプシンはタンパク質の、リパーゼは脂質の消化に
それぞれが関与しています。
膵炎という病気は
本来膵臓から消化管内に分泌されるはずの消化酵素が
膵臓の組織の中で活性化してしまい
自分自身の組織を消化してしまうことで起こる病気になるのですが
膵臓もその臓器のほとんどをタンパク質で構成されているので
本来はタンパク質を消化するトリプシンが暴走してしまうことが
病態的には問題だとは思いますが
じゃあ、なんで診断の時にリパーゼを使用するの?て疑問が浮かびますよね。
これについては2011年のこちらの論文↓の中で調査されておりまして

こちらの論文の中に出てくる以下のグラフが示すように↓

膵炎を診断する際に
Spec cPLが400以上というのが
感度71%、特異度100パーセントということで
他のTLIとかアミラーゼとか以前のリパーゼとかと比較して
診断成績が良かったからなんですね。
なので、膵炎の診断に膵特異的リパーゼというものが用いられるのはこのためです。
実際に、現在の膵炎の臨床診断のグローバルスタンダードはなんですか?となると
1番に『少なくとも二つ以上の消化器症状があること』
その次に『Spec cPLの上昇』と『超音波検査で膵炎に好発する所見が存在していること』が出てきます。
それぐらい膵特異的リパーゼという検査が
膵炎の診断において重要なんですよ、ってことにはなるのですが
ここで注意なのは
前提として『少なくとも二つ以上の消化器症状があること』という点ですね。
ここの症状には
食欲不振、嘔吐、活動性の低下、多飲多尿、下痢、体重減少などが入ってきます。
裏を返せば
これらの症状がないのにリパーゼが高いからって膵炎とは言わないって話になりますし
元気で何の症状もないような犬さんで
リパーゼを測ること自体がナンセンスだということにもなるかもしれません。
これについては、来週の健康診断についてのセミナーの中でも触れたいと思いますが
健康診断項目にリパーゼが入っていること自体、あまり意味のないものということになりますね。
ちょっと話は戻りまして
さっきから膵特異的リパーゼという表現をしておりますが
他にもリパーゼってあるんですか?ってなると思うんですけど
実際には結構たくさんの種類のリパーゼが存在するみたいで・・・
臨床的に覚えとかないといけないものとしては
膵リパーゼ、胃リパーゼ、肝リパーゼ、リポ蛋白リパーゼの四つだと言われています。
これらのうち、膵臓のものと胃のものが脂肪の消化に関与し
肝リパーゼとリポ蛋白リパーゼは血液中の脂質の代謝に関わるそうです。
膵炎の診断においては
本来、全身循環にほとんど入らない膵臓のリパーゼを検出することが大事なので
膵臓に『特異的な』リパーゼというものを検出しましょう、というわけですね。
で、この膵特異的リパーゼの測定方法には大きく二つありまして。
一つは
免疫学的測定法を用いたSpec cPLですね。
これは抗体を用いた測定方法で、犬さんもしくは猫さんに特異的な抗体を使用し測定するので
より膵臓に特異的なリパーゼを検出することができるとされています。
もう一つの測定方法が、比色分析法という方法で
めちゃくちゃ簡単に説明すると
膵臓のリパーゼによって分解されるであろう基質が含まれるものと検体を合わせて
その結果生み出される生成物を測定することで、間接的にリパーゼの量を測定しようという方法です。
この基質にはいくつか種類があり
DGGRというものを用いた検査系は主に検査会社や大学病院で
トリオレインというものを用いたのが富士フィルムさんのv-LIPで
ジアセチンというものを用いたのがIDEXXさん院内測定機器のカタリストのLIPになります。
犬さんの膵炎の診断精度として
最も優れているのは前述の通りSpec cPLになるわけですけれども
これは外注検査でしか測定ができず
院内だとSNAPという半定量検査しかできないんですね。
数値で確認したい時はどうしても時間がかかってしまいます。
その点、臨床診断に優れているのが
