犬さんの特発性てんかん
痙攣発作を主訴に来院される患者様はそんなに珍しくなく
うちの場合ですと
月に何件かは、痙攣発作関連の症状を主訴に動物病院を来院されるイメージです。
その中でも、特発性てんかん(仮診断も含む)のわんちゃんを診察する機会が
最も多いかなと思いますので
今日はその特発性てんかんについてでも書こうかと。
まず、特発性てんかんの定義的なところから。
てんかんと診断するためには
・24時間以上の時間をおいて、2回以上のてんかん発作があること
・初発年齢が6ヶ月〜6歳の間であること
・発作が起きていない時間帯に身体検査や神経学的検査に異常がないこと
・血液検査に異常がないこと
などの条件があります。
この条件を全て満たした場合に
特発性てんかんである確率はおよそ7割ぐらいとされており
ここから先にMRI検査や脳脊髄液検査などに進むかどうかは
そのご家族様によって異なるとは思いますが
色々な事情もあり
一次診療において、上記の条件のみで
特発性てんかんと仮診断することも少なくありません。
で、てんかんに対する治療を実施するかどうかが
次のテーマになるわけですが
ここにもガイドライン上の治療開始の基準というものがあります。
・6ヶ月以内に2回以上のてんかん発作がある時
・重積発作や群発発作(一回の痙攣が長かったり、1日に何回も起こる)がある場合
・発作後の症状(盲目・攻撃性・沈鬱)がひどい場合や時間が長い時
・飼い主さんの希望
こんな感じでしょうか。
結局はご家族様との相談になるので
基準に満たしていなくても、ご家族の不安が大きい場合は
薬の適応となると思いますし
どうしても薬剤治療を実施したくない、という場合は
リスクも承知で経過観察を続ける場合もあると思います。
相談した上でどうするか決める感じですね。
じゃあ、てんかんに対する治療のゴールは何でしょう?となった時に
理想は発作を全くゼロにすることではあるのですが
現実的には難しいとされています。
なので、基本的な治療の目標としては
・発作の頻度を3ヶ月に一回程度にまで減少させる
・発作の重症度を軽くする
・発作後の症状を軽減する
なんかが治療のゴールになるかと思います。
これと同時に
抗てんかん薬による副作用は最小限にとどめるように努めないといけませんし
ご家族様のストレスの軽減という点も内科管理における重要なポイントです。
じゃあ、治療薬として何を選択しますか?ってなってきた時に
面白いことに
犬さんのてんかんに対する第一選択薬は
国・地域ごとにやや違うんですね。
ざっくり書くと
日本だと、ゾニサミドかフェノバルビタールか。
アメリカだと
フェノバルビタールかレベチラセタム。
EUやオーストラリアとかだと
フェノバルビタールかイメピトインが第一選択となることが多いみたいです。
これには色々な事情があるみたいでして・・・
海外だと大型犬が多いので
費用面からフェノバルビタールが選択されることがどうしても多くなりがちだったり
ゾニサミドのエビデンスがガイドライン策定時には少なかったり
その他、その地域の事情というものがあるみたいです。
日本国内だけで考えれば
僕の印象だと、昔の先生はフェノバルビタールよりで
最近の先生はゾニサミドよりなのかなと。
別にどっちが良い悪いではないのかもしれませんが
僕個人的には、フェノバルビタールの肝臓への障害がやっぱり嫌なイメージもあるので
ゾニサミドを基本的には第一選択する場合が多いです。
大型犬さんとかですとフェノバルビタールを選択することもありますが。
イメピトインに関しては
ヨーロッパを中心に使用されている薬剤ではあるものの
日本でも一応承認されているそうで
今後、日本国内でも発売される可能性があるみたいです。
イメピトインはフェノバルビタールと同等の抗てんかん作用を有し
副作用はフェノバルビタールよりも有意に軽減されるとされている薬剤なので
日本でも発売されれば、今後の第一選択の候補になるのではないかと思います。
レベチラセタムに関しては
1日3回投与という点と、費用がやや高めというのがネックではありますが
ジェネリックが発売されてからは処方しやすい値段になりましたし
安全性は、上記の薬剤の中で最も高い薬であり
副作用がほぼないと考えても良い薬剤になりますので
今後、エビデンスが蓄積されていけば
第一選択薬としてはもちろん
第二選択薬候補としても結構良いと思われる薬剤です。
あとは、臭化カリウムというお薬もありますが
相当な難治性のてんかんとかではない限り
最近はあまり使用されなくなった薬剤なのかなあ、と個人的には思っています。
好きな先生は、今もなお使用されているみたいですが
効果発現までの時間が長いのもあって
発作の症状に悩んでいる人の第一選択にはならないかなあ、という印象です。
実際、セカンドオピニオンに来られた当院の患者さんでも
他の病院さんで臭化カリウムを処方されているにもかかわらず
月に何回も痙攣をするというお話で
ゾニサミドに変えてもらったらピタッと痙攣が止まった子も経験しています。
個人的にはあんまり使用しないかなあ、というお薬です。
好きな先生がいたらすみません。
ダラダラと書いていたら長くなりましたので
これくらいで終わりにします。
今日は犬さんの特発性てんかんについてざっくりと書いてみました。
本当は各薬剤ごとの注意事項とかまで書きたかったですが
なかなか読むのもしんどいと思うので、それはまたの機会に。
それでは、今日はこの辺で失礼いたします。