1人の慢性腎臓病の猫さん
先週の金曜日に一人の慢性腎臓病の猫さんが亡くなりました。
その子が当院に初めていらしたのが一年と三ヶ月ちょっと前。
数日何も食べれていなくて、元気もなく、ぐったりしていた状態でした。
検査の結果、慢性腎臓病の可能性が高い15歳の猫さん。
初日の検査結果は、Creが10mg/dlぐらい。
獣医腎泌尿器学会のページに書いてある上図に当てはめるなら
完全なstage4ということになります。
Survival in cats with naturally occurring chronic kidney disease (2000-2002)
↑この論文は色々な場所で慢性腎臓病の猫さんの予後のための参照として挙げられますが
ここに書いてある数値を参考とするのであれば
慢性腎臓病のstage4の猫さんの生存中央期間はおよそ100日です。
つまりは3ヶ月と少し。
もちろん、中央値なので
もっと長く頑張ってくれる子もいれば、もっと短い子もいらっしゃいます。
CKDのステージ4の猫さんの生存期間を上から順番に取って行った時に
ちょうど真ん中に来るのが103日だったというだけです。
ですので、冒頭で言及した猫さんは
ものすごく頑張ってくれたことになります。
統計的な中央値のおよそ4倍の期間。
僕としてはすごいことなんじゃないかなと素直に感じています。
別に自分が施した医療がどうこうとかそういうのが言いたいわけではなくて
僕の個人的な見解としては
ご家族の献身的な介護が一番この予後改善に繋がったのではないかと考えています。
今でも覚えておりますが
この子が最初に当院にいらした時に
お母様は
『費用とか気にしないでこの子に一番良いと思われる治療をして下さい』とおっしゃいました。
そんなことを言われてやる気の出ない動物医療関係者なら
仕事を変えた方が良いと僕は思います。
とりあえず、入院治療、腎性貧血に対する治療、低カリウムに対する治療などなど
できる限りの治療をさせていただきました。
この一年間
投薬も大変だったと思いますし
月一回の来院も大変だったと思います。
ですが
いつも病院に来ていただいた時は大きな声で鳴いてくれたり
最後の最期まで綺麗なお顔を見せてくれました。
一昨日、お母様からご連絡をいただきました。
本当にただ眠っているだけのような安らかな最期だったそうです。
全ては、お母様の献身的な看病が
腎臓病の進行を遅らせ、より自然な形への最後に繋げられたんではないかと
僕は思います。
動物と生活をするということは
必ずと言っていいほど、別れの時というのは来てしまうわけでして
最期の時を迎えることは避けられません。
だからといって辛いことばかりではないと思いますし
動物たちはかけがえのない時間というものを僕たちに与えてくれる存在だと僕は思います。
動物病院にできることなんて、たかが知れているのかもしれません。
僕たちができることは、そういったご家族のサポートをするぐらいなのだと思います。
ですが、そのサポートをすることによって
動物たちのQOLの向上とご家族の心の安寧が得られるのであれば
それなりに意味はあることなんじゃないかな、とも思うわけです。
そんなことを考えさせてくれる猫さんでした。
最期まで診察させていただきありがとうございました。
今日はこの辺で失礼いたします。