比色分析法のDGGRで測定する測定系やv-LIPになるわけですね。
これらの膵特異的リパーゼもSpec cPLとの相関性がある程度あることは報告されておりますし
迅速性を考えると、臨床的には非常に有用とされています。
実際に、うちではv-LIPを使用しておりますが
膵炎の診断において、どうしてもSpec を測らないといけないなあという場面は
ほとんどないように感じております。
ただし、DGGR法やv-LIPについての否定的な報告も一応ありまして
本来、膵臓からの消化酵素が分泌されない病気である膵外分泌不全という病気のわんちゃんでも
Spec cPLの方は検出されなかったけど、v-LIPは検出される子もいたよー、という報告があったり。
また、ヘパリンを投与すると
先ほど出てきた肝リパーゼやリポ蛋白リパーゼなどが放出されることがわかっているのですが
実験犬にヘパリンを投与し、その後の各検査項目の数値を見た研究においては
Spec cPLは独自の動きをしたのに対し
DGGRやv-LIPは肝リパーゼの動きと同じような血中濃度の推移を示すことがわかっており
やはり、膵臓に対する特異性に関して述べるのであればSpecに軍配が上がるのだと思いますし
DGGR法やv-LIPの解釈には一部注意が必要とはされています。
あとは、これらのリパーゼの検査は
膵炎以外にも上昇したり、場合によっては過小評価してしまったりすることがあります。
例えば、腎疾患や心疾患の状態ではリパーゼが上昇することがある、というのが報告されていますし
検体が溶血していたり、黄疸を認める場合には
v-LIPは低く測定されてしまうということがわかっています。
高用量のステロイド使用時にはリパーゼが上昇するという報告もあったりします。
要は
検査の特性をきちんとしった上で
どのように膵炎を臨床診断していくか、というのが大事ということになります。
昔は、膵臓の病理検査が膵炎の診断の組み入れ基準に含まれていた時代もありましたが
実際に様々な疾患で剖検した犬さんの膵臓を調べた報告では
膵臓に病変が全くなかった犬さんは8%しかおらず
ほとんどの子が無症状でも組織的には膵臓に何かしらの異常があることがわかっておりますし
同じ犬さんの膵臓の中でも
急性の病変と慢性の病変が混在していることがあることもわかっています。
つまりは、膵臓の病理組織検査自体が膵炎の診断においては
あまり意味のなさない検査であることが示されておりますし
やはり、1番は症状があるかないかという点が重要になります。
長くなりましたので
今回の講演のまとめを最後に書いておきます。
①一つの検査の限界をきちんと認識すること
リパーゼの数値のみの診断は非常に危険であり
基本的には臨床症状ありきで、超音波検査を組み合わせて診断すること。
②測定法の特性を理解することが大事
比色法のの利便性を活かしつつ、必要に応じて免疫学的手法を検討すること。
③『膵炎以外』にもリパーゼが上昇する原因がないか、という点は常に疑うべき
特に腎疾患や心疾患の際のリパーゼの数値の解釈には注意が必要で
検体の溶血や黄疸なども加味して、リパーゼの数値を読み解くことが大事。
こんな感じですかね。
これをAIにパワポのスライドにしてもらい
今度、もっちーのyoutubeの方で動画としてあげるっていうのをやってみようと思います。
あとは、来週の健康診断についてのセミナーでも
今回の膵炎とリパーゼの話は触れると思いますし
リパーゼが高いという理由だけで
症状がないのに一生低脂肪食を食べさせられてしまっている
犬さんの多さを嘆くスライドも登場するかもしれません。
よかったらセミナーにもご参加ください→https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScDmRseXZkYAThXccT-qR13ELitZ1W5UyzJ4pO0uJ3Dq1eesg/viewform
それでは、今日はこのへんで。