健康診断と甲状腺ホルモン測定
昨日から始まった獣医学フォーラム。
今日聴いたセミナーの中で印象的だったものを一つ。
わんちゃんの甲状腺機能低下症についてです。
甲状腺機能低下症は誤診の多いので有名な病気です。
この誤診を防ぐにはどうしたらいいのか?というのが今回のセミナーの主題でありました。
どうやったら誤診せずに済むのか?
そもそも犬さんの甲状腺機能低下症はそんなに多い病気ではありません。
有病率が0.2%程度の病気とされていますので
カルテ数にもよるかと思いますが
わんちゃんのカルテ数が3000あるとしても6頭しかいないことになります。
甲状腺ホルモン製剤を飲んでいるわんちゃんが20頭もいるわけがないことになります。
(ちなみに当院にはいらっしゃるのはお二人だけになります。)
そんなに遭遇頻度が高くない病気であるにもかかわらず
健康診断の血液検査で甲状腺ホルモンを測定されたりすることが誤診にまた繋がります。
なぜ、健康診断で甲状腺ホルモンを測定してはいけないのでしょうか?
健康診断でありますから
基本的には何も症状のない子にやる検査となるわけであります。
そもそも何も症状がない犬さんの甲状腺ホルモンを測ることに意味はありません。
そこで甲状腺ホルモンが低いからといって、甲状腺機能低下症と診断してはいけないとされています。
じゃあ、甲状腺機能低下症の症状ってどんなものなのでしょうか?ということになります。
本セミナーでほぼ必発とされていた症状が『元気消沈』です。
元気がない、やる気がない、覇気がないといった感じのだるーい感じが主症状となります。
あとは、皮膚が分厚くなる、脱毛が起こるなどの皮膚症状も比較的多い症状であったり
痙攣発作や前庭症状といった神経症状を呈する犬さんもいらっしゃいます。
こういった症状のある子に対して初めて甲状腺ホルモン検査を測定することになります。
甲状腺ホルモン検査も
総甲状腺ホルモン(T4)、遊離甲状腺ホルモン(fT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を複合的に判断したり
最近ではTSH負荷試験という検査が復活したりしています。
しかし、ホルモン検査だけで診断するのは難しく
臨床症状があることが大前提であり
プラスで超音波検査やCT検査などの画像検査も組み合わせて
診断することが有用であるとのことでした。
また、治療反応性も非常に大事になります。
犬さんの甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが出なくなり症状を示す疾患であるため
基本的に甲状腺ホルモンを薬で補充すれば、症状は100%近く改善する疾患です。
薬を飲んでいるのに良くならないのは
誤診 or 違う疾患が併発している可能性が高いということでした。
上記のような内容が、犬さんの甲状腺機能低下症の概要になります。
基本的には
①臨床症状のある犬さんに対して、まず甲状腺機能低下症を疑う。
②ホルモン検査、画像検査により診断していく。
③甲状腺ホルモン製剤による治療反応性を評価していく。
という流れになるわけです。
間違っても何も臨床症状のない犬さんの健康診断で
甲状腺ホルモンを測るべき検査ではありません。
ホルモン検査もそんなに安い検査ではないので
同じ費用をかけるなら血圧を測定したり、尿検査をする方が有用だと思います。
ここ数年で健康診断を希望されるご家族の数もすごく増えてきております。
せっかく検査をするのであれば
できるだけ病気を発見できるきっかけにしたいですし
同じ費用をかけるのであれば
意味のある検査にしたいと考えて健康診断をするようにしています。
『健康診断時に甲状腺ホルモンは測定しないんですか?』という質問も受けますが
上記のような理由で、当院では健康診断項目には入れておりません。
健康診断や犬さんの甲状腺機能低下症について
ご質問などある方は、ぜひ当院までお越しいただければと思います。
それでは今日はこの辺で失礼いたします。