利尿剤の使い方
犬さんの僧帽弁閉鎖不全症と猫さんの心筋症。
その二つが獣医療における循環器内科の分野で
もっとも遭遇する疾患の二つだということに異論はないと思います。
これらの疾患はいずれも国際的なステージ分類というのがなされておりまして
ステージC以降が心不全症状を呈した状況
すなわち、犬さんの僧帽弁閉鎖不全症なら肺水腫が一般的ですし
猫さんの心筋症なら肺水腫・胸水・血栓症などがそこに該当するような感じです。
ステージC以降の治療こそ、循環器内科医の腕の見せ所とでもいいましょうか
獣医師の技量によって、予後が大きく左右されるステージだと僕は思います。
循環器内科の分野で使用される薬剤なんて、数は限られております。
いかにその限られた選択肢の中で上手く病態を把握して
その子の身体に合った処方ができるか、という点が獣医療の質の差に繋がっていると思います。
身体検査や心臓のエコー検査、血圧測定、血液検査、尿検査などを駆使しながら
病態を適切に把握し、細かい薬剤の処方を考えます。
言葉にするのはすごく難しいですし、ある種の職人芸みたいな要素もあると思いますので
誰しも真似できる芸当ではないと僕は考えています。
今日から視聴ができるようになったセミナーは
心臓病のコントロールには欠かすことのできない利尿剤の使用方法について
5人の循環器の先生が座談会のようなスタイルで討論している内容です。
同じ食材を使用しても
再現できる味は料理人によって千差万別なのと同様に
同じ薬剤を使用したとしても
使用するタイミング、増やし方、減らし方、飲ませ方、併用薬の有無、再診はいつにするか、などなど
その先生の使用の仕方によって、結果は大きく変わってきます。
なかなか患者様には伝わりにくい点だとは思います。
実際に動物病院に行って、利尿剤が必要だから出しますねと処方されて
処方された薬を自宅で飲む。
ただそれだけのことに思われるかもしれませんが
一口に『処方する』と言っても、そこは獣医師の知識や経験が凝縮された行為なわけなんです。
当院も使用している利尿剤にトラセミドという薬剤があります。
その4mg錠を当院は3/4、2/3、1/2、1/3、1/6、1/8、1/12、1/16のサイズ感まで調節して処方するわけですが
先日見学に行った心臓病センターの中では
5/8や、5/12などの微調整を行っていたり、1/32や1/48といった超細かいサイズの処方までされておりました笑
当院にそこまで細かくする再現性のある技術はありませんので
当院だと微調整をする場合は粉薬にしてしまうのですが
そこの病院さんは錠剤という剤型の中で、ものすごい種類の処方を再現しておりました。
いや、もう職人技です。はい。
そうやって色々なことにこだわることによって
結果的にテーラーメイドな治療というのが実現できるんじゃないかなと思います。
同じ年で、同じ犬種で、同じ病気、同じステージであったからといって
薬の処方が同じで良いはずがありません。
場合によっては、その子の性格、家庭環境、併発疾患なども考慮に入れるべき事項となります。
そんな感じで
病気を診るんじゃなくて、その子とそのご家族を診ることのできるのが
ちゃんとした内科医なんじゃないかなと僕は考えています。
そういう診療をこれからも続けていきたいです。
それでは今日はこのへんで失礼いたします。