犬さんの乳腺腫瘍
わんちゃんの乳腺腫瘍の手術って
定期的に実施する機会があるんですけれども
正直なところ、そこまで治療方法をアップデートできてないんじゃないかなと思うこともあり
ちょうど今月の雑誌で特集されていたので
復習・アップデートの意味も込めて
患者さんにも知っておいてほしいことの概要を書いていきます。
まずは疫学。
・未避妊の女の子に最も発生しやすい腫瘍
・平均発生年齢は8-11歳
・日本での好発犬種はダックスさん、チワワさん、トイプーさん
(これはただ人気犬種なだけだと思われます)
良性と悪性の割合については
昔は半々ぐらいと言われてたりもしましたが
これは大型犬が多い海外ベースの報告になるんですね。
小型犬だと25%が悪性、大型犬だと59%が悪性だったという報告もあり
犬種サイズにより悪性度が異なる可能性があると考えられているため
小型犬の多い日本だと、70%近くが良性になるのではないかと推測されております。
また、悪性腫瘍の中で転移を生じるものの割合は約50%とされており
多くの症例で適切な治療により良好な予後が期待できる疾患となっています。
ここで、うちの子は小型犬だし
良性が多いんだったら
別に放っておいたらいいやんって考える人もいるかもしれません。
ただ、乳腺腫瘍の嫌なところは
良性腫瘍が時間経過とともに悪性腫瘍に転化することがあるという点で
一般的に長期間無治療で放置することは推奨されておりません。
たまに、良性だから放っておいても良いよって前の動物病院で言われました、と
何年も前からある乳腺腫瘍をぶらさげて来院されるわんちゃんもいらっしゃいますが
そもそも、乳腺腫瘍の良性・悪性の確定は組織を取らないとできないもので
針を刺す細胞診だけでは良性・悪性の判断はつかない腫瘍ですので
乳腺腫瘍以外だったのならその話は成立しますが
乳腺腫瘍だと認識されているのであれば、その話はややおかしなことになっています。
実際、放置された結果、後述する炎症性乳がんに発展し亡くなった子を見たこともありますんで
基本的に乳腺腫瘍は良性だったとしても放置するのは良くないと思います。
長くなりそうなので、治療方法に入りますが
基本的には外科です。
前述のように犬さんの乳腺腫瘍は良性が多いこともあり
早期発見や外科手術により根治が可能となるため
外科手術を凌ぐ治療方法はないとされています。
なので、細胞診で乳腺腫瘍だね、と判断された場合は
基本的には外科手術を検討した方が良いと思います。
外科手術にも
①両側の乳腺を全部切除する術式
②罹患側の片側乳腺全部と反対側の第3-5乳腺を切除する術式
③片側乳腺全部取っちゃう術式
④領域乳腺を切除する術式
⑤腫瘤切除・単一乳腺切除のみ実施する術式
と、色々とあったりします。
①が一番侵襲性が高く、再発予防効果も一番高い手術で
⑤は侵襲性は低く、良性だった場合は費用対効果は高いかもしれませんが
再発予防効果はない術式になります。
犬さんの乳腺腫瘍は猫さんと違って良性の割合が高いため
切除範囲のバリエーションがたくさんありますが
ここらへんは専門家の先生の間でも意見がやや分かれる部分でもあったりします。
おそらく、患者さんの状態だったり、ご家族の意向だったりで
結局は色々と相談しながら決めることになるのではないかと思います。
あとは化学療法についても少し。
犬さんの乳腺腫瘍に対する化学療法に関しては
基本的に肉眼的病変(腫瘤があるやつ)には大きな効果を示さないとされていますので
切除できる腫瘤を切除しないで、抗がん剤という選択は意味がありません。
なので、乳腺腫瘍に対する抗がん剤治療の適応は大きく二つ。
①外科手術だけで根治することが難しい悪性どの高い腫瘍の再発と遠隔転移抑制
②臨床ステージが進んでしまっている悪性度の高い乳腺腫瘍や炎症性乳がんに対する緩和的治療
になります。
ただ、血管肉腫だったり骨肉腫だったりと比較すると
乳腺腫瘍に対する予後改善効果が見込める強いエビデンスを示す報告がないため
経験的には効果を実感することも少なくないですが
基本的には術後化学療法については、慣習的に実施されていることになります。
個人的には
目的に応じて、ドキソルビシンやトセラニブ、NSAIDsなんかを使い分ける感じになることが多いです。
最後に炎症性乳がんについて少し。
炎症性乳がんは悪性度が非常に高く
浸潤性・転移性が高い予後が最も悪い乳腺癌とされています。
過去には臨床診断名とされており
視診と触診で、板状腫瘤・硬結・浮腫・紅斑・熱感・疼痛があるかどうか
問診で急性経過かどうか
という感じで診断されておりました。
つまりは、あまり科学的な診断根拠もなかったわけですが
徐々に報告が増えており
細胞診の所見や病理検査の所見が明らかになってきました。
さらには、乳がんが急性に発症する一次性のものと
前からあった乳腺腫瘍が急に悪性化する二次性のものがあると分類されるようになり
少しずつわかることが増えてきました。
こういった経緯から
今後は
術前に炎症性乳がんを意識していなかったものの
手術をして病理検査をしたら炎症性乳がんと診断されたというケースが増えてくる可能性あります。
なので
元々あったにしろなかったにしろ、『急性の』乳腺腫瘍には非常に注意を払わないといけません。
というのも、この炎症性乳がん・・・
特殊な例を除き
基本的には外科手術が禁忌とされています。
これは、手術をすることで状態がより悪化してしまう可能性があるからなんですね。
ですので、できれば手術をする前に
炎症性乳がんを疑うことができ、診断につなげ
手術以外の治療法を選択するのが今のところはベストだと考えられています。
少し長くなりましたが
犬さんの乳腺腫瘍に対してはこんな感じでしょうか。
乳腺腫瘍は早期発見・治療介入ができれば根治が見込めることが多い疾患です。
乳腺にできた腫瘍は放置しないで
何かしらのアクションを起こしてあげる方が良いのではないかと思います。
それでは今日はこのへんで。