犬さん・猫さんの慢性腎臓病について④〜治療編その3『高血圧の診断とその治療』〜
前回に引き続き
今日も慢性腎臓病の管理〜治療編〜を続けたいと思います。
今日のテーマは何にしましょうか?
では、高血圧の管理についてでも書こうかと思います。
報告によると
慢性腎臓病症例の19〜65%で高血圧の症例がいるとされております。
その中には、慢性腎臓病と診断を受けてからの発症もあるみたいなので
定期的な血圧測定というのはとても大事なモニタリング項目となるわけです。
人間の病院でも
内科の診察の基本的な検査項目の一つが血圧測定だと思います。
特に中年齢以上になると血圧測定というものは必須になってくるかと。
人間でやっているなら
動物でやらないのもおかしな話でありますので
中高齢の動物における血圧測定というものは非常に大事な検査の一つとなります。
しかし、動物医療における血圧測定には難点があります。
尻尾や四肢に血圧計のカフを巻いて測定をするわけですが
麻酔中ならまだしも、日常の検査の中できちんと測るというのは
なかなかの技術と経験が必要となります。
血圧を測定しています、と言っても
動物は何をしているかは理解できないので
動く子もいれば怒る子だっています。
そうすると、なかなか再現性が実現できないことも少なくありません。
周りの音や他の動物の声などにも反応してしまい
測定エラーとなることも多いので
可能であれば、お預かりして診察時間外で行うのが理想だろうなと考えております。
このへんの血圧測定方法の細かいところは
昨年、東京の心臓病センターに見学に行った際に
目の前でやり方を見ることができたのは大きかったように思います。
今まで測ることが難しかった子でも
測定することができる症例が増えたように思います。
なんか腎臓病から少し話題が逸れていってしまっておりますが
血圧が高くなると何が悪いのかと申しますと
色々な臓器に悪影響を与えるということです。
高血圧になることで臓器に障害が起こるわけですが
その代表的な臓器が腎臓なんですね。
高血圧により蛋白尿をはじめとする腎障害が起こるという感じです。
なので、高血圧がある子に関しては適切に血圧をコントロールしてあげて
慢性腎臓病の悪化を防ぎましょうというのが
高血圧の治療コンセプトとなります。
具体的な治療方法は薬剤投与を行いながら
血圧測定を定期的にチェックしていくような流れになります。
高血圧に対して使用される薬剤は主に二つ。
アムロジピンというお薬とテルミサルタンというお薬です。
テルミサルタンに関しては、猫さん用のセミントラという商品名で
ご存知の方も多いかもしれませんね。
今までセミントラは蛋白尿を抑えるための低用量バージョンしかありませんでしたが
ちょうど昨年、血圧治療にも適応となる高用量テルミサルタンも発売されました。
どっちを使用しますか?と聞かれれば
どのくらいのスピード感で血圧を下げたいか?にもよって変わってきますので
一概には述べられませんが
個人的な使用方法としては
わんちゃんもねこちゃんも、蛋白尿がなければ基本はアムロジピンで降圧を目指します。
蛋白尿がある場合は、テルミサルタンを優先して使用します。
ただ、犬さんで蛋白尿のある子はそこそこいらっしゃいますが
猫さんで蛋白尿を呈している子はあまり多くはない印象です。
ここらへんは次回の蛋白尿編でも書きたいと思いますが
来週からは院内で蛋白尿の定量検査であるUPCを測定できるようにしたいと思っています。
院内での尿検査も今までよりアップグレードするイメージですね。
話を戻しますが
二つの薬剤のうち、どうしてもどちらかだけで反応が悪い時は
慎重な投与が必要となりますが
この二つの併用も可能かと思います。
というか、僕の実家のダックスさんは当時併用しておりました。
が、投与量の調節がうまくいかないと
腎血流を逆に低下させ、腎数値は上昇
本人の状態の悪化を招くことも少なくありません。
血圧を調節する系の薬剤は、個人的には注意が必要な薬剤に入ります。
めちゃくちゃ細かいモニタリングが必要になると考えています。
ただ薬を出して本人の状態を定期的にチェックしないなら
むしろ出さない方が良いんじゃないかなとも思います。
あと注意点を挙げるとすれば
脱水がある時に血圧を下げる系の薬剤を使用するのも危険を伴います。
なので、皮下点滴をしないと維持できないような腎臓病の子が
これらの薬を服用することはかなりのリスクを伴うと考えた方が良いかと考えています。
プラスαで薬剤について補足ですが
ACE阻害薬という薬剤があります。
商品名で言うと、フォルテコールとかアピナックとかエースワーカーとか
そこらへんのお薬を腎臓病で処方されている場面を多く目にしますが
現状、腎臓病におけるACE阻害薬は使用されなくなってきていると考えていいと思います。
何を目的にしようするのかにもよりますが
蛋白尿の治療としても、高血圧の治療としても
他にもっと効果のある薬があるんだから、そっちを使う方がいいでしょ、というのが
これからの主流になっていくと思われます。
最後に血圧測定の頻度についてです。
現在どのくらいの血圧なのか?にもよりますが
血圧はどのくらいの頻度で測定した方が良いの?という指標が述べられております。
現状、高血圧による臓器障害が起こっておらず、治療には至らなかった場合について
収縮期血圧(いわゆる上の血圧)が<140mmHgの正常な子や
140-159mmHgの前高血圧の子は3ヶ月から6ヶ月に1回。
160-179mmHgの高血圧症例の子は2ヶ月以内にあと2回は測定しましょう
ってな感じです。
それ以上高い子はもっと早い段階で再度のチェックが必要で
どこかで治療介入が必要になる場合が多いと考えられます。
以上で慢性腎臓病に関連した高血圧関連の情報となりますが
ちょっとお腹がいっぱいになってきましたかね。
本当は高血圧と蛋白尿を一緒の記事にしたかったんですが
どうしてもこれも書いとこう!とか思うと
血圧だけでボリュームが多くなってしまいました。すみません。
今回はこのへんでおしまいにしたいと思います。
血圧管理は腎臓病だけでなく
循環器疾患の管理にも深く関わってくる項目になります。
この記事を読んでいただいて
『腎臓病って診断されたけど、この子の血圧っていくつなんだろう?』
って疑問が、皆様の中で出てこれば
長々と書いた意味もあったかと思います。
というわけで
今回は慢性腎臓病について④高血圧については終わりにします。
それでは。
次は蛋白尿とかですかね。